医師会立看護学校 運営厳しく 少子化などで志願者急減 地域医療体制に危機感

県内各地の医師会立の看護学校は少子化などで厳しい経営環境にある=諫早市、長崎県央看護学校

 長崎県内各地の医師会立の看護学校が志願者の急速な減少で厳しい運営を余儀なくされている。少子化などが要因だが、卒業生が地域医療を支えている側面は大きく、関係者は危機感を強めている。
 諫早市在住の岸川裟季(さき)さん(28)は高校卒業後、市内の診療所で医療事務として働いていた。日々適切な助言で患者から感謝されている看護師の姿に接するうち、「私も患者さんの手助けになれたら」との思いが芽生えたという。
 4年前、地元の諫早医師会立の長崎県央看護学校に進学。自分のように社会人経験者が多いことも同校を選んだ理由だった。准看護師を養成する2年間の高等課程を経て、現在は看護師養成の専門課程3年生。最終学年に当たり、国家試験や就職に向け多忙な毎日を送っている。
 今春まで学業の傍ら地元の整形外科に勤め、今は福祉施設で月数回夜勤をこなす。認知症の高齢者の話に耳を傾けていると、それぞれに人生のストーリーがあり、“人生の先輩”を看護する責任の重さに身が引き締まる。「卒業後は地元の病院に勤め、患者さんの心に寄り添える看護師になりたい」と話す。
 同校の高等、専門両課程の1学年の定員は各50人。以前はそれぞれ100人以上が受験していたが、少子化で近年は急速に減少。専門課程の受験者はここ2年はいずれも49人で、入学者は昨年春が40人、今春が42人と定員割れとなった。
 満岡渉校長によると、志願者減は少子化のほか、増加した看護系大学との競合、看護師と待遇に差がある准看護師希望者の少なさも要因。高等課程を卒業した准看護師のうち約6割が専門課程に進学する。このため高等課程の学生が減少すれば、専門課程の志願者減に直結する。さらに昨年春、准看護師養成の大村看護高等専修学校が閉校し、その卒業生の入学も見込めなくなった。満岡校長は「志願者減は授業料収入減となり、いずれ経営難に陥るのは時間の問題」と言う。
 県によると、2019年までの11年間で県内の准看護師養成課程の学校は9校から5校(医師会立と高校)に、1学年の定員も450人から290人に減少。19年の入学者は221人で、定員に対する充足率は76.2%だった。全国でも准看護師は減少している。
 県内の医師会立看護学校は、長崎県央のほか長崎、佐世保、島原3市にある。県医師会によると、これまでも養成課程や定員の見直しを図ってきたが、いずれも経営は厳しい。今のままではさらなる見直しに踏み切らざるを得ない可能性もあるが、卒業生が地域医療で果たしている役割は大きいという。
 同会が昨年秋、会員の1014有床・無床診療所を対象に実施した調査(回答636診療所)によると、県内医師会立看護学校の出身者は、看護師が有床勤務者の5割弱、無床勤務者の3割強で、准看護師が有床勤務者の7割強、無床勤務者の7割弱を占めていた。また毎年、卒業生の約8割が県内に就職している。
 県医師会は昨年11月、県に対し学校運営を支援するよう要望。県は従来、卒業生の県内就業率が高いほど加算割合も高くなる補助金を支給しており、本年度から加算割合を一部引き上げた。だがそもそも学生数が減れば補助金も減少する。県の担当者は「特に准看護師養成課程は社会人の受け皿として一定ニーズがあるので、何とか支える方法を検討したい」と話している。

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