未登録のメールから「電話できる?」 だまされたふりで記者がおとり調査 結末にあ然

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メールで相手とやり取りを続ける。周囲の誤解を防ぐため、相手を「詐欺メールのやつ」で登録した(画像の一部を加工しています)

 ある日、私(47歳・男)のスマホに未登録のアドレスから1通のメールが届いた。一言「電話できる?」とある。間違いを指摘すると、謝りつつも私の性別を聞いてくる。私は思い出した。間違いメールを装って接近を図るのは、詐欺の手口の一つだ。だが、相手は最終的に何を狙っているのか。私は間違いメールを真に受けた善良な市民を装い、おとり調査に取り組むことにした。(森本尚樹)

■1通のメール

 メールは、ほとんど使うことがない携帯アドレスに届いた。人違いが分かった後も「あなたは男性ですか、女性ですか」としつこい。男性だと告げると、すぐに返事が来た。

 「私、小松桃って言います。すみません、知人と間違えてメールをしてしまいました。何かのご縁ですし、少しお話しませんか?」

 相手が男性なら女性、女性なら男性となって、異性間交流に持ち込むもくろみのようだ。私は「私で良ければ」と応じ、おとり調査は始まった。

 その後のやり取りで、「小松桃」は東京都品川区に住む27歳で、広告代理店に勤め、趣味はバイオリンだと告げた。セレブと見せかけて「ロマンス詐欺」に持ち込むつもりか。あるいは、個人情報を引き出して悪用するつもりなのか。

■身の上話

 小松桃によると、勤務する広告代理店は父が社長、兄が役員という。母は幼いころに亡くなったといい、それらしい身の上話が続くが、何も起こらない。メールが基本的に質問で終わるのは、会話をつなぐためだろう。だが、私の回答にはほとんど取り合う気はない。

 調査7日目、動きがあった。小松桃の兄が交通事故に遭い、両足複雑骨折の重傷を負ったというのだ。ついに金銭の話に触れるかと思いきや、そうでもない。

 逆に、小松桃は私への依存度を深めてくる。

 「モトさん(=私)が見守ってくれてるって思ってなんとか頑張れたよ。私にとって、モトさんの存在がスゴイ大きいんだって改めて分かった」

■あっけない幕切れ

 期待した劇的な展開には程遠く、いらだちが募る中、ようやく事態は動く。入院中の兄に替わり、小松桃は役員に昇任したというのだ。そして、幕切れはあっけなく訪れた。

 「役員になる前に身辺調査あるから携帯をいったん解約して個人的なメールの履歴を見られないようにしないといけないんだ。その間、無料のチャットでやり取りできる?」

 私はあ然とした。誤送信に始まるメール交際の狙いはチャットへの誘い込みだったのだ。だが、誘導が乱暴かつ不自然過ぎる。間もなく、怪しげなチャットサイトからメールが来た。

 「桃だよ(*’ω’*) メッセージ届いてる?」

 リンクを開くと、まばゆいばかりの美女の写真が掲載された「桃」のプロフィルが表示された。そろそろ潮時だ。これ以上、足を踏み入れるのは危ない。私はチャットサイトを閉じた。その後、小松桃からメールが来ることはなかった。

■「サクラサイト商法」に注意を

 おとり調査はあえなく終了した。結局、詐欺が疑われる送金指示や、個人情報・金融情報の引き出しなどはなく、チャットへの誘導が狙いと分かった。

 こうして誘い込まれるチャットは最初の数日間こそ無料だが、その後は有料だったり、メール交換のつど課金されたりして、多額の請求が届くという。こうした「サクラサイト商法」は、国民生活センターなどが注意喚起している。

 神戸市消費生活センター(神戸市中央区橘通3)の相談指導係長、吉野正人さん(46)は「この手のトラブルでは、一度お金を支払ってしまうと回収は難しい。センターでは、簡単に信用せずに慎重に判断してほしいと呼び掛けています」と話した。

 なぜだまされてしまうのか。吉野さんは言った。

 「人それぞれ心の隙、弱い部分があります。はたから見ればあり得ない話でも、当事者になるとだまされることがある。一種の寂しさを、詐欺の集団は突いてきます」