初任給の季節

 愉快な言い間違いを集めた本を時々、気晴らしに開く。人を励まそうとして「当たってくじけろ!」。習慣なのか、自宅にかかった電話をお父さんが取って「はい、業務課です」▲緊張のためだろう。新入社員の頃の語録には“傑作”が並ぶ。朝、会社で電話を取って「いつもおはようございます」。少々お待ちください、と言うつもりが「少々お世話になっております」。思えば、新人の頃にしか言えない言葉かもしれない▲今月、社会へ船出した人も、時に赤面しながら新鮮な日々をお過ごしだろう。今はもう一つの新しいこと、初任給をもらう頃に当たる▲初任給のうち、自由に使える分をどうしましたか? 松井証券(東京)が、昨年社会に出た人に尋ねたところ、トップは「貯蓄」で7割近くを占めたという。続いて「趣味・娯楽」、「家族へのプレゼント」は3位にとどまる▲“貯蓄派”の大多数が「将来が不安」と答えた。コロナ禍でどうにも先が見えない。この春に入社した人は、もっと貯蓄に傾くだろうか▲初任給の使い道に記憶のない身で言うのも何だが、貯蓄分のいくらかを、感謝する誰かへの贈り物に回すのはいかがだろう。「初任給、出たよ。これまでありがとう」。これもまた、自立の一歩を刻んだあなたが、今しか言えない言葉に違いない。(徹)

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