東京五輪組織委が看護協会に「看護師500人を動員」要請する横暴! “国民の命より五輪ファースト”は検査やワクチンでも

TOKYO2020公式サイトより

ついに開催まで3カ月をきった東京五輪。開催に反対する声は日に日に高まっているが、そんななか、目を疑うようなニュースが飛び込んできた。

なんと、東京五輪組織委員会が、日本看護協会に対して「約500人の看護師を大会スタッフとして動員しろ」と要請していたことを、25日にしんぶん赤旗がスクープしたのだ。

今回、しんぶん赤旗は組織委が日本看護協会に出していた要請書を入手。それによると、組織委は〈新型コロナウイルス感染症等の感染拡大に伴い、看護職の確保が不十分な状況に至っております〉と説明し、競技会場や選手村の総合診療所(発熱外来含む)、選手村分村、宿泊療養施設などで対応にあたる看護師約500人を集めるよう要請。さらに、5〜7月に予定されている研修への参加を「必須」とし、〈参加日数は原則5日以上。早朝、深夜も含め、1シフトあたり9時間程度〉となっている。

だが、驚くべきは、この要請文が昨年や今冬に出されたものではない、ということ。なんと、つい最近の今月4月9日付で出されたものなのだ。

4月9日といえば、感染拡大にともなって菅義偉首相が東京都と京都府、沖縄県に「まん延防止等重点措置」を適用すると決定した日だ。いや、それ以上に大阪府では2日前の7日に重症病床の運用率が90%を超え、「大阪コロナ重症センター」では30床を運用するのには120人の看護師が必要であるにもかかわらず70人しか確保できていないことが問題になったように、看護師不足が深刻化。つまり、医療従事者の不足による医療崩壊が巻き起こっていたのだ。

看護師の手が足りずに病床が逼迫し、医療崩壊が起こっている、まさにそんな最中に「看護師を確保して動員しろ」と迫る──。しかも、前述したように、要請文では〈感染拡大に伴い、看護職の確保が不十分な状況〉と書かれているように、こうした医療崩壊の現状を組織委は認識した上で「五輪に看護師をよこせ」と要求しているのである。「鬼畜の所業」としか言いようがない。

そもそも、東京五輪を開催するにあたっては、期間中に医師・看護師が約1万人必要だとされている。それでなくても感染拡大で医療従事者の手が足りていないのに、くわえてそこにワクチン接種も重なる。これだけでも先行きが見通せていないにもかかわらず、約1万人もの医師・看護師を東京五輪に投入することなどできるはずがない。

だが、それでもなお、菅首相も組織委も「東京五輪開催」の方針を曲げようとはしない。そして、看護師の確保が最重要課題になるなかで、このような正気の沙汰とは思えない要請を出していたのである。つまり、組織委と政府は、全国で医療崩壊を起こし、国民を命の危険に晒してでも五輪を開催する、というのである。

●医療従事者の定期検査も実施できていないのに五輪選手には毎日検査! ワクチンも五輪選手優先

いや、「国民の命よりも東京五輪ファースト」という問題はこれだけではない。たとえば、菅首相は前回の緊急事態宣言の解除を決定した際に「高齢者施設など3万箇所で3月末までに検査を実施する」と述べていたが、4月12日までにおこなわれたのは約2万施設にとどまっており、さらに無症状者へのモニタリング検査も「4月には1日5000件規模」と言っていたのに、4月12〜18日の検査数は1日平均1450件にすぎない(東京新聞23日付)。にもかかわらず、東京五輪では参加選手に原則毎日検査をおこなうという。

東京五輪でマラソン競技が開催される札幌市では16日、看護師らが「看護師に定期PCR検査もせず五輪かよ」という横断幕を掲げて定期的なPCR検査の実施を求める訴えをおこなったが、国民はもちろん、医療従事者でさえ満足に検査をおこなえていないのに、選手にだけは毎日検査というのは、まったく道理が通らない。

「日本人選手にワクチンを優先接種する」という問題も同じだ。14日に自民党の下村博文政調会長が「来月(5月)中旬ごろまでには選手へのワクチン接種を含め議論していきたい」と発言したように、高齢者や基礎疾患のある重症・死亡リスクが高い人を差し置いて五輪選手というだけでワクチンが優先接種される可能性は高い。

菅首相が国際オリンピック委員会のトーマス・バッハ会長の来日の前に緊急事態宣言を解除する方針であることからも「国民の命よりも東京五輪」と考えていることは明白だが、その東京五輪の開催を強行することによって感染拡大と医療崩壊が起こっても、菅首相にも組織委にも責任はとれない。失われてしまった命は戻らないからだ。

しかも、これは国内だけにかぎった問題ではない。インドで猛威を振るっている二重変異株が国内でも確認されたように、3カ月後、世界がどんな状況になっているかは誰にもわからない。ニューヨーク・タイムズは12日付の記事で「東京五輪は3週間のスーパースプレッダー・イベントとなり、日本中いや世界中に死と病を引き起こす可能性がある」と警鐘を鳴らしたが、これが現実となる可能性も十分ある。

だが、そうした課せられた重みについて、菅首相も組織委も一顧だにしない。これは端的に言って棄民の発想としか言いようがない。私たちはいま、この狂った判断によって生命・健康が脅かされ、見殺しにされようとしているのだという自覚をもっとはっきりと持つべきだろう。
(編集部)

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