台湾球界に挑戦、田澤純一はいま何を思う… 刺激を与える“元近鉄戦士”の存在

味全・田澤純一【写真:Getty Images】

今季からCPBL・味全でプレー、若いチームで守護神として奮闘

今季から台湾プロ野球(CPBL)に戦いの舞台を求めた右腕がいる。味全ドラゴンズでプレーする田澤純一投手だ。今季からCPBLに再加入したチームで守護神としてマウンドに上がり、4月30日現在、16試合に登板して6セーブ(3敗1ホールド)をマーク。MLB、ルートインBCリーグに続く、自身にとって3つ目のプロリーグで投球の道を追い続けている。

新型コロナウイルス感染拡大の影響もあり、2009年から11シーズンを過ごした米国を離れて日本に戻ったのが昨年のこと。所属先を探しながら国内でトレーニングを積んでいた田澤にオファーを出したのが、BCリーグの埼玉武蔵ヒートベアーズだった。日本の独立リーグでプレーする右腕の姿にNPB球団も注目。世論の盛り上がりも手伝って、いわゆる“田澤ルール”の撤廃が決まり、球界に大きな変化をもたらした。結局、同年10月のドラフト会議で34歳の田澤は指名されず。去就が注目される中で選んだのが台湾だった。

NPBより一足早く3月13日に開幕したCPBL。1軍は今季からリーグ本格復帰となった味全は、投手も野手も若手が多く、経験を買われた田澤は開幕投手より守護神を務める。発展途上のチーム事情もあり、味方の守備に足元をすくわれることも少なくない。それでも淡々とマウンドに上がり、白球を投げ続ける田澤に近況を聞いた【聞き手・構成 / 佐藤直子】

台湾の新型コロナ感染者はほとんどいない、試合中のマスク着用は人次第

Full-Countをご覧の皆さん、田澤純一です。味全の一員としてマウンドに上がり、はや1か月半が過ぎようとしています。ご存じの通り、台湾は新型コロナウイルスの封じ込めに成功している数少ない場所ですが、その水際対策はかなり厳格です。日本から到着した日からホテルで隔離生活を送ったのは3週間。最初の2週間は完全隔離で、ホテルの部屋の中でできるトレーニングをし、残り1週間は球場で他者との接触がない時間帯に限定的な練習こそ許されましたが、それ以外は外出を許されず。旧正月も重なって、チームと合流できたのは到着から1か月くらい経った頃でした。

おかげで現在の台湾には新型コロナ感染者はほとんどいませんし、僕たちも球場に入る時のマスク着用と検温は必須ではあるものの、試合中のマスク着用はその人次第。ファンも客席から熱い応援で試合を盛り上げてくれています。

CPBLはどんな野球をするのか、興味を持っている方も多いと思います。アジアでは日本、韓国に次ぐ野球大国と言われますが、正直なところ、僕自身がNPBやKBOでプレーしたことがないので比較することはできません。ただ思うのは、アメリカの文化も、日本の文化も採り入れた野球をするということです。

僕が所属する味全は、葉君璋(イエ・ジュンジャン)監督が米インディアンスのマイナーでコーチ修行をした経験があったり、アメリカ人のグレッグ・ヒバードさんが投手コーチを務めることもあり、春季キャンプのスタイルは完全にメジャースタイルでした。新しいチームでみんなが手探り状態なので、チームの文化として根付くまでには少し時間がかかるかもしれませんが、目指す方向ははっきりしていると思います。

台湾は球場の雰囲気やスタイルもメジャーに近いと思います。味全の本拠地・天母球場こそ内野は人工芝ですが、他チームの球場は内野が天然芝になっています。マウンドは日本の独立リーグより硬めで、ボールの感触は日本に近いと思ったら、日本の「SAKURAI」というメーカーが作っているようです。

