【レースフォーカス】ミラーが乗り越えた時間に流した涙。一転の結末に失意のクアルタラロ/MotoGP第4戦スペインGP

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 ドラマが生まれたMotoGP第4戦スペインGP決勝レース。主役はジャック・ミラー(ドゥカティ・レノボ・チーム)だった。Moto2クラスを経ずにMoto3クラスから最高峰クラスに昇格して7シーズン目の今季、自身2勝目、ドライコンディションでは初めての優勝を飾ったのである。
 
 ミラーは3番グリッドからスタートすると、ホールショットを奪いトップに立ったが、4周目でファビオ・クアルタラロ(モンスターエナジー・ヤマハMotoGP)に交わされて2番手に後退した。その差は1秒以上にまで広がったが、クアルタラロが右腕の腕上がりの影響でペースをがくりと落とすと、16周目に再びトップに浮上。最後までレースをリードした。
 
 ミラーは最終ラップの9コーナーで、「(優勝が)現実になるなんて、信じられない」と思っていたという。優勝のチェッカーを受けあと、パルクフェルメではデスモセディチGP21の側に座り、感極まった涙が浮かぶ目頭を指で押さえる。常にポジティブでどこかひょうひょうとした、にくめないキャラクターのミラー。ただそのときは、長い時間をかけて達成したものを静かにかみしめているようだった。ミラーにとっては、ウエットコンディションで行われた2016年のオランダGP以来、ドライコンディションでは初めての優勝だったのだ。
 
「(チェッカーを受けたあと)1コーナーに入って、信じられないような気持になった。そして2コーナーで涙が出てきた。5コーナーからはもう叫んでいるような感じだった。信じられなかったよ」

「90パーセントの時間について考える。トレーニングしているとき、ベッドに入ってこの瞬間を夢に見ているとき……、そしてついに達成して、感情の激しい渦のなかにいる。それを抑えられなかったんだ」

 ピットレーンではドゥカティ・レノボ・チームだけではなく、Moto2ライダーのサム・ロウズやレミー・ガードナー、ミラーのマネージャーを務めていたアジョ・モータースポーツ代表のアキ・アジョなど多くの関係者がミラーを祝福した。

2021年MotoGP第4戦スペインGP決勝 ジャック・ミラーとフランセスコ・バニャイアがワン・ツーフィニッシュ

 
「ピットレーンでみんなが拍手しているのを聞いた。僕はできるだけ誠実であろうとしている。僕はいつもハッピーで、みんなに『ハロー』と挨拶するようにしているんだ。こういうつながりのおかげだったんじゃないかなと思う」

 ひとつ、会見の中でミラーが語ったエピソードを紹介したい。ミラーはこの週末に“新たなライフコーチ”がいたことを明かした。
 
「ここ数週はなかなか難しかったよ。怒っていたし、いらいらもしていた。自分を信じられなかった。実は、今、僕には新しい“ライフコーチ”がいる」

「ルーシー・クラッチローが突然僕に電話してきて、僕にこう言ったんだ。『あなたは大丈夫。アグレッシブにいけるわよ』って。今朝はメッセージもくれた。だから、ルーシーにお礼を言わないといけない。ときどき、こういう言葉が必要なんだ。だって僕たちは人間で、疑いの気持ちを持っているから」

 ルーシー・クラッチローは、つまりカル・クラッチローの妻である。ミラーがクラッチローと懇意にしていることはご存知のとおりだ。ルーシー・クラッチローの励ましは、ミラーの力になったようだ。もちろん、それが優勝の結果につながったすべてではない。けれど、ネガティブな感情のなかにいるとき、認めてくれる人がいるのといないのでは心の持ちようが違うはずだ。そしてまた、ミラーにとってこの優勝は、苦しい時間を過ごしたあとに飾ったものであることも意味していた。
 

■最速タイムを叩き出しながらも腕上がりで失速。クアルタラロは失意の13位

 決勝レース前、スペインGPの優勝候補筆頭だったのはクアルタラロだろう。予選ではポールポジションを獲得し、ペースも安定していた。決勝レースでは4周目にトップに立つと、1分37秒台のタイムを連発。ファステストラップのレコードを更新した。
 
 しかし、レース中盤に突然失速する。ラップタイムはそれまでよりも2秒、終盤には3秒以上も落ちた。原因は右腕の腕上がり。レース中にまったく力が入らなくなったというのだ。
 
 腕上がりはライダーが抱える宿命のようなもので、多くのライダーが手術を余儀なくされている。例えば今大会で優勝したミラーも第2戦ドーハGPのレース中に右腕の腕上がりに苦しみ、第2戦後に手術を受けた。

 クアルタラロは2019年のシーズン中に右腕の腕上がりの手術を受けている。2020年の最終戦ポルトガルGPではレース後半に腕上がりに悩まされていたが、今季については問題なかった、とクアルタラロは語った。
 
「僕は(ミラーに対し)1秒リードしていた。でも腕の力がなく、1秒差をキープするのに痛みをかかえながら6周以上走っていた。それは不可能だったし、力がないから危険だったけれど、止まりたくはなかった。1ポイント、2ポイントがチャンピオンシップには重要だと知っているから」

 腕上がりの原因について問われると「わからない。2020年は、問題なかった。(昨年のヘレスで)25周、痛みはまったくなかった」と語る。
 
「でも今年は反対で、4本の指でブレーキングしないといけなかった。通常、僕は1本指でのブレーキングなんだ。ストレートではスロットルを全開にできなかった。最終ラップを除いてね。シーズン終盤のために、数ポイントでも獲得しようと思ったから」

 クアルタラロは苦しみながらも13位でチェッカーを受け、3ポイントをもぎとった。チャンピオンシップを見据えたレースだった。失意のなかでも得た3ポイント、このあとどんな意味を持つことになるだろうか。
 
 なお、決勝レース後の取材の時点では、手術の可能性については「まだわからない」と言う。スペインGP後の月曜日に行われた公式テストは参加を見送った。

2021年MotoGP第4戦スペインGP決勝 ファビオ・クアルタラロ(モンスターエナジー・ヤマハMotoGP)