5月の陽気にふさわしく

 20年ほど前、「モノより思い出」という乗用車のキャッチコピーがあった。やぼな注釈を添えるならば「あれこれ物を買うよりも、この車でお出掛けして、よい思い出づくりを」と、たった7文字で勧めている▲時代を先取りした売り文句だったらしい。ここ何年か、人々の消費の傾向は「モノからコトへ」といわれる。商品(モノ)を買うだけでなく、お金を出して何かの経験(コト)を楽しむ向きが強いという▲贈り物もそうで、例えば「母の日」には「エステサロン体験」をお母さんにプレゼントしたりと幅が広がっていた。ここ2年はそうもいかなかったろう。コロナ感染の広がりで、体験の勧めではなく、自粛の勧めが続いている▲予定していたお母さんとの外出や外食を控えた人も、きのうは多くいたとお察しする。高齢のお母さんにプレゼントだけを手渡しに行き、短い会話を交わして帰った-という話も身近に聞いた▲大型連休、こどもの日、母の日と、5月は本来ならば、にぎやかな声があちらこちらで響き、思い出の増える月だろう。今の陽気と、県内感染者の「過去最多」という緊迫した知らせと、落差がどうも埋まらない▲全国的に、高齢者へのワクチン接種が今週から本格化する。5月後半、この陽気にふさわしい、明るい声も聞こえることを。(徹)

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