長崎県聖火リレー 車いすで家族と前へ 平戸市アンカー・杉山さん

父親に支えられて聖火走者を務めた杉山元太さん。笑顔で沿道に手を振る=平戸市

 長崎県内の聖火リレー最終日の8日、平戸市でアンカーを務めた杉山元太さん(14)=諫早特別支援学校中学部3年=は、トーチを固定した車いすで前へ進んだ。父、勝男さん(63)に支えられながら、四つ子のきょうだいが待つゴール地点のオランダ商館前まで希望の灯をつないだ。
 2007年3月、四つ子の末っ子として生まれた。早産で帝王切開して取り上げられた時の体重はわずか1100グラム。兄や姉と違って生まれつき肢体などに障害があった。身体障害者手帳は総合的に1級。誰かの手を借りないと何もできなかった。
 市立平戸小入学後も、教諭や友人らの協力なしでは教室移動も難しかった。そんな不自由な生活を送る中、福祉関係者らと一緒にリハビリは続けてきた。きつかったけれど、少しずつ前向きにもなれた。迎えた卒業式。車いすから立ち上がり、自らの足で歩いて証書をもらった。
 中学は自立を考えて、諫早特支に進んだ。高校卒業までの6年間、親元を離れた下宿生活という道を家族で選択。学校へ送り届けた日、父は「たくさんの人に見守られて育っている。一人前になって就職して社会に貢献してもらえれば…」と願って、泣いた。
 そんな家族の心配をよそに、元太さんは一歩一歩成長した。今では寮で盛り上げ役的な存在にもなった。V・ファーレン長崎の応援や、14年長崎国体の総合開会式を観覧するなどスポーツも大好き。現在はボッチャに挑戦中だ。
 聖火リレーは平戸市から誘ってもらった。「国籍、性別、障害を越え、すべての人が主役になれる聖火リレーを担当することは、今後、僕が生きていく中で糧となる。被災地の人々にも元気を届けたい」。素直な思いをトーチに込めた。
 コロナで苦しんでいる人がいる中、出走することに不安や迷いもあった。「でも、父がいつも自分を頑張らせようと勇気づけてくれた。だから成長できた。その姿を見せたかった」。古里の沿道からの「げんちゃん、がんばれ」という声援の中、父と一緒に手を振りながら前へ進んだ。
 スタートから200メートル先のゴール地点。きょうだいの元紀(もとき)さん、心勇(しんゆう)さん、心美(ことみ)さんの姿もあった。「元気で心ある人に育ってほしい」という願いを込めて名付けられた子どもたち。日が傾きかけたオランダ商館前で、家族の間に笑顔の輪が広がった。

 


© 株式会社長崎新聞社