味全では元近鉄の高須洋介氏が内野守備コーチを務める

僕は今のところクローザーを任せてもらっているので、少しでもチームに貢献できるように頑張っています。チームが31戦を終えて16戦に登板しているので、ほぼ2試合に1試合登板するハイペースで投げていますが、試合の状況に応じてしっかり準備をして、行けと言われた場面でマウンドに上がる。特別なことではありませんが、当たり前のことを積み重ねていきたいと思います。

数年前から取り組んでいる体作りも順調な成果を感じています。今年感じる大きな違いは、登板翌日の疲労度です。連投した次の日でも、思った以上に体はいい状態。もちろん、投げすぎてしまえば数週間後にドッと疲れが出てしまう可能性はありますが、ここ数年の中でも状態はかなりいいと感じています。

体の状態がよく、投球動作の中で無理なく体を操れるようになってきたのか、ここまで球速は時速152キロまで出ています。球速にこだわっているわけではありませんが、出るに越したことはない。引き続き、それぞれの球種の質を高めながら、1試合でも多く投げられるように準備を重ねていきます。

台湾では日々、いろいろな縁を感じています。味全では元近鉄の高須洋介さんが内野守備コーチを務めていて、僕の恩師でもあるENEOSの大久保秀昭監督の元同僚。入団以来本当にお世話になっています。球場を離れても、高須さんは台湾のグルメ本が出せるくらい食に関する知識が豊富で、よく一緒に食事に行かせてもらっています。肉団子をタピオカでくるんだような肉圓(バーワン)を食べに行ったり、夜市にも行きました。台湾特有の八角は慣れたし、豚の血が入った餅のようなジューシエガオも食べましたが、臭豆腐にはまだチャレンジできていません(笑)。

日本もいろいろな食材を使いますが、台湾はもっとすごい。打撃コーチを務める張泰山(ジャン・タイシャン)は台湾で初めて2000安打を達成した英雄で「台湾のイチローさん」と呼ばれている人ですが、僕が2007年に第37回IBAFワールドカップに日本代表として出場した時、対戦した相手でもあります。そんな縁もあり、台湾原住民アミ族出身のジャンさんには、アミ族の伝統料理に連れていってもらいました。そこでカエルとスッポンの鍋を初体験。漢方スープのような味で、カエルは鶏肉に近い感じでした。

「せっかく台湾にいるんだから、いろいろ経験した方がいい」と、何でもないかのように鶏のトサカを食べる高須さんの姿を見ると、僕のアメリカ生活は甘かったと思うことがあります。アメリカの食べ物は日本でもおなじみだし、特に見慣れないものを食べる習慣もありません。台湾でいろいろなものにチャレンジする高須さんを見ると本当にすごいなと思いますし、同じチームになれてラッキーだったと思います。

高須さんと僕についてくれている通訳のルイス・チャオさんは、実は以前、陳偉殷(チェン・ウェイン)さんの通訳をしていて、僕もマーリンズで同じチームにいた方でした。ルイスさんがいない時、僕に通訳をしてくれるのが、元巨人でアジア一背の高い投手、廖任磊(リャオ・レンレイ)です。岡山県共生高に野球留学をしていたので日本語が上手で、よく助けてくれます。

慣れない土地でも、多くの人に助けられながら野球ができる幸運に、感謝の念はつきません。味全は新設ということもあり、今は若手選手を中心にチームの土台作りがメイン。投球面、打撃面、守備面、すべてにおいて伸びしろの大きさが目立つチームです。ただ、守備コーチでありながら、ノックだけはなく、打撃のデータ分析なども選手に教える高須さんのような熱心なコーチがいますし、データを使ったアプローチに興味を持ったり、高須さんを慕って特守に励む選手がいるのは、明るい材料ではないかと思います。

僕自身も求められれば自分の経験を若い投手たちに伝えていくつもりですが、まだまだ自分も成長し続けていきたい。自分に限界を設けずに、しっかり腕を振り続けていきたいと思います。(田澤純一 / Junichi Tazawa)

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