三越伊勢丹がオンライン接客で販路獲得に成功した「緻密な仕掛け」と利用客数10倍の道筋とは?

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新型コロナウイルスの蔓延によって、百貨店は、中核的なサービスともいえる接客が難しくなり、苦境に立たされている。そんな中、コロナ禍を逆手に取り、「オンライン接客」によって販路を拡大しているのが、三越伊勢丹ホールディングス(以下三越伊勢丹HD、東京都/代表執行役社長 CEO 細谷敏幸)だ。2020年11月にオンライン接客アプリ「三越伊勢丹リモートショッピングアプリ」を自社開発。リモートでも主にチャット、一部ビデオにより専任の販売員の接客・提案を可能にし、顧客から引き合いのあった商品のみをシステム登録する仕組みで、運営も効率化した。さらに、同アプリを活用し、地方の顧客や若年層といった、実店舗ではリーチしにくい顧客の掘り起こしにも成果を上げている。

グループで営業支援システムをスピード開発

グループ内で内製化した「三越伊勢丹リモートショッピングアプリ」

三越伊勢丹HDは2017年、デジタル時代に合わせたビジネスモデルの変革、デジタル関連の新事業の創出という経営方針を打ち出し、デジタルシフトを進めてきた。その最中に振りかかってきたのが、コロナ禍だ。ビジネスモデルの変革を担当していた同社デジタルサービス運営部部長の升森一宏氏は、「グループの百貨店のECサイトを一本化したり、ECのサイトとアプリを統合したりしてきたのですが、コロナ禍でオンライン接客の優先順位が急浮上したのです。20年4月の緊急事態宣言中の店舗臨時休業後、5月営業再開後、伊勢丹新宿店でZOOMを活用し一部行ってきた。実験的なオンライン接客の反応が、予想以上によかったこともありました」と明かす。

20年6月にオンラインによる顧客との接点増加、デジタルサービスの利便性アップを主眼として、新たなOMO(オンラインとオフラインの融合のこと、同社ではシームレスと呼ぶ)のツールの開発に乗り出した。約3カ月間のシステム開発、運用のテストランを経て、同年11月下旬にオンライン接客アプリ「三越伊勢丹リモートショッピングアプリ」をリリースした。

ハイスピードでリリースできたのは、グループのITサービス開発企業で、約10名のデジタル人材が働くアイムデジタルラボが、ITシステムを開発したから。「開発スタッフは店頭接客経験のある人材もいるため、当社の勝手を熟知し、仕様設計などについても話が早かったのです」(升森氏)という。

チャットからスムーズに購入ページへ。必要であれば同アプリ上でビデオ接客予約もできる

三越伊勢丹リモートショッピングアプリは、スタート時点では伊勢丹新宿店の14ショップに導入。21年3月現在、伊勢丹新宿店、日本橋三越本店、銀座三越、伊勢丹立川店の52ショップで活用している。新宿店はメンズ館の全ショップ、本館の75%に導入、日本橋三越店・銀座三越はほぼ100%のショップをカバーしているという。

アプリの仕組みは、次のようになっている。顧客はさまざまなメディア、雑誌、店頭で関心を持った商品について問い合わせ、チャットでスタッフとやり取りする。スタッフと直接会話できるので、「複数の商品を提案してもらったり、その場で質問もでき、かゆいところにも手が届くとお客さまに好評です」と、升森氏は胸を張る。商品は、配送を依頼することもできるし、顧客が店頭での受け取り、取り置きの確認を選択することもできる。また、詳細を知りたい場合は、予約制でビデオ接客を受けることも可能になっている。

三越伊勢丹リモートショッピングアプリは、百貨店にとって、オンライン販売の拡大以外にもメリットがあると升森氏は強調する。その一つが、ECサイトの運営効率化だ。

「ECで商品を販売する場合、対象商品のすべてをマスター登録しなければなりません。百貨店にとって、そこに費やす労力は膨大です。ほとんど売れない商品も登録しなければならないので、費用対効果も低いといえます。ところが、このアプリは、引き合いのあった個品だけを登録すればいいので、登録数が売れそうな商品だけに絞られるわけです。これは非常に珍しいシステムです」(同)。

買い上げの約10%が20代の顧客

現在、約200名の店頭スタッフがオンライン接客に携わる

三越伊勢丹リモートショッピングアプリのダウンロード数は約1万件。フィッティングの要らない服飾雑貨などの売れ行きがいい。利用客には、店頭の顧客とは違った特徴も見られるという。

特徴の一つ目は、客単価が店頭よりも約2倍も高いこと(伊勢丹新宿店事例)。「利用には事前登録が必要なためか、商品選びに熱心なお客さまが多いですね。また、期間限定のイベントでも、オンラインならアクセスしやすいため、購買にもつながりやすいと考えられます。」(同)。二つ目は、遠隔地からのアクセスが多いこと。買い上げた顧客のうち、首都圏以外が約半数を占めるという。百貨店は、地方店や郊外店の撤退が相次いでいるが、「三越伊勢丹リモートショッピングアプリがあれば、店舗再編の際にも、地方の既存のお客さまとのつながりがより深まるでしょう」と、升森氏は期待する。三つ目は客層の若返り。新宿店では、利用客の約70%が40代以下で、店舗利用顧客としては少ない20代も約10%となっている。つまり、新しいチャネルとして、店頭ではリーチしにくい顧客を開拓できているわけだ。

オンライン接客を担当しているのは現在、店頭での接客も兼任するスタッフ約200人。新宿店は約100人で、スタート時点よりも倍増した。日本橋店は約70人、銀座店は約30人だ。オンライン接客は、基本的には各ショップで行うが、日本橋店では、婦人服、紳士服といった各カテゴリーのコンシェルジュや、全店のコンシェルジュを担うストアアテンダントが、顧客をショップやほかのカテゴリーの担当につなぐなど、部門・ショップ横断の買い物体験ができるようにしている。

地方店にも展開、利用客数を10倍に

販売員の担当者コードを使って評価へ紐付ける

スタッフの間では当初、「オンラインなら、全国から問い合わせが殺到する可能性もある。現有スタッフで対応できるのか」といった不安が根強かったという。しかし、オンライン接客による売上も、店頭での売上と同じように担当した販売員の成績に加算されるため、スタッフのモチベーションが高まり、オンライン接客に積極的に取り組んでいる。

三越伊勢丹リモートショッピングアプリは現在、社員が運用しているが、各ブランドのショップスタッフによる運用も検討している。「お取組先からもニーズが多いので、21年中には実施したい」と、升森氏は話す。例えば、インテリアショップの場合、大型家具はスペースを取るので、店頭で展示できるアイテム数は限られる。一方で、オンラインなら、「ラインアップをすべて表示できるので、店頭にないアイテムでも販売できます」(同)。

オンラインクリエーショングループ デジタルサービス運営部部長の升森一宏氏

今後の目標は、まず首都圏店舗(伊勢丹新宿店、日本橋三越店、銀座三越)の全館に導入すること。さらには、地方店への展開なども計画している。「宣伝やスタッフの拡充にも力を入れて、利用客数を10倍以上に増やしたいですね」と、升森氏は意気軒高だ。

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