「非常ブレーキ」徐々に解除、厳格措置でコロナ禍に立ち向かうドイツの日常 私的な集まりは1世帯プラス1人まで【世界から】

最近はFFP2マスクがカラフルに。FFP2マスクやサージカルマスクは膨大なゴミを生む。そこでFFP2と同等の効果があり、洗濯できる布マスクが開発され、流通し始めている。マスク調達絡みで連立与党のキリスト教民主同盟/キリスト教社会同盟の複数の議員が賄賂を受け取るという汚職事件も起こった。

 欧州は今、3月から猛威を振るい始めた新型コロナウイルス禍の第3波を克服しつつある。ドイツでは昨年11月以降の緩いロックダウンが、12月中旬から本格的なロックダウンに移行していたが、ようやく段階的な解除が始まったところだ。 解除の見通しがまだ立っていなかった4月下旬、感染症防止法が改正され、「連邦非常ブレーキ」と呼ばれる全国共通ルールができ、規制がさらに厳しくなった。これにより、各州は、従来のように州政府の権限で、緩和措置をとれなくなった。この改正法では、郡、あるいは市単位で、直近7日間の10万人あたりの新規感染者数(以下、感染率)が3日連続で100人を超えると、一様にロックダウン措置がとられ、夜間外出も禁じられる。改正当時は多くの州で感染率が100人を超えており、「非常ブレーキ」が直ちに作動した。常態化しつつあったロックダウンを、ドイツはどうやって脱しようとしてきたのか。私的な集まりは一世帯プラス1人まで、つまり2組の夫婦が同時に4人で会えないなど、数々の厳しい規制が定められたが、その中から、意外と厳しいマスクのルール、コロナ検査事情、ワクチンの接種状況について報告する。(ハンブルク在住ジャーナリスト、共同通信特約=岩本順子) 

 ▽布マスクはNG 

 ドイツでは、当初からマスクのルールが厳密だった。まず第1波が訪れた昨年4月下旬から、公共交通機関、店舗などの屋内空間、青空市場などで、装着が義務となった。日本などで感染者数が少ないのは、マスクに一定の効果があるからではないかという学者の見解が盛んに報じられたのもこの頃だ。それまでマスクの効果については懐疑的だったドイツだが、あっという間に布マスクや手作りマスクが浸透した。

青空市場が開催される広場の入り口にあるマスク装着を促す看板。どのタイプのマスクが認可されているか、細かく記されている。

  第2波に見舞われていた年末には、高齢者を守る方策として、60歳以上の市民にウイルス防護効果が高いとされるFFP2規格のマスクが配布された。年が明けると、マスク装着義務がある場所では、サージカルマスクやFFP2レベルのマスクしか使えなくなった。ハンブルク市では現在、公共交通機関、美容院などはFFP2レベルのマスクだけが認められている。混雑する通りや広場、週末の公園など、戸外のマスク装着ゾーンも設けられている。 

 ▽急ピッチで進む簡易検査 

 厳格なマスクルールに加え、コロナ検査が現在急ピッチで普及し、検査センターがあちこちにできている。 スーパーや薬局が簡易検査キットを販売し始めたので、セルフ検査も可能だ。3月からは、誰もが週に1度、簡易検査を無料で受けられるようになっている。  

ハンブルク中心街の検査センター。ここはかつてブティックだった。簡易検査からPCR検査まで、あらゆるタイプの検査を実施している。

 4月中旬からは、企業は出勤する必要がある社員に対し、自社負担で検査を行わなければならなくなった。学校でも週2回の簡易検査が義務となり、生徒たちが自らセルフ検査を行っている。美容院なども陰性証明が必要になった。 

 信ぴょう性が低いと言われる簡易検査だが、多くの人が、例えば高齢の親に会う前などに気軽に利用しており、今や必要不可欠なツールとなっている。  

 ▽メルケル首相はアストラゼネカのワクチン 

 ドイツでは、昨年12月末に第1グループである80歳以上の接種が始まった。現在、筆者が住むハンブルク市では第3グループである60歳以上の接種が始まったところだ。いずれのグループにも、職種、病歴などに応じて、接種対象者が細かく割り振られている。順調に進めば、6月中にはすべての対象者の予約が可能になるという。かかりつけ医による接種も始まっている。 

市内の公園の入り口。マスク装着を促す看板が金属製の立派なものになってきた。

 4月16日に、メルケル首相(66)がアストラゼネカ社のワクチンの第1回接種を受けたとの報道があったが、21日から3日間にわたり、ハンブルク市では、2万4千人分の同社製ワクチンが臨時供給され、60歳以上の市民に接種が行われた。 

 アストラゼネカ社のワクチンは、血栓リスクのために一時的に接種が中止されたり、対象者の年齢が、65歳以下から60歳以上に変更されたりするなどの混乱があり、接種を避ける人も多い。しかしハンブルク市での臨時接種では、受付開始後すぐに予約がいっぱいになった。現在では、接種年齢の制限はなくなっている。 

 ▽ロックダウン解除後の日常は? 

 ドイツでは、厳格な措置による効果か、感染者の爆発的な増加を辛うじて食い止めた。すでにほとんどの州で、感染率が100人以下を記録し始めており、全国平均も100人を下回った。ハンブルク市でも現在、感染率が60人前後に減少している。5日連続で100人以下になると、緩和策が取られることになっているため、州により進捗状況が異なるが、同市では5月12日から段階的な解除を実施、夜間外出などが可能になった。17日からは美術館なども開館、ただし人数制限があるほか、マスクと簡易検査の陰性証明が必要だ。 

 ハンブルク歌劇場からは、5月28日からの公演再開が予定されているというメールが届いた。昨秋は入場者数が制限され、マスクを装着するだけで入場できたが、今後はやはり、陰性証明が必要になる。しかし、ワクチン接種を完全に終えた人と、感染から無事回復した人は、接種完了後、回復後に規定の期間を経ていれば、検査義務が免除になる予定だ。順調にいけば、専門店、レストランやカフェの戸外席も近々オープンする予定だが、ワクチンを接種し終えるまでは、 専門店での予約ショッピングにも、お茶を飲みに行くにも陰性証明を求められることになる。

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