独立リーガーが見誤りがちな「現在地」 元四国IL理事長がポニーで説く“自発的な夢”

日本ポニーベースボール協会・坂口裕昭理事に話を聞いた

昨年まで四国ILの理事長を務めていた坂口裕昭氏

昨年まで独立リーグ・四国アイランドリーグplus(以下、四国IL)の理事長を務めていた坂口裕昭氏は現在、日本ポニーベースボール協会(以下、ポニー)の理事として野球界に携わっている。アスリートのキャリア支援会社を経営する一方で、弁護士としても活動。四国ILでの経験、経営者としての視点、弁護士としての知識を駆使しながら、少年野球界に新たな風を吹き込むポニーを支えている。

2011年に徳島インディゴソックスの球団社長に就任して以来、四国ILで9年を過ごした。その間には、増田大輝(巨人)、木下雄介(中日)、岸潤一郎(西武)、石井大智(阪神)ら数多くの選手がNPBに巣立つのを見届けた。同時に、プロ競技者として臨む野球に終止符を打ち、一般社会に活躍の場を変えた選手も数多い。いずれの場合でも、四国ILの卒業生に寄せる願いは変わらない。

「四国ではよく『どういうリーグにしたいですか?』と聞かれました。もちろん各地域のことも大事だし、リーグがちゃんと自立した経済力をつけることも大事だし、ファンを増やすことも大事。いろいろなことを考えますが、最終的に行き着くところは、選手たちが四国ILに所属したことで幸せな人生を歩むきっかけになったとか、その過程の1つとしていい思い出になったとか、何かの大切な気付きの原点になったとか、そういう場でありたいというのがモチベーションでした」

坂口氏が「当時の僕とまったく同じ気持ちだと思う」と言う存在が、ポニーで事務総長を務める那須勇元氏だ。子どもの未来と成長を第一に考え、2019年には「SUPER PONY ACTIONパート1」、2020年には「パート2」を発表。球数限度や低反発バット、怒声罵声に対するイエローカード制を導入したり、経済的支援が必要な子どもへの道具給付、海外や独立リーグに挑戦する選手に給付型奨学金、就職支援の新施策を打ち立てたり、これまでの少年野球界にない取り組みにチャレンジしている。子どものために何ができるか。こうしたポニーが貫く姿勢に共感したこともまた、坂口氏が理事に就任した理由でもある。

そしてもう1つ、四国ILで抱き続けた「もう少し早く、選手に人生におけるいろいろな選択肢を気付かせてあげられたら」という想いを解決できる場であると感じたからだ。少ない給料で野球を続ける独立リーグの選手たちは、NPBや海外リーグなどの道が拓けない限り、いつかは別の道を歩む選択をするのが現実だ。だが、NPB入り以外の選択肢が考えられず、故障して動けなくなるまで独立リーグでプレーし続ける選手もいる。

「増田や木下といった夢を叶えた選手たちはいいけれど、もう少し早く幅広い選択肢に出会っていれば、もっと野球で花開いたり、他の世界でもっと羽ばたけたりするだろうという選手たちをいっぱい見てきた。だからこそ、多感な中学生の頃から、どれを選んでいいのか困ってしまうくらい多くの選択肢やチャンスを掲示してあげたいな、と思うんです」

「プロ野球選手になる」「甲子園に出る」という目標は、本当に自発的なものか…

独立リーガーの多くは「目標がないわけでも夢がないわけでもない。むしろ夢の部分は明確だったりする」と坂口氏は話す。だが、往々にして見誤っているのが「現在地」だ。

「僕はいつも選手にこう説明していました。Googleマップで道を調べる時に何を入力するのか。当然、目的地を入力するけれど、現在地も入力しなければ道筋は見えてこない。君たちの目標はすごく正しいし、本気であることは信じて疑わない。ただ、君たちが今やっていることがその道筋に乗っているかは、傍から見ると疑問なことが多い。それはなぜかというと、多分、今の自分の立ち位置を見誤っているんじゃないかなって。

例えば、ステレオタイプに『プロになりたいです』『甲子園に行きたいです』と言う子たちに聞きたいのが、本当にそう思っているのか、達成した先に何があるのか、というところ。『なぜ甲子園なの?』『なぜプロなの?』という『なぜ?』を3段階くらい繰り返して答えられるんだったら、それはちゃんとした道筋が見えているし、自分の現在地を把握しているからなんです。だけど『周りの大人が言うから』『周りがみんなそうだから』『野球をやるからには当然』というのでは、自分の現在地が見えていない可能性もある。大人になればなるほど現実を直視しづらくなるので、中学生のうちから現在地を把握する習慣をつけておくことは大事だと思います」

子どもが掲げる「プロ野球選手になる」「甲子園に出る」という目標は、本当に自発的なものなのか。「周りの大人たちが誘導して夢を持たせている部分もあるんじゃないか。そこを解き放ったら、僕らが思っている以上の可能性を実現してくれるんじゃないかとも思います」と坂口氏は言う。

ポニーでは6カテゴリーでワールドシリーズ開催、海外の価値観に触れる機会を提供

四国IL時代に行った取り組みで、今でも選手から感謝されるものがある。それが2015年、16年、19年の3度にわたり実施された北米遠征だ。四国ILで選抜チームを編成し、米独立リーグの所属球団と試合を行う約3週間の遠征には、増田、木下、岸、石井らが参加。「元メジャー選手と米国の地で戦った経験を非常にありがたく思って、人生が変わったとか、考えが変わったとか言ってくれるのは、本当に苦労してやった甲斐があったといつも思います」と振り返る。

米国に本部を置くポニーでは、9歳から23歳までをカバーする6カテゴリーでワールドシリーズを開催。日本からも出場できるチャンスはある。また、日本協会では今年から少年軟式野球国際交流協会の事業を継承し、小学校低学年や女子選手にも世界を目指せる機会を提供。子どもの頃から海外の価値観に触れ、選択肢の幅を広げる場を設けている。

「国内で中学生を対象とする4つの硬式野球団体の中で、ポニーリーグは4番目と言われていますが、僕はこれが逆転して、ポニーリーグがスタンダードになる時代が来てもまったく驚きませんね。団体として苦しい時代があったからこそ、今は関わる人がみんなで一緒になって、いち早く現在地を見極めて、理想に向かって突き進んでいる。そして、中心には子どもを思う気持ちがあって、大人のエゴや勝利がすべてではない。メインストリームになる素地はあると思いますし、そうならないと意味がない。やっぱり万年野党ではいけないと思うので」

少年野球界の新風が、いつの日かスタンダードと呼ばれるようになるため、坂口氏もまた新たなフィールドでのチャレンジを続ける。(Full-Count編集部)

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