日本一の鉄道旅行に「鉄印収集ツアー」

「鉄道なにコレ!?」(第19回)

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大塚 圭一郎(おおつか・けいいちろう)

共同通信ワシントン支局次長

大塚 圭一郎(おおつか・けいいちろう)

共同通信ワシントン支局次長

1973年東京都生まれ。97年に入社し、松山支局、本社経済部、ニューヨーク支局、経済部次長などを経て2020年12月から現職。運輸と旅行、国際経済の分野を長く取材。日本一の鉄道旅行を選ぶ賞「鉄旅オブザイヤー」の審査員を務めている。

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 優れた鉄道旅行商品を選ぶ「鉄旅(てつたび)オブザイヤー」の第10回となる2020年度日本一の「グランプリ」が4月21日に発表され、東北地方の第三セクター鉄道を訪れて御朱印の鉄道版「鉄印」を集めるツアーが栄冠に輝いた。審査員の一人である筆者は決選投票でこのツアーに票を投じており、四つの部門賞もそれぞれ最高得点を付けた商品が全て受賞したため、20年度に推したツアーが“100%当選”した。受賞したツアーの特色をご紹介しながら、筆者がそれらを選んだ「違いが分かる」理由を明かしたい。 (共同通信=大塚圭一郎)

「鉄旅オブザイヤー」2020年度の受賞者らの記念撮影=4月21日午後、さいたま市の鉄道博物館(鉄旅オブザイヤー運営事務局提供)

 【鉄旅オブザイヤー】国内の鉄道旅行に贈られる賞の代表格で「鉄道旅行のアカデミー賞」と紹介されたこともある。旅行会社がその年度の10月までに催行または開催を決めた国内の鉄道旅行を対象として応募を募り、日本一となるグランプリなどの賞を選ぶ。旅行業界でつくる鉄旅オブザイヤー実行委員会が主催し、後援にはJR北海道、東日本、東海、西日本、四国、九州のJR旅客6社全てと、私鉄でつくる日本民営鉄道協会、日本旅行業協会といった鉄道・旅行業界の主要企業・団体がそろう。

 東日本大震災で落ち込んだ旅行需要の回復を目指して2011年度に始まって毎年実施。旅行会社に贈る賞は実行委員会の一次審査で候補を選び、審査員は委員長の芦原伸・日本旅行作家協会専務理事や筆者ら計11人・1団体が務めている。企画力や独創性、乗車する列車や路線の魅力度などを採点して評価している。

 一方、JR旅客6社と地元自治体が開催する大型観光企画「デスティネーションキャンペーン」(DC)が翌年度に開かれる地域への旅行企画を一般消費者から募り、「ベストアマチュア賞」を選ぶ一般部門も16年度に加わった。20年度は過去最多81件の応募があり、受賞者は過去最年少9歳(応募時点)の東浦拓斗さん。作品名は「四国の三兄弟に会いに行く!小学生が考えた四国全県制覇の旅!!」だった。

「鉄旅オブザイヤー」2020年度の授賞式の様子=4月21日、さいたま市の鉄道博物館(鉄旅オブザイヤー運営事務局提供)

 ▽初の決選投票

 今回は新たな試みとして「決選投票」によってグランプリが選ばれた。添乗員が案内するツアーが対象の「エスコート部門賞」と個人旅行商品の「パーソナル部門賞」、20年度のDC開催地への旅行が対象の「DC部門賞」、鉄道ファン向けの企画を対象にした「鉄っちゃん部門賞」―の四つの部門賞を選出して4月7日に公表。その上で四つを対象に審査員らによる決選投票を実施し、結果は4月21日、鉄道博物館(さいたま市)での授賞式で発表された。

 グランプリに輝いたのは「鉄っちゃん部門賞」の「三セク鉄道のオリジナル印“鉄印”がもらえる『鉄印帳』付ツアー 9つの列車をツナグ!みちのく鉄道周遊」。20年度に始まって大きな話題を呼んだ御朱印の鉄道版「鉄印」の収集を切り口にした旅行商品で、地域経済振興や震災復興にも貢献したのが評価された。催行した第三セクター鉄道等協議会、読売旅行、旅行読売出版社、日本旅行が受賞した。

