連載② 新潟初の本格モルトウイスキー「樽熟成を開始」

新潟亀田蒸溜所 取締役社長の堂田浩之氏と蒸溜機器

新潟亀田蒸溜所(新潟市江南区)で製造が進められている新潟県で初となるモルトウイスキーの樽熟成が開始された。これから約3年もの月日を掛けてウイスキーの熟成が行われる。

新潟亀田蒸溜所は、印鑑販売の株式会社大谷(新潟市江南区)が中心となり設立した合同会社。2018年に野村証券新潟支店などが主催した「新潟イノベーションプログラム」で、大谷を含めた3社がチームとなり発表したクラフトウイスキー製造の事業案を実現し、2019年3月に事業を立ち上げ大谷の本社工場の敷地内に蒸留所が建設された。

以前にいがた経済新聞でも“連載① 新潟初の本格モルトウイスキー「新潟亀田蒸溜所のウイスキーに対する思い」“として同社を取り上げていたが、今回はついにウイスキーの樽熟成に入ったとの知らせを受け、再び蒸溜所を訪れた。

「とても香りの良いウイスキーが出来上がってくると思う」と話す同社取締役社長の堂田浩之氏。蒸溜所に入ると、前回取材に伺った際には見られなかった蒸溜中の純銅の蒸溜機器(ポットスチル)を見ることができた。蒸溜中のポットスチルの上部にある窓から激しく上がる泡が見える。この泡が蒸溜液に入らないように調整しながら蒸溜をすることで、嫌なにおいのない香りの良いウィスキーになるのだという。

蒸溜機器の中で激しく上がる泡

美味しいウイスキー作りの秘訣を聞くと、「衛生面に気を付けて、出来上がった製品を毎日チェックすること。やはりウイスキーも生き物なので」と堂田氏は語る。同社では麦汁を醗酵させる際に使用する槽をステンレス製・木桶の2種類を併用しているが、木桶では乳酸菌発酵が早く進む性質や保温性があり、ステンレス製は清潔な状態を保ちやすいが保温性がないなど、それぞれの桶の特性の違いをそれぞれの観点で調整する必要があるという。

途中、堂田氏と共に同社でウイスキー作りに携わる近藤康夫氏にも話を伺うことができた。近藤氏は、昼間は同社でウイスキーを製造し、夜は新潟市中央区古町のウイスキーバー「BAR ヨークシャーテリア」を営むマスターでもある。全国で20名ほどしかいない、国産ウイスキー「竹鶴」アンバサダーの資格を保有する。

ウイスキーバーを営む中で、「ウイスキーを造ってみたい」という気持ちを持ち続けていた近藤氏は、堂田氏と出会い、現在は同社のウイスキー造りの最前線に立っている。近藤氏が思う美味しいウイスキー造りの秘訣は「釜を毎日洗うこと」。ウイスキーの名産地・スコットランドにあるエドラダワー蒸溜所でも、「釜を洗ったら一気にウイスキーが美味しくなった」との報告があることから、同社でも実験的に行ったところ、次の日の出来上がりが違うことに気付いたという。

近藤氏は、「酒造りの基本は洗うことから。毎日釜を洗うのは重労働だが、美味しいウイスキーを作るためには必要な作業。綺麗にすることでよりいいものが出来ると思っている」と話した。

同社は今後、6月頃に新潟県粟島浦村へと出向き、粟島汽船の船底に熟成前のウイスキーを置いて熟成させる案を粟島村の村長と進めていく。船の揺れを活かし、樽と原酒の接触面積が増えることで熟成が早められると考えた堂田氏は「熟成が早く進めることで、ごくごく少量かもしれないが一応このようなものができたということで皆さんにお披露目をしたいと思っている」と今後の展望を明かした。

また、同社では今年の秋以降に樽詰め前のウイスキー「ニューポット」(蒸溜新酒)を販売する。ニューポットは熟成後のウイスキーと比べて荒々しく、強い味わいが特徴だというが、同社のニューポットは原酒の造り方にこだわり、アルコール醗酵後に乳酸菌醗酵を促すように長い間発酵させることで、比較的柔らかい味わいの部類になるという。

「ウイスキーの製造は大変ではあるが、やはり好きなことなので楽しいし、毎日、もろみが見せてくれる表情が違うので面白い」と、堂田氏がいかにウイスキーに対して愛情を持っているかが垣間見える。続けて、「流れ作業で、惰性でやっても良いものはできない。日々味わいを確認して、どういうプロセスで作ってきたかを振り返り、1週間前2週間前と比べた時に良かった週のやり方に戻したりと試行錯誤を重ねている」と話した。

にいがた経済新聞は今後も、愛情と情熱の詰まった同社のウイスキー造りに密着し、取材を続けていく。

【関連リンク】
新潟亀田蒸溜所 公式ホームページ

熟成中のウイスキー

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