東大生に愛された古書店、90年の歴史に幕 最後のにぎわい

東京・文京区で90年近くにわたって店を構えてきた老舗の古書店が4月末に閉店します。しかし、この決断が店に思いがけない変化を起こしました。学生や読書家に愛された店には閉店を知った東大生や本好きの常連客が続々と来店し、連日にぎわっています。

シンボルの赤門がそびえ立つ東京大学のキャンパスが広がる文京区本郷の地に、学生や読書家に愛される"知る人ぞ知る”本屋さん「大学堂書店」があります。店内にはこの地ゆかりの文豪・夏目漱石の看板が飾られ、芸術関連の本や古い雑誌など幅広いジャンルの本が所狭しと並べられています。

本は全て店主の横川泰一さん(85)が仕入れています。年季の入った看板には店名と「創業・昭和7年」の文字があり、横川さんの父が始めたこの店は90年にわたって本郷の街で東京大学の学生や読書家に愛されてきました。最近はインターネットで本が売られることが主流となる中、横川さんは店頭での販売にこだわってきました。店売りの楽しさを感じながら仕事に没頭してきたという横川さんでしたが4月末をもって閉店することを決断をしたのです。きっかけとなったのは、やはり「新型コロナ」でした。横川さんは「去年(2020年)の3月からずっと駄目で、4月、5月は東京都から古書店は休業するよう要請があって休んだ。その後も完全に売り上げが落ちた」と話します。店売りにこだわってきたからこそ閉店は致し方ない決断でした。

長い歴史を締めくくる最後の1カ月間、横川さんは閉店セールをやることにしました。1000円以上買えば3割引と、薄利多売で稼ぐ古書店にとっては大盤振る舞いです。さらに同業の仲間がSNSで閉店セールを告知すると、店を愛した人たちに情報が一気に広まっていきました。SNSを通して東大生の間で話題となり、学生の客足が増えていったのです。久しぶりに学生のお客さんで混雑する店内が続くことに横川さんも思わず笑みがこぼれます。さらに、この日は前から目をつけていた絵を買いにきたという常連さんも訪れていました。閉店セールが始まってからは何度も足を運んでいるということです。値引きをしようとする横川さんに、常連さんは「いいんだ。俺が気に入っているんだから。勉強しちゃ(値引きをしちゃ)駄目だよ」と声を掛けます。こういったやりとりも店売りの楽しさの一つです。

閉店を知った東大生や本好きの常連客が来店し、盛況だったころのように客があふれた1カ月になりました。店主の横川泰一さんと一緒に店を切り盛りしてきた妻・光枝さんは「ものすごい数の人がやって来た。1年分が1日に来たみたいな感じだった。ここまでとは思わなかった」と話します。横川さんは「若い人にネットは離せないかもしれないけど、小さな店舗でもいいからお店を構えて、──それで、半分はネットやるようにして──できるだけお客さんと接しながら本をそろえていった方がお客さんも楽しいんじゃないかなと思うんですけどね」と語り、店売りの書店が今後も続いてほしいと願っています。

多くの人に愛され続けた大学堂書店は4月30日、90年の歴史に幕を閉じます。

© TOKYO MX