甲子園で8強、日体大では4番… オリックス右腕の兄はなぜ女子野球の監督に?

開志学園・漆原大夢監督【写真:学校提供】

開志学園の漆原大夢監督が女子野球について語る

第22回高校女子硬式野球選抜大会(3月27日~4月2日、埼玉・加須市)で初優勝した開志学園の漆原大夢監督が「Full-Count」のインタビューに応じた。優勝までの道のりを語った前編に続き、後編では指導者への転身の経緯や弟であるオリックスの漆原大晟投手への思いを語った。【石川加奈子】

最終回の7回に3点差をひっくり返して履正社に逆転勝ちした4月2日の決勝後、漆原監督のスマホには多くの祝福メッセージが届いた。その中には仙台での楽天戦を控えていた大晟投手からのものもあった。「すぐにおめでとうと連絡をもらいました。これに満足せずに頑張っていくと返信すると、弟からは何とか良い1年になるよう頑張りますと返ってきました。去年、結果が出た時にもすぐに連絡をくれましたし、気にかけてくれています」と感謝する。

オリックスのリリーフとして期待される弟とは週に2、3回連絡を取り合う仲良し兄弟だ。「私が野手出身なので、ピッチャー目線のアドバイスをもらったりします。技術的なことよりも考え方など勉強させてもらっています」と野球談義に花が咲く。

高校女子硬式野球選抜大会で初優勝した開志学園【写真:学校提供】

オリックス投手の弟・大晟とは頻繁に連絡を取り合い意見を交わす

女子野球の監督就任を報告した時にも、前向きな言葉をもらった。「野球を教えることには変わりはないし、将来のために勉強になると思うよと言ってくれました」。大晟投手がプロ入りする前の新潟医療福祉大時代には、実際に練習を手伝いに来てくれたこともあったという。

「プロ野球選手と指導者。立場は違いますが、お互い結果を求められる仕事をする中で、良い刺激をもらっています。兄弟であり、良いライバル。弟が頑張っているから、自分も指導者として結果を残せるようにと常々考えています」と漆原監督にとって欠かせぬ存在だ。

漆原監督自身、新潟明訓2年夏に「5番・一塁」で甲子園に出場し、8強入りした実績を持つ。日体大では「4番・一塁」でレギュラーだった。右の強打者として卒業後も選手を続ける道はあったが、開志学園男子野球部の川上大輔監督から声をかけられ、指導者の道を選んだ。1年間は男子野球部のコーチと寮監を務めた後、2017年春に女子野球部の監督に抜擢された。

「女子ならではの面白さもあり、非常に勉強になります」

男子のコーチをしていた時、初めて見る女子選手たちの真摯な姿勢に感銘を受けた。「年頃の女の子が野球のために親元を離れて寮に住んでいる。覚悟が違うなというのが第一印象でした。自主練をしている時に教えてくださいとアドバイスを求められたり、会話していく中で、非常に能力のある子たちが頑張ってやっていると分かり、なんとかサポートしたいという思いが芽生えました」と振り返る。

高校、大学とハイレベルな世界でプレーしてきた漆原監督にとって、女子野球の世界は新鮮だった。ライトゴロが当たり前だったり、2死二塁から単打で得点できないといった女子特有の場面を目の当たりにし、男子とは異なる戦略を練る必要を感じた。

「女子ならではの面白さもあり、非常に勉強になります。男子に取り入れてもいいんじゃないかと思うところもありますし、逆に男子のいいところを女子に何とか生かせないかとも考えています」と語る。女子の監督を務めると同時に、毎日授業で男子野球部員の指導も行っているだけに、日々様々なヒントが頭に浮かんでくるのだろう。

女子野球の固定概念に捉われず、新たな可能性を追求していく。「歴代の方々が築き上げたものが土台になっていると思うのですが、今度は我々がその土台のもう一歩先に進むことによって、女子野球のレベルも変わってくるのかなと思います。こうやった方が面白いんじゃないかとか、いろんな高校の先生たちと勉強させてもらい、学ばせてもらっています」。謙虚な言葉の裏には研究熱心さがにじみ出る。一流のプロ野球選手を目指す弟に負けじと、一流指導者への道をまっすぐに歩いていく。(石川加奈子 / Kanako Ishikawa)

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