かつて倉敷では、薄荷(はっか)の栽培が盛んに行なわれていました。
1873年から1941年における日本の薄荷の生産量は、世界1位。
岡山県の国内シェアは、北海道に次いで2位だったそうです。
倉敷でも特産品として栽培されていましたが、高度経済成長に伴って農家が減少し、薄荷の栽培は衰退してしまいました。
「吉備のくに未来計画」は、倉敷における薄荷栽培の歴史を振り返り、復活させることに成功。
育てた薄荷を活用した商品開発を行ない、倉敷市内にある店舗「倉敷薄荷」とオンラインショップで販売しています。
倉敷での薄荷栽培の歴史や取り組みへの想いについて、倉敷薄荷の所長で、倉敷市地域おこし協力隊としても活躍する岩崎 真子(いわさき まこ)さんに話を聞きました。
「倉敷薄荷」とは?
「倉敷薄荷」の概要
「倉敷薄荷」は、倉敷で育てた薄荷を活用した商品の販売所です。
合同会社 吉備のくに未来計画が運営しています。
倉敷市立美術館の西側、約100メートルの位置にあるかわいらしいレトロな建物。
大正時代に建てられた民家を改装したそうです。
倉敷薄荷の正式な名前は「倉敷薄荷陳列所」。
かつて倉敷で盛んに薄荷が栽培されていた歴史と照らし合わせ、古風な名前がつけられています。
店内は木製の柱や梁があり落ち着いた雰囲気。
薄荷を蒸留するためのガラス器具が目を引きます。
吉備のくに未来計画
合同会社 吉備のくに未来計画は、倉敷の資源や特産品を活用してまちづくりを行なっている団体。
2010年ごろから、倉敷でまちづくりに携わる人たちが前身の元倉敷未来計画として活動していたのが始まりです。
倉敷で薄荷が栽培されていたという歴史を知り、薄荷の栽培と商品開発を開始。
2015年に合同会社を設立して、倉敷薄荷で販売を始めました。
「倉敷薄荷」の商品
どんな商品があるの?
倉敷薄荷で扱っている商品には、エッセンシャル・オイルとエアフレッシュナーがあります。
乾燥させた薄荷を蒸留機で蒸して水と油に分解。
抽出した油がエッセンシャルオイルです。
さわやかな香りの成分であるメントールが凝縮されています。
エアフレッシュナーは、エッセンシャル・オイルを精製水で薄めたものです。
スプレーが付いたビンに入れられています。
店舗だけでなく、倉敷薄荷のホームページからも購入可能です。
店舗で購入するときの価格は、オンラインショップよりも安くなっている商品もあります。
以下は、倉敷薄荷で扱っている商品の価格です。
商品の利用方法
エッセンシャル・オイルは、アロマディフューザーに入れて香りを楽しめます。
掃除のときに、エッセンシャル・オイルを混ぜた水でテーブルや床を吹くと、除虫の効果が期待できるそうです。
エアフレッシュナーは、除虫の効果が期待できるので、屋外へ出かけるときの虫除けとして利用できます。
ハンカチやマスクに吹きかけると、清涼感を楽しめるそうです。
倉敷の薄荷栽培の歴史
かつて日本の薄荷生産量は世界1位だった!?
