五山送り火「法」の字、シカ食害で地肌むき出しに 火床倒壊の恐れも、保存会が柵設置

現在の松ケ崎東山。「法」の上部付近で、シカの食害により地肌の露出が目立っている((c)Google)

 「法」の字をシカから守ろう―。五山の送り火の一つ「妙法」のうち、「法」を抱く松ケ崎東山(京都市左京区松ケ崎)で近年、シカの食害による土壌流出や火床倒壊の懸念が高まり、地元保存会と環境保全団体が「法」の近くに防護柵を設けた。専門家の知見を生かし、柵の色や位置など景観にも配慮。伝統文化の継承を下支えするとともに、自然保護や防災面などの効果にも期待を寄せている。

■5年ほど前から頻繁にシカ出没

 「妙法」送り火行事の保存伝承を担う松ケ崎立正会によると、シカは5年ほど前から頻繁に出没するようになった。山の斜面でツツジの新芽や下草を食べ、山頂近くでは地肌が露出。63基ある火床では、土壌が流出して基部がむきだしになった場所もある。理事長の岩﨑勉さん(71)は「土留めなどもしているが、抜本的な対策が必要」と危機感をあらわにする。

 防護柵を設置しようと、昨年春ごろから、植物や獣害対策の研究者らでつくり、近くで同様の柵を築いていた「宝が池の森」保全再生協議会と検討に入った。過去の自動撮影カメラによる研究や、けもの道の痕跡を調べると、シカは「法」の左右(東西)からの侵入が多いことが判明。まず左右の両側で、縦方向に柵を設けることにした。

■厳しい景観規制、茶色の目立たない柵に

 柵は3月25、26日の両日、高さ約1.8メートル、長さ約130メートルにわたって取り付けた。辺りは眺望空間保全区域や風致地区などに指定され、工作物の高さや色、見え方を含め、厳しい規制がかかっている。周囲に溶け込む茶色とし、頑丈で管理しやすく、火の粉が飛んできても問題がない金属製にした。関係者ら延べ約40人が急斜面の足場に苦労しながら、隙間ができないよう金網同士を針金で結び、下部は二重にして耐久性を高めた。

 同協議会メンバーで指導した高柳敦・京大大学院准教授は「シカの侵入はかなり減るはず。ツツジも葉が残れば養分を蓄えられ、将来はきれいに咲くだろう」と期待を込める。

 現在は仮設の柵だが、今年夏の送り火で景観に支障がなければ、市が設置を正式に許可する見通し。その後、「法」の上下で横方向の柵も設け、周囲を完全にふさぐ予定だ。

 岩﨑さんは「多くの支援に感謝したい。せっかくのご縁なので、長期的な視野で取り組み、地元の小学生らにも意義を伝えていきたい」と語っている。

2014年8月に撮影された法の字。目立った食害は見られない=松ケ崎立正会提供
シカの侵入を防ぐ防護柵を設置する「宝が池の森」保全再生協議会のメンバーら(京都市左京区)
松ケ崎東山の山頂付近。シカによる食害で土壌が流出し、火床の基部(中央)がむき出しになっている(京都市左京区)

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