「単なる事故で終わらせてはいけない!」響龍さん急死で動揺広がる角界に “警鐘”

響龍さん(2016年11月撮影)

角界に衝撃が走った。日本相撲協会は三段目力士の響龍さん(本名・天野光稀さん、境川)が28日に急性呼吸不全のため都内の病院で死去したことを発表した。28歳だった。葬儀・告別式は部屋関係者のみで執り行われる。響龍さんは3月の春場所の取組で頭部を強打。救急搬送され、入院中だった。取組で負傷した力士が死亡するのは極めて異例。医療関係者は「単なる〝事故〟で終わらせてはいけない!」と警鐘を鳴らした。

響龍さんは春場所13日目(3月26日)の取組で投げられた際に頭部付近を強打。自力で動くことができず、5分以上経過してから担架に乗せられて救急搬送された。その後も入院生活が続き、首から下が動かず寝たきりの状態だったという。これまで現役力士が病気などで死亡する例はあったが、取組で負傷した力士が亡くなるのは極めて異例。角界内は大きなショックに包まれた。

日本相撲協会の八角理事長(57=元横綱北勝海)は「突然の訃報に、ただただ驚き、ぼう然としております。1か月以上にわたる闘病生活、さぞ辛かったと思います。今はただ、安らかに眠ってほしいと願っております」などとコメント。芝田山広報部長(58=元横綱大乃国)も「若い力士が亡くなったことは非常に切なく、残念」と早すぎる死を惜しんだ。

一方で、芝田山部長が「何が原因か(土俵上の出来事と死因となった急性呼吸不全との)因果関係は分からない。(負傷直後の協会の初動は)何とも言えない。やたらに動かしてはいけないのもある」と話す通り、現時点では事故と死因が直接的に結び付くものではない。ただ、相撲という競技が危険と隣り合わせであることは確か。

実際、今年だけでも〝危ない場面〟は他にもあった。1月の初場所10日目、幕下湘南乃海(23=高田川)と幕下朝玉勢(27=高砂)の頭同士が激突。湘南乃海は腰から崩れ落ち、しばらく立ち上がれなくなった。立ち合い不成立で取り直しとなったが、この一件を契機に協会は審判規則を変更。立ち合い成立前に相撲が取れる状態ではないと判断された場合、協議の上で当該力士を不戦敗とすることになった。

このように土俵でのアクシデントが後を絶たない現状に、医療関係者は懸念を抱いている。ある現役医師は、響龍さんへの対応について「(頸椎を痛めた場合は)動かさないほうがいいと思うが、個別のケースは分からない」と私見を述べた。その上で、頭部にダメージを受けるリスクがあるアメフットやサッカーを引き合いに「アスリートの健康対策というのが世界中で問題になっている。頭部の外傷は認知症や脳の萎縮などの後遺症を残す可能性があるので、それらを予防するために定期的な検診をやっている」と指摘する。

大相撲についても「すごい勢いで頭が接触している。プロだからリスクを取るのも仕方ないが、場合によっては稽古を減らすことを進言したり、引退勧告を出してもいい。より安全にやるためにどうすべきかという議論はやっていいと思う。『頭』は今、世界のトピックなので」と提言した。

再発防止のために不可欠なのが、今回の事故の検証だ。「それが本当に不可避だったのか、それとも背景に素因があるのか。単なる事故で終わらせてはいけない」(同医師)。角界でも他競技を参考に、頭部を含めた定期的なメディカルチェック導入を検討するべきなのかもしれない。

© 株式会社東京スポーツ新聞社