「若者の新聞離れ」が言われて久しい。興味の多様化や情報機器の発達、ライフスタイルの変容で、マスメディアに求められる形や内容も様変わりした。これまで長崎新聞は、若者たちの声や要望をどれだけ聞いてきただろうか。「シンブンってものが、ありまして」-。記者が県内のさまざまな若者たちを訪ね、新聞との接点を探った。
れんが造りの煙突が残る町並みに、真っ白なワンピースが映えた。物憂げに空を見上げたかと思えば、人懐っこく首をかしげカメラを見返す。シャッター音に合わせ、次々とポーズを取るしぐさは、踊っているように見えた。細川小春(25)は、東彼波佐見町を拠点に活動するフリーのモデルだ。
地元でモデル活動をする若い女性がいる-。そんなうわさを耳にして、取材を申し込んだ。「何をしゃべればいいのって思いました」と小春は記者に打ち明けた。「新聞に載るのって何かを成し遂げた人とか有名な人ですよね」
あたし何やってるんだろう
小さいころから人前に立つのが好きだった。中学の文化祭で、場を持たせるためにステージで踊った数十秒間の高揚感が今でも忘れられない。「東京に出て、スポットライトを浴びる」。漠然とした夢を抱きもした。
でも夢は夢のまま。親を説得して上京するほどの熱意も覚悟もなく、高校卒業後は県内の旅館に就職した。SNS(会員制交流サイト)を開くと大学生活を謳歌(おうか)する元同級生の楽しげでキラキラした「日常」が並んでいた。「あたし何やってるんだろう」。自分がひどくつまらない人間に思えた。
「言い訳じゃないの」恩人の言葉に一念発起
焦燥感に駆られた小春は職場を辞め、地元の東彼波佐見町に戻った。より関心がある佐世保市のアパレル系企業に就職したが、都会への憧れが拭えずにいた。「上京しようかな」。24歳の夏、幼いころから家族ぐるみで世話になっていた陶芸家の長瀬渉(43)に相談した。
「もったいないよ」。小春の悩みを聞いた長瀬は諭した。「この町で、培った人とのつながりや積み上げた体験があるだろう。小春は、それを生かそうとしてきたかな。場所を変えればやれるっていうのは言い訳じゃないの」。
長瀬の言葉に一念発起し、インスタグラムのアカウントを開設した。「今の自分にできることをしよう」。知人のカメラマンに頼み、撮影した自身の写真を「#被写体になります」のハッシュタグと共に公開した。地元企業やメディアから少しずつ、モデル依頼が舞い込むようになった。
「ニセモノの自分」は作らない
いつの間にか迷いは吹っ切れ、前を向けるようになっていた。「あの時上京していたら、今もニセモノの自分を作ることにとらわれていたかも」と思う。この町で生きる。自分の選択に胸を張れる。
「こんな話で大丈夫ですか」。一通り話し終えると小春が不安そうに聞いてきた。確かに、彼女はまだ「何かを成し遂げた人」でも「有名な人」でもない。それでも記者は、その物語を夢中でノートに書き留めていた。一体どれだけの物語を、新聞は聞き逃したのだろう。もっと聞きたい、と素直に思った。
細川小春さんのインスタグラムのアカウントは「koharu(@mwmw_mbm)」
=文中敬称略=
記者:六倉大輔(35歳)
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