消費税込み「総額表示」スタート…でもチラシには本体価格も 「勘違いしかねない」の声 

ある県内スーパーのチラシ。赤い太字の「本体価格」と、細く黒い字の「総額」を男性が指し示す

 あらゆる商品やサービスに、消費税込みの支払額を明記せよ。そんなルール「総額表示」が4月に始まった。これで値札とにらめっこする日々とはお別れだ。そう思ったのもつかの間、「追う! マイ・カナガワ取材班」に切実な声が届いた。「趣旨に反したチラシに困っている」。早速、話を聞きに行った。

■消費者「勘違いしかねない」

 神奈川県央部に住む男性(81)は憤りを隠せない。

 「これ、見てよ」

 差し出されたスーパーのチラシには、刺し身の写真と値段が顕示されていた。

 「398円」

 赤い太字が目に飛び込んでくる。その下に、細く黒い字が添えられていた。

 「税込価格429.84円」

 数字のサイズを比べると3分の1ほどで、頼りない印象を抱く。ところがどっこい、この表示こそが新ルールの肝となる「総額」だった。

 「安さを前面に押し出したい気持ちは分かるけど、私のような高齢者は支払額を勘違いしかねない」

 チラシには総額が明記されているとはいえ、明らかに本体価格の方が目立つ。指摘はさもありなんだ。この見せ方はいかがなものか。

■財務省「法令上は問題なし」

 財務省主税局の担当者に問い合わせた。

 「悪質なケースでなければ、法令上の問題はない」

 ふむふむ。詳しく聞いてみた。

 そもそも総額表示を義務付けたのは、2004年施行の改正消費税法だという。それ以前は1989年の消費税導入以来、本体価格のみの記載が主流で、最終的な支払額が分かりにくかった。つまり、消費者視点でのルール変更だ。

 ただし、消費税率が段階的に引き上げられた期間に限っては、2013年施行の特別措置法が例外を認めた。本体価格に「+税」や「税別」といった注記をしていれば総額を明記せずに済み、スーパーは商品ごとの値札貼り替えという膨大な手間を省けた。

 この特例が今年3月末で効力を失い、再び総額表示が必須となったわけだ。ただし、国はその後も「総額の明瞭な表示」を条件に、総額と本体価格の併記を認めている。

 では、明瞭な表示とは何か。この点について、消費者庁は「問題例」を図示している(写真右上)。総額の表示が著しく小さい、文字と背景が同色で見えづらいといった場合は、景品表示法に抵触する恐れが生じるという。

 だが現実には、文字のサイズなどに具体的な基準はない。チラシの表示方法がとがめられた事例は「聞いたことがない」(消費者庁表示対策課)という。

 うーん。総額表示の趣旨は、消費者に一目で分かりやすく支払額を示すという「配慮」にある。法令上の問題がないとはいえ、本体価格の方が際立ってしまうのはふに落ちない。せめて、文字のサイズが逆の「総額ファースト」であってしかるべきではないか。

■スーパーはPR「本体価格は維持」

 そんな思いを、財務省の担当者にぶつけた。

 「お気持ちは分かるが、法令の制約は必要最小限にとどめるべきで、価格の表示方法は基本的に事業者の自由なんです」

 なるほど、確かに法令による「がんじがらめ」は好ましくない。そうすると、総額表示の方法は事業者の倫理観に委ねられる。

 冒頭のチラシについて、都内にある当該スーパーの本社に認識を尋ねた。

 「誤解を招くとの指摘には柔軟に対応したい」

 ただ、と担当者は言い足した。「お客さまには『スーパーが本体価格を維持し続けている』という実態を知ってほしい。支払額の上昇は消費税率の引き上げが原因なのだと」

 価格競争が苛烈な食品スーパー業界にとって、日々の折り込みチラシこそが顧客にアピールできる主戦場。消費税率に左右されてしまう「総額」ではなく、あくまでも「本体価格」をPRしたいとの意向は分かる。それでも、投稿を寄せた男性の言葉は重い。

 「お店の営業努力には頭が下がるが、消費者に必要な情報は『レジでいくら支払うのか』なんです」

 財務省の担当者は言う。

 「消費者の訴えが広がれば、事業者側も対応を変えざるを得ないのでは」

 チラシとにらめっこする日々は、もうしばらく続きそうだ。

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