異業種参入のロードバイク市場で価格訴求力により活路見出す越後繊維株式会社(新潟県上越市)

自社ブランドのロードバイクを試乗する大嶋哲代表取締役

国内のアパレル業界は以前から二極化傾向と言われてきた。「ルイ・ヴィトン」などの海外高級ブラントと「ユニクロ」などの低価格ブランドの両極の売り上げが好調な反面、国内アパレルメーカーが不振という構図だ。こうした中、新潟県上越市で100年以上の歴史を持つ老舗繊維問屋の越後繊維株式会社は商店街の専門店を中心に展開してきたが、現状を打開するため、同社の大嶋哲(さとる)代表取締役の趣味だったロードバイクの事業に2019年に新規参入した。

海外の一流ロードバイクブランドは、世界的な自転車ロードレースのツール・ド・フランスなどに出場する年俸10億円以上を稼ぐプロ選手を抱えるほか、広告費も莫大であるため、フルカーボンロードバイク1台の価格はそれらの経費を反映した25万円から30万円ほどするのが一般的だ。大嶋代表取締役は参入するにあたり、海外ブランドに価格訴求力で対抗するため、「自社で企画する、宣伝広告費はかけない、流通経費を徹底的に省く」と方針を決めた。

大嶋代表取締役は2002年、中国へ語学留学している。8か月中国で生活した経験を活かし、中国の自転車工場を自ら回り、ツール・ド・フランス出場チームのフレームを生産する中国工場と直接提携した。地元上越市の戦国武将上杉謙信が信仰していた毘沙門天にちなんで名付けた自社ブランド「毘沙(BISYA)」のロードバイク(価格16万8,000円、税抜き)を2019年に新潟県内の自転車専門店などで販売を開始した。徹底したコストダウンにより、業界の常識を破壊した。

「プロ」が認めるコストパフォーマンス

第1弾のロードバイク

自転車専門店のオーナーには競輪選手やプロ選手だった人が多く、「ブランドの認知度は高くなかったが、試乗してみるといいと認めてもらった」(大嶋代表取締役)と評価された。こうした自転車専門店同士の口コミ効果と、大嶋代表取締役が全国への営業活動で開拓した結果、今では北海道、沖縄県などをのぞく都府県の約70店舗でほぼ全国展開している。価格競争を避ける意味合いから、取り扱いは地域に1店舗と決めており、将来的にも80店舗程度までの拡大にとどめる方針だ。

2019年からのロードバイクの販売は累計で200台となり、現在も前年同期比倍増以上と好調なペースで推移している。好調の要因ついて大嶋代表取締役は「今まではブランドが強い業界だったが、アパレルで言えば、自社企画の『無印良品』『ユニクロ』『ワークマン』が受け入れられているように自転車業界も変わってきた。愛好家専門誌の『バイシクルクラブ』などを読む健康志向のアンテナの高い人たちが買ってくれている。ライバルがいないことも強みになっている」と分析する。

「自転車に乗り、喘息が治った」

9月には「毘沙」ブランド第2弾となる新型ロードバイク(12万円税別)を市場投入し、今後1年間は300台の販売を目標とする。新型ロードバイクはフレームがフルカーボン素材のロードバイクで、メジャーブランドでは25万円程度の価格帯のところ、「毘沙」はコストカットとコンポーネント(自転車に取り付けるパーツ)の見直しにより、約半額の価格に抑えた。フルカーボンの場合、走行時の振動が少なく、長距離走行でも乗り心地がよく、疲れにくいという。

数年後にはロードバイク全体で、年間400台の販売を目指している。これまで大嶋代表取締役は経営者ということもあり、服装はスーツが当たり前だったが、ロードバイクの販売が本格化してからはスーツをやめ、仕事の時も作業のしやすいカジュアルな服装に変えた。「400台売れば、会社全体の売り上げの10%以上になってくる。将来的にはできれば自転車を中心に経営を成り立たせていきたい」と語る。

大嶋代表取締役は「自転車に乗ると心肺機能や呼吸器が鍛えられて強くなる。私は昔から喘息だったが、自転車に乗り始めてから治った。インフルエンザにもかからない。自転車は初期投資がかかるが、1回買ってしまえばお金はかかりにくい。健康を買うというイメージだ」と話した。高いコストパフォーマンスを武器に老舗問屋の挑戦は続く。

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