【追う!マイ・カナガワ】二つある「新子安歩道橋」の悩み(下) 改修進まぬ理由は

改修が進まない国道1号の新子安歩道橋。南側の横断歩道(左)に沿って新たな橋桁が設置される計画だ=横浜市神奈川区

 二つある「新子安歩道橋」が、地域の悩みの種だという。横浜市神奈川区の市立子安小学校の通学路である国道・新子安歩道橋は児童数増加に伴い、3年前に改修計画が始まったものの、今も未着工だという情報が「追う! マイ・カナガワ」取材班に寄せられた。地元の期待と裏腹に改修が進まず、近くの市道・新子安歩道橋は混雑し、パンク寸前という。新子安で何が起きているのか。

◆繰り返す入札不調

 なぜ改修が進まないのか。延期が決まった3月中旬、国土交通省関東地方整備局横浜国道事務所で取材に応じた副所長は「発注の仕方をいろいろ工夫しているのですが、なかなか施工会社が決まらなくて」とうつむき加減に語った。

 同小児童の保護者から耳にした「東京五輪の工事ラッシュの影響もあるのでは」という疑問もぶつけたが、「タイミングの問題」「これ以上は説明しにくい」など歯切れが悪い。

 入札不調が3年も続くのは、何か原因があるはずだ。業者にも聞いてみた。

 ある建築関係者は「交通量の多い国道1号だと夜間工事になるが、高所作業は危険が伴い、人件費も増える。敬遠する業者は多いだろう」と明かした。

 今回は予算1億円程度で公共工事としては規模が小さい。エレベーター設置や道路改修などを一体的に行うなら利益を出しやすいといい、別の関係者も「入札しやすい案件にするのは国交省側の仕事。私たちは規模が小さくても利益が出るなら受注する」と語った。

◆オーダーメードゆえの課題

 地域の願いはいつ実現するのか。業界関係者の話も踏まえて4月中旬に再び同事務所を取材すると、春の異動で着任した新副所長は「やるべき工事なのですが、この工事にうまみがあると思ってもらえていないんです」と現状を認めた。

 「橋桁は道路に合わせてオーダーメードすることが多いが、橋桁1本だと製作費用がかさみ利幅は小さくなる。夜間工事になるので人件費や照明費が高く、予算と乖離(かいり)してしまう」などと問題点を列挙。前回の入札公告では夜間作業費などを国が負担する方式を採用したが不調となったため、本年度はさらに発注方法の工夫を模索するという。

 ただ、毎年発注方法を見直しても、入札されなかった現実は重い。

 公共事業に詳しい日本大学危機管理学部の木下誠也教授(土木工学)に打開策がないか尋ねた。

 木下教授は「東日本大震災以降、復旧復興などの仕事が増えたがそれまでの公共事業費削減で労働力不足が慢性化している」とした上で、全国的に入札の不調・不落が起きる原因は、発注者が予定価格を決めると定めた会計法にあると指摘する。さらに、「価格は本来、市場が決めるものだが、1円でも予定価格を超えると不調になる法制度が問題。経費を含めた取引価格が上昇しているときに予定価格が追随できない。業者の見積もりを重視するなどボトムアップで価格が決まる制度に抜本的に転換すべきだ」と訴えた。

◆取材班から
 
 歩道橋を巡る取材を進めると、法改正が必要という話まで行き着いたが、国が計画に着手した頃に入学した子安小の児童はもう4年生。これ以上待っていられない。

 公金が投じられる以上、関係者はスピード感を持って地域社会を守る役割を果たしてほしい。子どもたちが安心して学び舎(や)に向かえる“架け橋″ができる日が待ち遠しい。

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