【井口&山内のBRZコラム】Vol.1:新型デビュー戦の思わぬつまずき。使いたいけど使えなかったソフトタイヤ

 いよいよスタートした2021年のスーパーGTシリーズ。開幕戦となった岡山国際サーキットでは、GT500もさることながら、GT300クラスでも最後まで勝負の行方が分からないレースが展開され、今季の激戦を予感させました。

 そんな今季のGT300クラスにおいて、新型マシンを投入したことで注目されるのがSUBARU BRZ R&D SPORT。戦闘力の増したクルマで、今年も上位争いに絡んでくることが予想されます。そのSUBARU BRZのステアリングを握る井口卓人選手と山内英輝選手が、オートスポーツwebにコラムを寄せてくれることになりました! ドライバーのふたりは毎レース後、交互に登場します。

 初回となる今回は岡山が“ホームレース”だった山内選手。予想外の苦闘となった開幕戦の裏側を教えてくれました。

 ★ ★ ★ ★ ★ ★

 みなさんこんにちは、GT300クラスでSUBARU BRZ R&D SPORTをドライブしている山内英輝です。今年、卓ちゃん(井口卓人)と交互に、このコラムを担当することになりました。

 さっそくですが、僕たちにとって厳しい結果となってしまった開幕戦・岡山の裏側を、みなさんにお伝えしたいと思います。

 ちなみに僕は兵庫県西脇市の出身なのですが、岡山国際サーキットは比較的近いということもあって家族全員が来てくれますし、昔からの知り合いも応援に駆けつけてくれる「ホームレース」です。

 今季、僕たちのドライブするBRZは、新型に生まれ変わりました。“正常進化”を謳っていることもあり、正直「ここが劇的に変わった!」という部分はあまりないんです。

 もちろん、空力パーツが変わっていることでの進化などは感じられるのですが、去年よりもフレーム自体の剛性を上げていることの影響なのか、よりタイヤへの攻撃性が強いイメージもあって、グリップが上がっている感覚はあるものの、路面の状態が悪いときにそれがあまりいい方向に行かないこともある感じで……。また、BoP(性能調整)により昨年よりも重い状態になっていることも、さまざまな面で影響してきているように思います。

 今回、公式練習の走り出しではクルマのフィーリングもすごく良く、硬いスペック(ハード)と軟らかいスペック(ソフト)、どちらのタイヤを履いてもタイムもほとんど変わらず、「これはすごくいい方向に行っているぞ」と感じていました。おかげで公式練習ではトップタイム。幸先のいいスタートでしたね。

 ただ、ソフト側のタイヤではロングランができていない状況だったんです。ダンロップさん的には、決勝で気温が上がって路面にラバーがのればもつんじゃないか、という話もあったのですが、実際にロングができていないというのがどうも不安で……。公式練習でもソフトとハードでコンマ2秒くらいしか変わらない状況だったこともあり、最終的にはハード側を選んだ方がいいんじゃないか、という結論になったんです。

 でもマーキングの関係で、予選に向けてはハードの新品は1セットしか残っていなくて、Q1をハード、Q2をソフトで行くことにしました。Q1のタイヤが(スタートタイヤの抽選で)選ばれたらラッキーだな、という感じでした。

 卓ちゃんがQ1に行ってくれたのですが、朝はハードでも1分26秒台前半が出ていましたし、Q1落ちにはチーム全員が「まさか」という感じで……。アタックを終えた本人は、とにかくずっと謝っていました。「あまりピークが感じられなかった」と。卓ちゃんとしても、いろいろ難しい状況だったと思います。

 僕自身は、「決まったことをどうこう言ってもしょうがない」と考えるタイプなので、この状況からどう抜け出そうか、ということしか考えていませんでした。

2021スーパーGT第1戦岡山 SUBARU BRZ R&D SPORT(井口卓人/山内英輝)

■スタート担当ドライバーへの、毎度のプレッシャー

 決勝は19番グリッドから、僕がスタートを担当。行けそうかどうか、ではなく「行くしかない!」という気持ちでした。

 僕たちはトップスピードが速くなく、レースが落ち着いてしまうと抜いていくのが難しいので、序盤の混戦のうちに順位を上げる必要があります。そこは僕も自信がありますし、実際去年は僕のスティントでは必ず前のマシンを抜いています。なるべく前で卓ちゃんにバトンタッチし、守り切るというのが僕たちの王道パターンです。

 でも、毎回プレッシャーなんですよ。チームからは「スタートでこれだけ抜いて、ピットインまでに何秒差をつけてこい」って言われますから(笑)。

 今回はスタートして数周で3〜4台を抜くことができました。だけど、そこから上がっていくのがなかなか難しかった。昨年まではもう少し重量も軽く、たとえば岡山ならトルクを活かしてWヘアピンを鋭く立ち上がり、次のマイクナイトコーナーまでに前に出る、というような戦いもできたのですが、今年は重量のせいかその加速の領域が良くなくて……。加えて、タイヤがハード側だったことでトラクションのかかりも厳しく、そこで勝負することができませんでした。一方で、タイヤのライフにはまったく問題がなさそうな感覚はありました。

 そんな感じでもがきながらレース中盤に差し掛かかる頃、Wヘアピンひとつめあたりを走っていたときに「1コーナーで黄旗!」と無線が入りました。数秒後、ピットロード入口ギリギリのところで「ピット入って!」と。前に10号車がいて、それに続いてピットへと飛び込みました。

 突然のピットインにも関わらず、チームは完璧な作業をしてくれたのですが、隣のピットのクルマがトラブってしまっていて、卓ちゃんが出ていくタイミングでロスがありました。ステイアウトしていた車両にラップダウンされてからのセーフティカー導入となり、後半はさらに厳しいポジションとなってしまいました。

2021スーパーGT第1戦岡山 SUBARU BRZ R&D SPORT(井口卓人/山内英輝)

 本来は45周目くらいまでピットインを引っ張って、前半の他のダンロップユーザーの状況を見て、後半のタイヤを決めたかったのですが、50周ほど残っている状態では卓ちゃんも僕と同じハード側を履くしかありませんでした。

 レース結果は15位。不安要素である決勝のロングランという部分は、ちゃんと走れましたし、確認できました。他のダンロップユーザーもソフト側を使ってちゃんと最後まで走れているようなので、その部分の不安要素は消えましたし、次から自信を持っていける部分もあると思います。

 ただ、いかんせん自分たちが決勝でソフト側のタイヤを履くことができなかったので、本当に大丈夫だろうか? という気持ちは完全になくなってはいません。決勝での周囲のラップタイムを見る限りでは、「軟らかいタイヤを使えるようにならないと勝てないのかな」と僕個人としては思っています。一発には自信があるので、「軟らかいタイヤでのロングラン」でライバルとの差を出せるように、これからも取り組んでいきたいと思います。

 今回のコラムは初回ということでレースの内容が中心になってしまいましたが、次回以降はさまざまな話題もお届けしたいと思っています。引き続き応援のほどよろしくお願いします! 第2戦後の、卓ちゃんのコラムもお楽しみに。

© 株式会社三栄