三陸鉄道のディーゼル車両36―700形(同社提供)

 鉄印は第三セクター鉄道等協議会に加盟する40の三セク鉄道を訪れて乗車券と記帳料(300円以上)を支払うと、専用の冊子「鉄印帳」に収集できる。各社によって図柄が異なり、手書きやスタンプ、プリントなどさまざまだ。40鉄道の鉄印を全て収集すると、「鉄印帳マイスターカード」を発行してもらえるというコレクター心理をくすぐる仕掛けになっており、鉄印帳は売り切れが続出した。同協議会によると、19年度決算で経常損益が赤字だったのは加盟40社のうち8割の32社に上った。20年度も新型コロナ禍による旅客減で総崩れの様相を呈しており、三セク鉄道にとって鉄印は収入を補う“福音”となった。

東北新幹線を走るE5系(筆者撮影)

 20年9~11月に催行された受賞ツアーは参加者に鉄印帳を用意し、岩手県の三セク鉄道の三陸鉄道とIGRいわて銀河鉄道、秋田県の秋田内陸縦貫鉄道の鉄印を収集できる。発着する東京駅から東北新幹線で往復するなど移動は鉄道が中心で、東日本大震災で被災後に復旧を果たした三陸鉄道では社員が震災時の様子を説明するなど社会学習の要素も採り入れた。旅行代金は観光支援事業「Go To トラベル」などの適用後で1人当たり2万6千~3万9千円で、189人の参加者を集めた。

 このツアーに60点満点で58点と最高得点を付け、決選投票でも票を投じた筆者は授賞式に寄せたコメントで鉄印について「20年度の鉄道旅行業界の代表的なヒット作となった」と高く評価。「第三セクター鉄道等協議会加盟40社を巡る鉄印集めを一時的な流行に終わらせず、四国八十八カ所お遍路のように定着させ、旅行者呼び込みの柱に育つことを大いに期待しています!」と訴えた。

「鉄旅オブザイヤー」2020年度のグランプリ受賞者らの記念撮影=4月21日午後、さいたま市の鉄道博物館(鉄旅オブザイヤー運営事務局提供)

 ▽2部門賞は九州への復興応援ツアー

 全体で四つの部門賞のうち半分となる二つの部門賞は、16年の熊本地震や20年7月の豪雨で大きな被害を受けた九州を訪れ、復興を応援する旅行商品が獲得した。

 添乗員が案内をするツアーを対象にした「エスコート部門賞」は、クラブツーリズムの東京駅を発着して2泊3日で熊本、鹿児島両県を巡る1人での参加者向けの商品「ひとりの贅沢(ぜいたく)『九州鉄道三昧~4社共同特別企画くまもと応援編~3日間』」が選ばれた。この商品は20年10月以降に催行し、20年7月に九州などを襲った豪雨で大きな被害を受けて全線で運休している第三セクター、くま川鉄道(熊本県)を訪問。また、豪雨後に一部区間が不通になった肥薩おれんじ鉄道(熊本、鹿児島両県)で沿線食材を生かした料理を楽しめるレストラン列車「おれんじ食堂」に乗車して東シナ海を眺めながら夕食を楽しんだり、16年の熊本地震で被災して一部区間の不通が続く三セクの南阿蘇鉄道(熊本県)のトロッコ列車に乗車したりして復興を応援する。旅行代金は「Go To トラベル」適用後で1人当たり15万1千円となり、売り上げの一部を支援金として各社に支払った。

 個人旅行商品を対象にした「パーソナル部門賞」は、JTBの「豊肥本線に乗ろう!阿蘇・熊本」が選ばれた。熊本地震で大きな被害を受け、20年8月8日に約4年4カ月ぶりに全線が再開したJR豊肥線の利用促進と沿線観光地の活性化に向け、関西発着で旅行代金を1人当たり2万5千円から4万円と比較的手頃に設定。運転席を2階に設けることで前面展望を楽しめるようにしたJR九州の観光列車「あそぼーい!」の乗車を提案した。

