武田双雲の日本文化入門〜心楽し〜第1回 書道との出会い

書道家・現代アーティスト 武田双雲とは?

武田双雲(たけだ そううん)さんは熊本県出身、1975年生まれの書道家で、現代アーティスト。企業勤めを経て2001年に書道家として独立。以後、多数のドラマや映画のタイトル文字の書を手掛けています。

近年は、米国をはじめ世界各地で書道ワークショップや個展を開き、書道の素晴らしさを伝えています。

武田双雲さんの公式HPhttps://souun.net/

本連載では、そんな双雲さんに、書道を通じて日本文化の真髄を語っていただきます。

連載第1回 書道との出会い

こんにちは。書道家の武田双雲と申します。まずは自己紹介をさせてください。

母親が書道教室の先生をやっていたことから3歳の頃から筆や墨汁を使った伝統的な書道を習いました。義務教育で書道を習うのは通常9歳くらいからなので、早いうちから厳しい書道の指導を受けたことは今思うとありがたいことです。

母親は性格はとても明るいのですが、字に関してはとても細やかな指導者でした。例えば、たった3画の文字でも線の最初の入り方、止め方、全体のバランス、体の使い方までいくつもの指示が入りました。お陰で小学校に入る頃にはだいぶ大人びた字を書いていました。

小学校に入ると担任の先生がとても字が美しい女性でした。母親の字はどちらかというとモデルさんのような体型でカッコよくポージングしたようなタイプの字で、担任の先生の字は丸みのある柔らかい字でした。先生の字に感動したのでよく形を模倣していました。

ある時、同級生たちの字の個性に気づきました。小学校1年生の幼い可愛らしい字に魅了され、他のクラスをまわって字を書いてもらって集めたりするくらい、人の書く字の個性に興味を持ちました。たくさんの人の字の個性を見ているうちに大人になるころには、その人の字と性格に強い関係性があることがわかってきました。筆跡はその人の性格を表していることに気づいたのです。

逆を言えば、筆跡を美しくすれば性格も美しくなるのではないかと考えました。それが22歳になって会社で働きはじめた頃でした。部活や勉強などでしばらく書道から離れていましたが、会社の社員寮で再び書道にはまりました。

狭い部屋に、書いた半紙で踏み場もないくらいになるまで毎日練習しました。単純により美しく書きたくて書道に夢中になりました。ある日、会社で電話の取り継ぎメモを渡す仕事をしていた時に「そうだ、ただのメモ紙にペンで書くのはもったいない、ちゃんとした和紙に筆と墨で書いてメモを渡そう」と思いつき、伝統的な書道道具を会社に持って行ってメモを書くようになりました。

上司や同僚の反応は薄かったのですが、他の部署の女性たちに噂が広がりました。今時珍しく伝統的な書道をやっている若い子がいるということで「私の名前を筆文字で書いて欲しい」とか「お客様へのお手紙を代筆してほしい」というオファーをもらうようになりました。

求められることが嬉しくて一生懸命筆文字で要望に応えていました。みんなが喜んでくれて練習する甲斐があるなと嬉しくなりました。そしてある日僕の人生を変える筆文字のオファーがあったのです。(第2回へと続く)

© 株式会社MATCHA