【世界から】中国で日本の給食が注目される理由

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 日本人にとっては当たり前に思える小中学校の給食が近年、中国で注目されている。動画サイトに「われわれが学ぶに値する」など称賛のコメントが並ぶが、関心を集めるのはそのメニューや味ではないのだ。日本の給食の何が魅力的なのか。そして、なぜ今?その背景を北京からリポートする。(北京在住ジャーナリスト、共同通信特約=斎藤じゅんこ)

 **▽「礼儀、感謝、協力…」! **

 日本の給食を世界に伝えたYouTube動画「School Lunch in Japan」(2015年、放映回数3100万回以上)が、中国でも2017年ごろから国民的携帯アプリの「WeChat(微信)」上で繰り返し広く閲覧されている。筆者が最初に目にしたのは、北京の小学生のお母さんが感心して閲覧していたからだ。そこに書かれていた中国の人のコメントは以下に挙げるように、日本の給食教育に対する驚きと敬意の声が圧倒的に多かった。 

中国IT大手のテンセントで放映されているYouTube動画の中国語版。中国語字幕では「日本の学校の昼食は単にお腹を一杯にするだけではなく、むしろ素養と教養」と訳が付けられている。

 「日本はどこも清潔だけど、実はこういう毎日の蓄積があるんだな。これこそ本当の素養教育だ」「礼儀、感謝、協力、自立、労働、衛生、環境など、一つの昼食で子供たちはこんなにたくさんのことを学んでいるんだ」「日本の子どもたちは、礼儀正しく秩序立っていて、喜んで人の役に立ち、食を無駄にしない。健康的かつ衛生的な食事、どれもわれわれが学ぶに値することばかりだ」_ _

 一般の日本人なら楽しく健康的に食べようという程度にしか意識していない学校給食だが、見る人によってその印象はこんなに違うようだ。興味深いことに、2019年末に英紙「ガーディアン」が伝えた日本の給食の注目点は自国のランチと比べた「ヘルシーさ」だった。一方、中国ではメニューに関するコメントはほとんどなく、生活教育面に関する称賛が大多数を占めた。

 また「これは恵まれた特別な私立の学校の話なのではないか?」と勘違いしたコメントもあった。後述するように、中国では、だんらんスタイルの給食は文化的な昼食に力を入れている私立の小中学校などごく一部に限られるからだろう。日本の給食は「ワンランク上」に映るようだ。

 **▽コロナ前から「黙食」 **

 中国の人が日本の給食になぜこんなに感心するかを理解するには、彼らが親しんだ給食のカタチを知る必要があるだろう。

 筆者が北京の公立校で目にした従来型の給食には、日本のような食育や生活・道徳教育の実践という教育的な側面は当初から組み込まれていないように見えた。

 ショックだったのは、全ての生徒が黒板を向いたままおしゃべり禁止のもと「黙食」する食べ方だ。日本人と中国人のハーフで、日中両国の給食を知る小学校6年生の男子生徒は、「中国ではおしゃべりすると減点されるから給食は楽しくない」と語る。

 子どもに限らず、食事をする楽しさの一つは、おしゃべりやだんらんだろう。しかし、日本の給食の前提になっている「食事を上手に楽しむ」という価値は、中国の教育の場ではまだ市民権を得ていないようだ。

 それ以前に、中国では一日の在校時間は日本より長いのに、給食にかける時間は約30分と短い。食事はさっと終わらせて残りの時間を宿題に費やしたり、昼寝をしたりするのが一般的だ。

 殺風景な給食の現状は、ごく少数だったが先の動画に寄せられた悲鳴にも似たコメントからも読み取れる。「(中国のわが子たちは)宿題さえ終わらす時間が無いのに、どこに(日本の給食に倣って子どもが各種の係の)仕事をこなす時間があるというの?」という。子どもは勉強で忙しくて、配膳など係の活動を通した生活学習はもちろん、楽しい食事なんてもってのほか!という焦慮感は従来型の中国の親の間では一般的なのかも知れない。

スマホアプリの「WeChat(微信)」の動画検索で「日本+小学+昼食」のキーワードで引くと42本がヒットした。ほとんどが8分のYouTube動画に手を加えたもので、題は「日本の小学校10元(約170円)のランチ、なぜ世界中を驚愕させるのか?」など。

 ▽点数だけでなく、全人格的な教育へ

 この点とも関連するが、中国の小中学校では長い間、試験の点数向上を唯一の最重要課題と位置付け、それ以外のクラブ活動や給食などはないがしろにされてきた。ただ、近年はその反省から「素養教育」(中国語で「素質教育」)や全人格的な教育の重要性が政府の方針でも市井の世論でも強調されるようになってきている。

 例えば、2019年6月に中国政府が出した『教育教学改革の深化 全面的な義務教育の質の改善に関する意見』では「全面的に素養教育を発展させる」とし、これまでの道徳、知育、体育、美術・音楽の教育に加えて、新たに「(生活のための)労働教育」の強化が組み込まれた。具体的には、家では子供に家事労働を、学校では日直などの当番活動に取り組ませるよう指示している。

 また、この新政策に関し北京師範大学の顧明遠教授は「素養教育を発展させ、『(詰め込み)受験教育』(中国語で「応試教育」)による妨害を克服すべきだ。現存する問題は学生の学業負担が重すぎるために、学生の健康のみならず、彼らの創造性や良好な道徳観の形成が阻害されている点にある」(中国教育報2019年7月12日)と指摘している。これは多くの親が感じていることだろう。

スマホアプリの「WeChat(微信)」の動画検索で「日本+小学+昼食」のキーワードで引くと42本がヒットした。題は「昼食時間はどんな教育意義を持たせられるか?」「深く考えさせられる『日本の小学生の昼食』」など。

 ▽なぜ今日本の給食なのか?

 日本で70年前からある給食に中国の人々が最近になって注目するようになったのはなぜだろうか? 先の動画のコメントにヒントがありそうだ。

 「自分の子供の頃を思い出しても、学校は点数、点数の毎日だった。(学校の給食係などで)人の役に立つことをちゃんと学んだことはなかった。もちろん勉強は大切だけど、より重要なのは人となりで、そうした行動は小さい頃から養うのが大切だよね」

 点数も大切だけど、人間それだけじゃないはずという、一歩駒を進め、余裕を持った人間的な考え方は近年、急速に(筆者の)周りの親たちの間で強まっているように感じる。背景には急速な経済成長やグローバル化に伴い、子どもの教育や将来像に関しても世界的視野や基準で考える親が増えていることがあるだろう。また、本質において、「成功」以上に、心身共に明るく健康に育ってほしいと子どもに望む親の心に国境はないのかも知れない。

 今、中国の人たちが日本の給食に「礼儀、感謝、協力、自立、労働、衛生、環境」教育を見いだして注目するのは、まさに、こうした価値を求める中国の社会的雰囲気が強まってきているからではないだろうか。われわれが当たり前と思っていた給食に対する「驚き」の糸を手繰っていったら、全人格的な教育を模索する近年の中国社会が浮かび上がってきた。日本の給食、われわれも見直して大切にしたい。