ジャカルタから帰国の日本人、あわや入国拒否  正しい検査なのに「この書き方では入国できません」

日本政府は4月19日から、海外からの入国者が提出するPCR検査の陰性証明書のチェックを厳格化した。書類に不備がある場合は入国を拒否し、出発地への「送還」を行っている。問題にされているのが水際対策とはあまり関係のない書類不備である上、日本国籍を持つ日本人を外国へ「送還」することには、「日本国民の権利の侵害に当たるのでは」「やり過ぎではないか」という声が上がっている。

 問題にされた「書類の不備」とは、一体、どういうものなのか。4月22日朝、ジャカルタから日本に到着した日本人女性が、書類の不備を理由にいったんは入国を拒否されたものの、その後、入国を許可された。この女性に話を聞いた。

 女性はカラワンの日系企業で働く会社員。シンガポール航空(SQ)965便に搭乗して21日夜にジャカルタを出発し、シンガポールを経由して、SQ656便で22日午前8時40分ごろ、福岡空港に到着した。

 到着後、ボーディングゲートのような待合室に通され、「書類5つを準備し、出来た人は、こちらのブースに来てください」と言われた。

 5つの書類とは①PCR検査の陰性証明書②QRコード③誓約書④質問状⑤健康証明。①は出国前に準備する書類で、②は飛行機の座席番号が必要となるので、座席が決まってから入力する(事前に座席指定ができる場合は、出国前にやっておいた方が良い)。③〜⑤は機内等で渡される紙。

 最初のブースで陰性証明書とパスポートのチェックを受け、それが問題なければ、次のブースへと進む。この女性は最初のブースで陰性証明書を出した時、「この書き方では入国できません」と言われた。

 日本政府が検体として「推奨」しているのは「鼻咽頭(びいんとう)ぬぐい(Nasopharyngeal/Nasopharynx)」または「唾液(Saliva)」のいずれかだ。女性は「鼻咽頭ぬぐい」と「口腔咽頭ぬぐい」の2つの検体で別々の検査を行い、ともに陰性だった。検査証明書には「鼻咽頭ぬぐいと口腔咽頭ぬぐい(Nasopharyngeal + Oropharyngeal Swab)」が「陰性(Negative)」と記載された(下写真)。

「不可」とされた検査証明書の記載。「検体(Type of Specimen)」が「鼻咽頭ぬぐいと口腔咽頭ぬぐい(Nasopharyngeal + Oropharyngeal Swab)」と記載されている

 ところが、これが日本政府の「推奨」していない「検体を二つ以上混合した検体」ではないか、とみなされた。

 女性が検査を受けたのは、ジャカルタ内のラボ。福岡空港に到着後、スマホのWIFIを繋いだところ、日本人担当者から「問題はないですか?」というWAメッセージがすでに入っていた。このため、問題が発生したことをWAで伝えた。

 この担当者はすぐに「口腔咽頭ぬぐい」の記載のない、「鼻咽頭ぬぐい(Nasopharyngeal Swab)が陰性」という検査証明書のPDFをWAで送ってくれた(下写真)。さらに、「私が話します」と言い、検査官に直接、電話で「確かに2つの検査を行ったのだが、時間がなかったので、取り急ぎ、1つにまとめた検査証明書を発行した。それぞれの証明書を出すのが遅れていただけ」と説明した。

OKとされた検査証明書の記載。「検体(Type of Specimen)」が「鼻咽頭ぬぐい(Nasopharyngeal Swab)」と記載

 検査官からは最終的に「OKです」と言われ、女性は入国を許可された。検査証明書は、原本やコピーがなくても、PDFで大丈夫だったと言う。

 女性は「私の受けた検査方法は絶対に間違っていないという自信があった。念を入れて検体2つで、むちゃくちゃ正しい試験をやったのに……」と話す。ラボの日本人担当者のサポートのおかげで「なんとか入国できた」と言う。

 女性の見た範囲では、ほかに4〜5人、最初のブースで止められている人たちがいた。欧米人の夫と日本人の妻、小さい子供の3人連れの家族が入国を拒否され、「帰れってどういうことですか?!」と、夫が怒りの声を上げているのも見たと言う。

 現在、在留邦人が日本へ帰国するのは簡単なことではない。女性は、仕事や帰国日程を調整し、日本での二週間の隔離ホテルを予約して払い込み、ジャカルタでPCR検査を受けて証明書を取得した。送還されると、飛行機代、PCR検査代、日本での隔離ホテル代、日本での予定の全てが飛ぶ。

 「もし書類の不備があったとしたら、ペナルティーを受けるのは構わない。入国前に再検査をさせてほしい」と話した。

 女性の利用したラボでは、22日以降は、日本政府の求める記載方式となっている。そこには抗体採取時間も記載されているが、インドネシアのクリニック発行の証明書には、日付は入っていても時間が明記されていないものもあるので、注意が必要だ。また、パスポート番号や国籍が書かれていなかったりすると、全て「書類不備」とされる可能性がある。

 女性は検査官に「こういう『指摘』を受けたくなかったら、定められた書式で書いてもらってください。クリニックのフォーマットを使うのであれば、該当部分にハイライトを付けて」とまで言われたと言う。今後、安全のためにはそうするのがお薦めだが、日本の求めるフォーマットが世界的なスタンダードであるとは到底言えない。また、日本政府が求める「検体を混ぜない」とする検査方法に科学的根拠はあるのだろうか?

 PCR検査に詳しい関係者は「新型コロナウイルスはまだ研究され尽くされてはおらず、どこの検体が良いかについても議論が繰り広げられており、まだ結論は出ていない。鼻の奥と口の奥はつながっているわけだし、混ぜた検体をスタンダードとしている国もある。これで入国できないとするのはやり過ぎではないか。日本政府の指定する方法での検査ができない、という国もあるのではないか」と指摘する。

 これ以前に報道された「19日、アメリカとオランダから帰国した日本人が出発地に『送還』された」というニュースを受けて、ツイッターでは、在外邦人の間から「帰国する自国民を書類不備から他国に強制送還するって国民主権国家で聞いたことないんですがよくあることなんですかね絶望 他にやり方がなかったわけではないよなまじか?」(フランス在住)、「最初外国籍の人なのかと思ってニュースを読んだら日本人でたまげた。その日本人が本帰国だった場合どこに退去させるの?米国だとワクチン2回目も打ってる日本人の方も多いですよね??」(インドネシア在住)、「書類の不備etcで、日本国籍の人間を入国拒否するとは何事か 日本が求める陰性証明のフォーマット書類は極めて汎用性が低く、バカにされてる実態をご存知なのか 水際対策は大事だが、足下の国内対策は万全だと言い切れるのか。海外=悪との単純思考は取り払うべきではないのか」(米国在住)といった怒りと疑問の声が上がっている。

●陰性証明書のチェックポイント
・できれば、日本の厚労省の書式を使う。
・できない場合、必要事項の漏れがないか、十分によく確認する。特に、時間の記載があるかどうかに注意。
・検体の記載方法に注意する。別々に検査したものを一緒には書かない。

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