【伊藤鉦三連載コラム】午前1時半まで…やはりすごい新人だった根尾

新人選手入寮でベランダからガッツポーズをする根尾

【ドラゴンズ血風録~竜のすべてを知る男~(26)】2018年のドラフトで中日、巨人、ヤクルト、日本ハム4球団競合の末、与田監督が根尾昂を引き当てると、名古屋の街は大いに盛り上がりました。根尾は甲子園で春夏連覇を達成した大阪桐蔭のスター選手です。準地元である岐阜県出身ということもあって、19年1月に根尾が昇竜館にやってくると、私が今まで経験したことのないような大フィーバーが巻き起こりました。

昇竜館には全国から毎日のように根尾宛てのファンレターが殺到し、沖縄キャンプに行く前には段ボール箱いっぱいになっていました。自主トレが始まると報道陣もファンもナゴヤ球場に詰めかけ、大にぎわいです。18年1月に松坂大輔が中日に入団したときも“松坂フィーバー”が起こりましたが、根尾の入団は松坂のときと比べても、さらに盛り上がっていました。

しかし、注目度が高過ぎるがゆえに、根尾も大変だったと思います。昇竜館の周りには根尾目当てにファンが集まり、気軽に外出することもできません。コンビニに行くのにもタクシーチケットを渡して、タクシーで行かせたほどです。昇竜館の外で待っているファンにはガラス越しに誰が上の階から1階に下りてくるか分かってしまったため、20万円ほどかけてガラスにクロスを張って分からなくしたこともありました。

1年目のキャンプは故障もあって出遅れてしまった根尾ですが、沖縄キャンプから昇竜館に帰ってきた日のことです。最終便で戻ってきたので寮生たちが帰ってきたのは午後10時半ごろだったのですが、夜中の0時ごろに室内練習場から「カーン」「カーン」という音がする。のぞいてみると根尾が打撃マシンを打っていたんです。キャンプを終えたばかりだというのに、納得いかない部分があったんでしょうね。午前1時半くらいまで打っていました。

根尾の1年目、ナゴヤ球場での二軍戦でライト前に鋭いライナーのヒットを打ったことがありました。ゲーム後、昇竜館の玄関で根尾と会った時に「今日のバッティングは会心の当たりだったな」と声をかけたんです。すると根尾から返ってきたのは「自分はあんなもんでは満足していません」という言葉でした。そのとき感じたのは、あくなき向上心。やっぱり、すごいなと思いましたね。

私は彼が将来的にドラゴンズを背負って立つ選手になると思っています。頑固なところはあるけど性格的にしっかりしている。今季、開幕スタメンをもぎ取りましたが、まだまだ十分な結果を出せていません。それでも本拠地・バンテリンドームの試合で2度もお立ち台に上がっているのは、やはり何か持っているのでしょう。一本ホームランでも出ると、かなり自信になると思います。

与田監督になってからドラゴンズは根尾をはじめ、石川昂弥、高橋宏斗と3年連続ドラフトで将来有望な高校生を獲得しました。彼らがバンテリンドームで暴れまくり、ドラゴンズを日本一に導く。近い将来、そんな日がやってくることを私は信じています。

☆いとう・しょうぞう 1945年10月15日生まれ。愛知県出身。享栄商業(現享栄高校)でエースとして活躍し、63年春の選抜大会に出場。社会人・日通浦和で4年間プレーした後、日本鍼灸理療専門学校に入学し、はり師・きゅう師・あん摩マッサージ指圧師の国家資格を取得。86年に中日ドラゴンズのトレーナーとなり、星野、高木、山田、落合政権下でトレーナーを務める。2007年から昇竜館の副館長を務め、20年に退職。中日ナイン、OBからの信頼も厚いドラゴンズの生き字引的存在。

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