神秘的「アコウの大木」私財投じて守る 五島市の英会話講師 サットンさん

アコウの木とサットンさん=五島市

 長崎県五島市小泊町に、地域のシンボル的な存在で、映画のロケでも使われたアコウの大木がある。近年、県外の所有者が管理できなくなり、切り倒されそうになっていたのを同市在住の英会話講師、ニコラス・サットンさん(38)が私財を投じて守った。住民も感謝している。
 サットンさんは米カリフォルニア州出身。2016年9月、妻仁美さんの実家がある五島市に移住した。大木は、自宅と近くの英会話教室の途中にある。正確な大きさは不明だが、高さも幹回りも、ゆうに10メートル以上はありそうだ。
 昨年12月、サットンさんは解体業者が大木の枝を切り始めている光景を目撃。大木は空き家になった民家の敷地内にある。業者に事情を尋ねたところ、県外に住む所有者が管理できなくなったため、空き家を解体し、大木も根元から切り倒してさら地にする予定だと知らされた。
 「いつも当たり前のように木の下を通っていたので、とてもショックだった」。サットンさんは、いても立ってもいられず、近所の人を通じて所有者に連絡。しかし、所有者は今後地元に戻る予定はなく、土地を管理できないとのことだった。
 それでも、サットンさんは諦めきれず、解体業者に相談したり不動産業者と交渉したりして、土地ごと購入することを決断。今年4月、アコウの木と民家を含めた敷地約730平方メートルを買い取った。
 近所の住民によると、大木のある一帯は今では埋め立てられ、漁港が整備されているが、かつては海がすぐそばにあり、子どもたちが木から飛び込んで遊んだり、大人も木陰で涼んだりした場所。佐田啓二、高峰秀子主演の1957年公開の映画「喜びも悲しみも幾歳月」のロケ地にもなったという。
 サットンさんは自転車で北海道などを巡ったり、カナダから中米パナマまで約1万キロの自転車旅行をしたりしたことがある。世界各地のさまざまなものを見聞きしてきたが、五島の大木は「パワースポット」のような魅力を感じていたのだという。
 「海からの強風を防いでくれるので、木が残って助かった」と、近所の人からも声を掛けられたサットンさん。「映画やアニメの世界のような神秘的な大木。気付くのが遅れたら切り倒されていたので、何か縁を感じる。いろんな人の協力で残すことができた」と話している。

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