【伊藤鉦三連載コラム】「応援しに球場へ行こう」と思わせるようなプレーを!!

バンテリンドームが竜党の熱気でいっぱいになる日はいつか

【ドラゴンズ血風録~竜のすべてを知る男~(最終回)】東スポ読者の皆さま、長らく「ドラゴンズ血風録」にお付き合いいただきまして、ありがとうございます。この連載は今日が最終回となります。最後に私が今のドラゴンズについて思うことを書かせていただきたいと思います。

私が昇竜館副館長だったときには寮のテレビはいつも野球中継にしていました。あるとき、マツダスタジアムの試合にチャンネルを合わせると、雨で試合開始が遅れていました。それでも広島のホーム球場は赤いカッパを着た満員のファンで埋め尽くされ、みんな熱気ムンムンで試合が始まるのを待っています。チャンネルを中日戦に戻すとナゴヤドーム(現バンテリンドーム)の試合は、定刻通りにプレーボールでしたが、スタンドのお客さんの数はまばら。ドーム球場なので雨など関係ないのですが、寂しいスタンドの風景でした。

カープの試合を見ていると競った場面でスタンドの女性ファンが祈っているシーンがテレビに映し出された後に、広島打線が爆発するなんてことがよくありました。三波春夫さんの有名な言葉で「お客様は神様です」というものがあります。三波さんの言葉とは少しニュアンスが違うかもしれませんが、長いペナントレースの中ではホームのファンの熱烈な応援や祈りが野球の神様に届いて大逆転劇を呼び込んだり、劇的な勝利を収めることが何試合かあります。年間で5、6試合、ファンの力で負け試合をひっくり返したチームが優勝する。やっぱり野球の神様はいると思うんです。

私はトレーナー時代、自分を育ててくれた両親やご先祖様への感謝の気持ちを持ってグラウンドに立った選手たちが、ファンの人たちからの熱い声援を受けて普段の力以上のものを発揮して大活躍するシーンを何度も見てきました。ファンの人たちの応援あってこそのプロ野球。ファンの人たちこそ球団の宝なんです。

残念ながら最近のドラゴンズの試合ではナゴヤ球場時代やナゴヤドーム初期のころほどファンの熱気が感じられなくなっています。野球の華は何といってもホームランですが、今季バンテリンドームで中日打線が放った本塁打はたった1本だけ。これでは見ているお客さんもつまらないでしょう。球団内にはホームランテラスの導入に積極的な声もありましたがコロナ禍の影響ですぐに実現するのは難しい。それでも球団にはいろいろと知恵を絞っていただいてバンテリンドームを魅力あふれるボールパークにしてもらいたい。

そして何より選手の皆さんにはファンを引きつけるプレーを魅せてほしい。ファンの人たちに「ドラゴンズを応援しに球場へ行こう」と思わせるようなプレーを。バンテリンドームで日本シリーズが行われ、かつてのように球場内が中日ファンの熱い思いでいっぱいになるように。頑張れ、ドラゴンズ!(おわり)

☆いとう・しょうぞう 1945年10月15日生まれ。愛知県出身。享栄商業(現享栄高校)でエースとして活躍し、63年春の選抜大会に出場。社会人・日通浦和で4年間プレーした後、日本鍼灸理療専門学校に入学し、はり師・きゅう師・あん摩マッサージ指圧師の国家資格を取得。86年に中日ドラゴンズのトレーナーとなり、星野、高木、山田、落合政権下でトレーナーを務める。2007年から昇竜館の副館長を務め、20年に退職。中日ナイン、OBからの信頼も厚いドラゴンズの生き字引的存在。

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