岡山で薄荷の栽培が本格的に始まったのは江戸時代。
総社に住む秋山 熊太郎(あきやま くまたろう)が薄荷の種根(しゅこん)を江戸から持ち帰り、栽培を始めました。
薄荷の栽培は全国に広がり、1873年から1941年にかけて、日本の薄荷生産量は世界1位だったそうです。
国内のシェアは北海道が1位、岡山が2位。
倉敷でも薄荷の栽培が盛んに行なわれていました。
1967年には、「秀美 (しゅうび)」と呼ばれる品種の薄荷が倉敷にあった農場試験場で作られました。
しかし、高度経済成長による農業人口の減少、海外からの合成メントールの流入により、薄荷栽培は衰退。
試験場も閉鎖してしまいました。
薄荷栽培は、工業化や市場の国際化の波に飲まれてしまったのです。
倉敷で薄荷栽培が復活するまで
2010年代になり、岡山県内で自生している薄荷が見つかりました。
吉備のくに未来計画の前身 元倉敷未来計画が、自生していた薄荷のルーツを岡山大学の植物園で調査。
倉敷で薄荷が栽培されていた歴史が明らかになりました。
かつて盛んだった産業を地域おこしに活用しようと、試験的に栽培を開始。
倉敷での薄荷栽培が復活したのです。
生産量が安定し、2015年から倉敷薄荷で商品を販売するに至りました。
倉敷薄荷の所長であり、倉敷市地域おこし協力隊の 岩崎 真子さんに倉敷薄荷に関わろうと考えた背景や取り組みへの想いについて話を聞きました。
所長 岩崎真子さんの想い
倉敷薄荷の所長であり、倉敷市地域おこし協力隊の 岩崎 真子さんに倉敷薄荷に関わろうと考えた背景や取り組みへの想いについて聞きました。
──地域おこし協力隊として、吉備のくに未来計画の事業に関わろうと思った理由は?
岩崎(敬称略)──
スウェーデンの大学に留学したとき、環境保護と経済発展の両立について勉強していました。
特に重点をおいて勉強した内容は、北欧企業のCSR (企業の社会的責任)。
北欧企業が、環境保護に関わる事業をどのようにビジネスに取り入れているかを調査しました。
例えば、スウェーデンの登山道具メーカー「Klattermusen (クレッタルムーセン)」では、製品の機能を高めるだけでなく、自然由来の素材や廃材を利用した商品を開発しています。
さらに、環境負荷の低い商品の広告を打ち出すことで消費者を惹きつけ、ビジネスとして環境保護を成り立たせていました。
留学中の勉強を通して北欧企業の考え方に感銘を受けて、環境保護とビジネスを両立させる取り組みに興味を持ったのです。
日本でも、環境保護につながるビジネスはないかと調べていたときに、倉敷市地域おこし協力隊の事業の1つにあった薄荷栽培に出会いました。
──倉敷薄荷の事業をどのようにしていきたいですか?
岩崎──
倉敷薄荷の事業をエコビジネスのモデルとして確立したいです。
アピールするだけの環境保護事業ではなく、環境を良くする活動を利益につなげたいと考えています。
スウェーデンではSDGsの観点でビジネスを考えるのは当然で、企業は環境保護を考慮した商品開発を行なっています。
日本でも環境に配慮した商品でビジネスができるということを示して、消費者が環境負荷の低い商品を購入することが当たり前となる社会にしたいです。
──今後の抱負を教えてください。
岩崎──
倉敷で薄荷を栽培していたことを多くに人に伝えて、環境について考えるきっかけを生み出したいと考えています。
「環境に悪いからプラスチックは使わないでください」と言っても戸惑う人は多いはずです。
価値観の押しつけるだけでは、社会全体の意識を変えられません。
一方で、倉敷での薄荷栽培の歴史と復活への取り組みは、面白いし共感できると思います。
私が良いと感じる取り組みや商品を伝えることで、多くの人の環境に対する意識に影響を与えたいです。
薄荷への想いを聞いて
筆者は、倉敷で薄荷の栽培が行なわれていたことを全く知りませんでした。
一度は忘れさられた産業を見つけ出して、復活させてしまうというのは壮大なプロジェクトのように感じます。
倉敷薄荷の所長 岩崎さんの考え方にも共感できました。
自然環境を大切にしようと言われていますが、個人の意識だけでは限界があり、仕組み作りが重要です。
環境保護につながる活動をビジネスとして確立すれば、経済活動と同時に環境保護が可能な社会が築けます。
倉敷薄荷の事業が世界中に知れ渡り、倉敷からエコビジネスのモデルが生まれるのが楽しみですね。