JR西日本の観光列車「ラ マル ド ボア」の車内=2020年9月、筆者撮影

 残る「DC部門賞」は、日本旅行の「せとうち広島デスティネーションキャンペーン JRで行く!瀬戸内スペシャル」が選出された。20年10~12月に開催された「せとうち広島DC」への旅行者の呼び込みを目指した商品。パンフレットではJR西日本の観光列車「La Malle de Bois(ラ マル ド ボア)」や「etSETOra(エトセトラ)」の乗車、広島県と愛媛県を結ぶ「瀬戸内しまなみ海道」のサイクリングといった幅広いモデルコースを提案した。

JR西日本の観光列車「ラ マル ド ボア」=2020年9月、筆者撮影

 ▽“100%当選”の理由

 筆者は13年度に審査員となってから8年目となり、19年度までの7年間いずれも最高得点を付けたか、それに準じるような高得点を付けたツアーがグランプリに輝いている。20年度は4部門賞それぞれで最高得点を付けた商品がいずれも受賞し、決選投票で票を投じた商品がグランプリに輝いたため、“100%当選”の「完全試合」となった。

 筆者は前述の通り計11人・1団体の審査員の1人に過ぎないため、採点の影響力は限られている。にもかかわらず推したツアーが軒並み受賞しているのは、鉄道および旅行に通じた他の審査員の方々の多くと採点するベクトルが一致しているからだと確信している。それは応募作品が参加者に満足感を与え、コストパフォーマンスも高く、旅行先の鉄道会社や地域経済の振興にも一役買うような「プロの仕事」とうならせる内容かどうかだ。

 20年度の受賞商品を見ると、いずれもこれらの条件を満たしている。また、筆者は審査員に就いてから報酬を一切受け取っておらず、20年度は謝礼の申し出をいただいたものの辞退した。完全なボランティアとして襟を正し、客観的かつ公平中立に採点しているのも優れたツアーを見抜く“審美眼”につながっていると自負している。このような姿勢は20年度に最高得点を付けてグランプリを受けた商品が、勤務先と競合する新聞社のグループ会社が携わった商品であることからも理解いただけよう。

 採点に当たってよく尋ねられるのが、「応募商品に参加してから採点するのか?」という点だ。実を言うと、筆者はいずれのグランプリ商品も審査前に参加したことはない。というのも、筆者は審査員を務めている8年間のうち鉄道旅行が活発な東京にいたのはわずか約2年半だったという事情があるからだ。13年8月から16年10月までの約3年2カ月は勤務先の共同通信社ニューヨーク支局に駐在し、18年12月から20年9月の福岡支社を経て、20年12月からワシントン支局で勤務している。

 中には「参加していない旅行の内容を、どうして採点できるのか」と首をかしげられることもある。自腹で旅行代金を支払って参加し、採点すればより細かい項目まで採点できるのかもしれない。だが、筆者は国内では東京都と大阪府、松山市、福岡市で暮らし、47都道府県全てを主に鉄道で訪問してきた。このためツアーの行程といった情報を見れば、参加しなくてもコンセプトや見どころ、セールスポイントなどをかなり把握できる。

 新型コロナウイルス禍は日本各地の鉄道や地域経済に大きな打撃を与えており、回復の道筋をつける有効な手段の一つとなるのが経済への波及効果が大きい鉄道旅行だ。筆者も鉄旅オブザイヤーの審査員を無報酬のボランティアとして続けさせていただくことで、誠に微力ながら鉄道旅行の発展に貢献するとともに、新型コロナ禍の打撃に苦しむ各地の鉄道と地域経済が力強く立ち直れるように地球の反対側から応援していきたい。

 鉄旅オブザイヤーのホームページはこちら。https://www.tetsutabi-award.net/

※「鉄道なにコレ!?」とは:鉄道と旅行が好きで、鉄道コラム「汐留鉄道倶楽部」の執筆者でもある筆者が、鉄道に関して「なにコレ!?」と驚いた体験や、意外に思われそうな話題をご紹介する連載。2019年8月に始まり、ほぼ月に1回お届けしています。ぜひご愛読ください!