焦点:米武器輸出、バイデン政権は「商売」より人権重視で判断へ

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[ワシントン 5日 ロイター] - トランプ前米大統領が、最新鋭ステルス戦闘機F35や無人機、新型ミサイルなど総額230億ドルの武器をアラブ首長国連邦(UAE)に売却する合意に署名したのは、バイデン大統領が就任するわずか90分前だった。

トランプ氏が任期最後の2カ月間で議会に通知した武器輸出案件はほかに幾つもあり、バイデン政権はこうした地政学的に対応が難しい案件を実行するかどうか、早急な決断を迫られている。

そして、民主党関係者を驚かせているのは、反対意見が出やすいトランプ氏の武器輸出合意の大半について、バイデン氏が今のところそのままにしていることだ。また、匿名を条件に取材に応じた防衛大手5社の複数の幹部は、バイデン政権が下す判断の素早さは意外だったと明かした。

ただ、長い目で見れば、バイデン政権の下での武器輸出は、「商売」を重視したトランプ前政権に対して人権に重きが置かれる、というのが、これら幹部や別の政権内外の関係者5人がロイターに示した見解だ。

バイデン氏のそうした姿勢、特に攻撃的要素を持つ武器の輸出を減らそうとする方針によって、ボーイングやレイセオン・テクノロジーズ、ロッキード・マーティンといった防衛大手企業が販売する製品の構成も変わっていく可能性がある。つまり弾丸や爆弾、ミサイルなどの比率が低下し、レーダーや監視装置、防御兵器などの輸出が承認されやすくなる。

実際、バイデン政権は発足早々に中東の同盟国に対する武器輸出を一時凍結した。その中にはレイセオンとボーイングが製造し、サウジアラビアに販売する予定だった精密誘導弾などが含まれていた。最終的にサウジへ売却を決めたのは「防御的」な兵器のみで、サウジが介入しているイエメン内戦で犠牲者が増えていることへの懸念から、攻撃兵器の輸出は制限された。

一方、バイデン政権は、UAE向け武器輸出計画は維持すると決定。これについて人権団体のアムネスティ・インターナショナルは早速批判し、メネンデス上院外交委員長も苦言を呈している。

そもそも米国がUAEにF35を売却するのは、UAEとイスラエルが国交正常化に際して結んだ平和協定「アブラハム合意」の付帯条件だった。バイデン氏の政権移行チームの事情に詳しいある元米政府高官は、このF35売却のためにはまだ交渉すべき要素が多く残っており、今後米国が話し合いを有利に進める取引材料になると説明した。

<同盟強化にも利用か>

とはいえバイデン政権として、トランプ氏がUAEや他の人権尊重度の低い政府と交わしたような武器輸出合意はずっと少なくなりそうだ。

米政府高官の1人はロイターに、今後は武器輸出の検討に際して「経済安全保障は引き続き1つの判断要素になる」と認めつつ、米国の国家安全保障や人権、武器の不拡散といった別の要素が「再び優先されるだろう」と語った。

米シンクタンク、スティムソン・センターのバイスプレジデント、レイチェル・ストール氏は「(バイデン政権が)武器輸出を検討する上で人権尊重を最重要視すると表明している以上、それが言葉だけでなく現実のさまざまな決定に反映されることが期待できる」とみている。

昨年11月の大統領選後からバイデン氏の大統領就任までの間に、トランプ前政権は議会に総額で310億ドル相当の外国向け武器輸出案件を通知している。さらに米シンクタンク、センター・フォー・インターナショナル・ポリシーの武器・セキュリティープログラム担当ディレクター、ビル・ハートゥング氏によると、トランプ前政権下で実施された外国への武器売却は年間平均575億ドルと、その前のオバマ政権の8年間の年間平均539億ドルを上回った。

こうした中で、トランプ氏が退任間際にまとめた武器輸出案件をバイデン氏が受け継ぐことによって米政権交代に伴う政治・外交の連続性が維持される効果がある、と解説したのがある国務省高官だ。

ロッキードのテイクレット最高経営責任者(CEO)は昨年終盤、ロイターに「同盟関係が本当に大事だ。武器輸出はその一環と言える」と強調した。

バイデン政権は、トランプ前政権が打ち出した500件を超える外国への武器売却を引き継いだ形になる、と国務省から事情を聞かされたある人物が明らかにした。

スティムソン・センターのレイチェル・ストール氏は、国務省の担当チームはこれから対象国や個別の武器、個々の売却内容を精査することになるとした上で、バイデン政権から指名された幹部の就任が増えるとともに、武器輸出はパートナーシップ外交の構築と発展を目指す取り組みの一部とみなされる方向に根本的に転換されてもおかしくないと予想した。

(Mike Stone記者)