クラッシュ続発で1台が開幕戦撤退へ・ハイパーカー&LMP2のスピード抑制はGTEにも影響etc./WECプロローグ2日目Topics

 ベルギーのスパ・フランコルシャンで開催されているWEC世界耐久選手権の開幕前公式テスト“プロローグ”は、4月27日に最終日となる2日目を迎えた。午後の最終セッションではハイパーカークラスのトヨタGAZOO Racing8号車がセッショントップタイムをマークしたが、2日間・4セッションの最速タイムはLMP2クラスのGドライブ・レーシング26号車アウルス01・ギブソンを駆るニック・デ・フリースが2日目午前のセッションでマークした2分04秒168となった。

 ここでは、テスト2日目のトピックスをお伝えする。

■“新車”のトヨタ7号車が見舞われたトラブル

 トヨタの新しいル・マン・ハイパーカー(LMH)であるGR010ハイブリッドは、8号車がシーズン前からテストを行なっていたシャシーで、7号車が新しいシャシーとなる。チームのテクニカル・ディレクターであるパスカル・バセロンによれば、7号車はプロローグ中「グレムリン(故障を起こす得体の知れない原因)を追いかけていた」という。

 これには、テスト初日のほとんどの時間をガレージで費やすことになった、油圧および電気に関する問題が含まれている。「統計的に、新車では常に、より多くの問題に直面するものだ」とバセロンは述べている。

 バセロンはまた、トヨタGR010ハイブリッドが発表時の出力である500kW(670hp)に対し、スパでは520kW(700hp)で運用されている理由を説明した。

「(500kWは)ル・マンで使用される出力だ。ACOとFIAが取り組んだシミュレーションでは、(ル・マン以外の)WECのトラックにおいてはLMP2とのギャップがより重要になることがすぐに分かっていたからだ」

 トヨタGAZOO Racingのチーム・ディレクターであるロブ・ロイペンは、第2戦からLMH車両でのデビューを予定しているスクーデリア・キャメロン・グリッケンハウスのハイパーカークラスへのエントリーが、BoP(性能調整)のプロセスに役立つものと信じている。

「この(BoPの)点から、より多くのメリットがある」とロイペンは述べている。

「だが、とくにオーガニゼーションとFIAが正しいBoPを実行するためのデータ、これが重要だと思う」

トヨタGAZOO Racingの8号車GR010ハイブリッドをドライブする中嶋一貴

 LMP2クラスにおいてはテスト初日に続き、トップドライバーの何人かが、新たに義務付けられるローダウンフォースのエアロキットでの走行における、以前よりも増加したスライドについて報告している。

 しかし、ハイクラス・レーシングのヤン・マグヌッセンはオレカ07・ギブソンでのテスト・マイレージがごくわずかしかないことから、それについてはあまり心配していないという。

「これが、僕がいままでにドライブした唯一のパッケージだからね」とマグヌッセン。

「僕はそれについて腹を立てていない唯一のドライバーだよ! 僕はグリップがあると思うが、彼ら(他のLMP2ドライバー)にとっては無いようだ。彼らには比較対象があるが、僕にはないからね」

ヤン・マグヌッセンの乗り込むLMP2クラスのハイクラス・レーシング20号車オレカ07・ギブソン

■ハイパーカー&LMP2との速度差が減少し「トラフィックが問題」とGTEドライバー

 ハイパーカーとLMP2のラップタイムがともに昨シーズンより抑制されていることは、GTEクラスの戦い方にも影響してきているようだ。AFコルセの51号車フェラーリ488 GTE Evoをドライブするアレッサンドロ・ピエール・グイディは、上位クラスにラップされる経験がどのように変化したかについて、このように説明する。

「過去には、とくにストレートにおいては、LMP2とLMP1はGTEよりはるかに速かった」

「僕らにとって、トラフィックは問題にならなかった。だが今は、速度差が少なくなったので、トラフィックに少し苦労している。接触や困難な事態を避けるため、それに注意を払う必要が生じてきている」

 実際に、上位クラスとの接触は、チェティラー・レーシング47号車フェラーリ488 GTE Evoによって経験された。トヨタ7号車とのオー・ルージュでの接触のあと、47号車はラディオンの頂上でクラッシュした。この事故を背後で見ていたピエール・グイディによれば、トヨタが走行を続ける一方で、ロベルト・ラコルテがドライブするチェティラーのマシンはスピンしながら丘を登っていき、タイヤバリアに衝突したという。

 チェティラー・レーシングのメンテナンスも受け持つAFコルセのメカニックは、夜遅くまでかけて大規模な修復を行なっていた。

■チーム・プロジェクト1のポルシェが開幕戦から撤退

 LMGTEプロクラスでは、プロローグにおける明確なリーダーが存在した。ただひとり2分13秒を切るラップタイムをマークしたのはポルシェ・GTチームの92号車ポルシェ911 RSR-19をドライブするケビン・エストーレで、2番手に対し約1.3秒もの差をつけたのだ。

 一方、ポルシェのLMGTEアマクラス陣営では、残念なニュースもあった。初日の午後にクラッシュしたチーム・プロジェクト1の46号車ポルシェ911 RSR-19が、今週末に行なわれるWEC第1戦スパからの撤退を表明したのだ。これにより、同レースのエントリー数は34台へと減少することとなった。チーム・プロジェクト1は、6月の第2戦ポルティマオ8時間レースではシリーズに復帰するものと見られている。

プロローグでのクラッシュにより、WEC第1戦からの撤退を決めたチーム・プロジェクト1の46号車ポルシェ911 RSR-19

 チーム代表のアクセル・ファンケはSportscar365に対し、この車両が今週の残りのイベントに参加するのに適していないだろう、と語っている。

 クラッシュ後の初日夜には、ポルシェからの新しいシャシーの導入を検討しているとファンケは述べていたが、この方法は採らないことをその後に認めている。

 また、2日目午前のセッションでは、LMP2クラスのレーシング・チーム・ネーデルランド29号車オレカ07と、LMGTEアマクラスのアイアン・リンクス85号車フェラーリ488 GTE Evoとの間でのビッグ・アクシデントがブランシモンで発生。いずれのチームもその後、新たなシャシーを導入することを決定しており、木曜日のレースウイーク最初のプラクティスに向け、新たな車の準備を開始している。

プロローグでのクラッシュにより、WEC第1戦に向けてシャシーを入れ替えることとなったアイアン・リンクスの85号車フェラーリ488 GTE Evo

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