ドン・ファン元妻逮捕の全舞台裏 警察庁が和歌山に送り込んだ「切り札官僚」

電撃逮捕された須藤早貴容疑者

「紀州のドン・ファン」こと和歌山県の資産家・野崎幸助さん(享年77)が2018年5月、急性覚醒剤中毒で怪死した事件で、和歌山県警は3年もの歳月をかけ元妻・須藤早貴容疑者(25)の逮捕に踏み切った。県警の並々ならぬ執念。そのウラには警察庁が和歌山に送り込んだ“切り札”の存在があった――。

和歌山県警が須藤容疑者を殺人と覚醒剤取締法違反の疑いで逮捕したのは4月28日朝。「前日に情報を掴み、自宅、警察、空港と張り番していたのはNHKとテレビ朝日だけで、品川の自宅タワーマンションから須藤が出てくる姿を撮った。羽田で追いついたのがTBSで、東京で撮れたのはその3局。それだけ情報統制が敷かれた逮捕劇だった」とテレビ関係者は振り返る。

飛行機で和歌山へ移送された須藤容疑者は、南紀白浜空港で追いついた他メディアら報道陣に囲まれ、警察車両に乗り換え田辺署へ。県警はこれまで、須藤容疑者の供述、認否を一切明かしていない。

「捜査の手の内を明かすことで、裁判で不利になるのを避けるためだ」と、警察関係者が解説する。

「どういう証拠を持ってるかなど含め、警察から今いろんなことが漏れてメディアに抜かれると、須藤サイドが対応策を講じ、裁判で戦いやすくなってしまう。警察は、取り調べで犯人しか知り得ない〝秘密の暴露〟を引き出し、後の裁判で有罪判決に追い込む必要がある。仮に須藤が被疑事実を認めたとしても、秘密の暴露が供述に含まれていなければ、裁判所は有罪に踏み切れない。須藤が裁判で『自白を強制させられた』『脅して自供させされた』などと言い出し、裁判所がそれを高圧的取り調べと認定する可能性だってある」

ゆえに、今後の取り調べで本人が容疑を認めたぐらいでは、県警も公表しないという。

「須藤がもし、被疑事実を認めた上で『私はAさんという売人と×月×日に会って、×万円で覚醒剤を買った』とか犯人しか分からないことを言えば、警察も発表するかもしれないが、そんなタマの女じゃないだろう」(同)

その意味でも、和歌山県警VS須藤容疑者の神経戦はすでに始まっている。聞けば現地では、大勢のメディアが夜討ち朝駆けで捜査幹部宅を連日訪れ、進捗状況を聞き出そうとしているが、幹部たちの口は一様に重いという。

「ただ、和歌山県警は自信マンマン。メディアに公表はしていないが、裁判で有罪を立証するだけの証拠を持っている。須藤が黙秘を続けても支障がないよう証拠を積み上げ、裁判に向けて準備万端。そんな感触だ」と別の警察関係者。

この事件は立件が難しいとみられていたが、コロナ関連ニュースが席巻するなか、県警の執念の捜査は着実に進んでいたようだ。

捜査を指揮するのは、親家(しんか)和仁本部長(51)。東大法学部卒業後の94年、警察庁に入庁したキャリア官僚だ。主に刑事畑を歩み、直近では警察庁捜査1課長を務めている。

「その親家さんが和歌山県警本部長に就任したのは昨年8月。警察庁がドン・ファン事件の解決を指示し、和歌山に送り込んだ〝刑事事件のプロ〟というわけです」とは、親家本部長をよく知るベテラン記者。

親家本部長の人となりについて同記者は「キャリアの中でも偉ぶらず、部下の意見も聞きつつ捜査を進める人物で、正義感が強い」。昨夏の本部長就任会見では「『悪い奴は許さない』という思いで警察に入った。それは譲れない信念であり、和歌山県においても実践していきたい」と宣言している。

和歌山では98年にヒ素カレー事件が起き、世間を震撼させた。

前出警察関係者は「事件を指揮した当時の県警本部長・米田壮さんは、警察庁刑事局長を経て警察庁長官に就任しています。親家さんがドン・ファン事件を解決し手柄になれば、同期の警察庁長官レースの先頭集団に躍り出るのは間違いないでしょう」と語る。

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