「握手した手が大きかった」育成・坂本勇人が主将・坂本勇人と対面した衝撃

巨人・坂本勇人【写真:楢崎豊】

加藤健3軍バッテリーコーチは「伝わってくるものがある」と捕手の素質を高評価

目を丸くしながら、先輩たちのフリー打撃を見つめていた。その選手の名前は坂本勇人。巨人を代表する主将と同姓同名で注目され、佐賀・唐津から巨人にやってきた18歳の新人捕手だ。勉強する日々を送りながら、3月30日にはイースタン・リーグで9回代走として公式戦デビューも果たした。指導する巨人・加藤健3軍バッテリーコーチは高卒ながら「光るものがある」と言う。【楢崎豊】

テレビで見ていた人たちが目の前に……。「物凄いですね。中島(宏之)さん、亀井(善行)さんのバッティングはミート力もコンタクト力ももう……物凄かったです」。オープン戦期間中に、ファームで調整していたベテランたちの打球に衝撃を受けていた。

ジャイアンツ球場で主に3軍で練習をしているが、施設内では1、2軍の首脳陣や選手が行き来する。坂本主将とは「対面しました。『同姓同名だな』と言っていただき、握手をしてもらいました。手は大きいという印象が強く残っています」と力強さを感じ、自分が同じ巨人軍の一員である実感が湧いてきた。

阿部慎之助2軍監督からは打撃について助言をもらった。「キャンプの時に指導をしていただきました。ティー打撃の時から全力でバットをしっかり振りなさいと言っていただきました」。初めてのキャンプは怪我をせずに過ごすことができた。坂本は佐賀県内では高校1年時から注目を集める強打の選手だったが「プロは打撃も守備もすべての面においてレベルが高いです。この高いレベルの中でしっかりとやっていかないといけない」と必死にくらいついている。

1年目の今は、加藤コーチと一緒に体づくり、プロの捕手としての感性を磨いている。加藤コーチも1998年に新潟・新発田農から高卒で巨人に入団したため、18歳で故郷を離れる坂本の気持ちもよくわかる。周りが凄すぎて、地に足がついていなかった時代も過ごしてきた。

「坂本は守備も打撃も両方いいですよ。その中でも一番いいのは“声”ですね。捕手にはとても大事なことなんです。通る声、伝える声……。それに構え方もいいです。ミットを構えた時『ここに来い!』という雰囲気が伝わってきます」

高卒捕手がぶつかる問題に加藤コーチは「一段抜かしはせずに…」

加藤コーチは続けた。

「光るものはありますよ。『こういうことを次からやろうな』と話すと、次の日からそれを絶対に忘れないですね。当たり前のことかもしれませんが、当たり前のことができるって、この年では重要なんです」

高校までには教わらない世界がプロにはある。加藤コーチも入団間もない頃、一番、苦労したのが年上投手とのコミュニケーションだった。言いたくても言えない、言う勇気がない、言うだけの引き出しがない……。プレッシャーに押しつぶされそうな経験もした。

「技術の方はこれからもっと伝えて行きますが、高校生で経験していない準備の仕方を教えています。私も途中出場や代打から始まり、少しずつ気づかせてもらった現役生活でしたから。一段抜かしをせずに、一段、一段、伝えていきたいと思います」

坂本は加藤コーチの実体験のもと、コミュニケーションの取り方、投手の気持ちを理解することを今、学んでいる。

「捕手のすべてにおいての“奥深さ”を教わっています。少しずつ、慣れてはきていますが、まだまだだと思うので、これからも練習を積み重ねていきたいと思います」

育成・坂本勇人捕手の旅路は、まだまだ始まったばかり。一歩ずつ、一歩ずつ、周りのサポートを受けながら、大きな舞台へと歩を進めていく。

○坂本勇人(さかもと・はやと)2002年4月15日、佐賀県生まれ。小学3年生で野球を始め、浜玉中で軟式でプレー。唐津商では1年夏からベンチ入り。秋から正捕手で高校通算16本塁打。右投右打。2020年育成ドラフト6位で入団した。(楢崎豊 / Yutaka Narasaki)

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