【客論】 大和総研主席コンサルタント 林正浩

「三方よし」精神でSDGs

 「エスディー~ナントカってもうかるのかぃ?」。中堅中小企業の社長を集めたSDGs講演会終了後の質疑応答タイムの出だしはいつもこんな感じだ。そして土地の言葉丸出し。「あんだってぇ~国連なんておらぁの会社には関係ないべしたぁ」(福島弁です)。
 これが大手企業の管理職が参加者だと質問なんかしない。みんな神妙な顔をして壊れた首振り人形のようにうなずいている。でも目はうつろ(笑)。要するに何なのか分からない。分かったふりをするのも疲れる。そんな人が多いのだ。
 2015年に国連で採択されたこと、そしてカラフルなバッジ、17の目標があることくらいは知っている。でも自分には関係なさそう。それなのに「関係ない」と言うのも気が引ける。そんな「エスディー~ナントカ」、正式にはSDGsという。そのまま日本語にすると「持続可能な開発目標」であり、主語は地球。なんたって「地球は青かった」の地球の話だから実感が分からない。ジブンゴトにするには大きすぎる。それは確かだ。
 質疑応答タイムに戻ろう。「そうさなぁ、建前論てっかさ、きれいごと? 道徳の授業でなぃ?」。そう、建前論なのである。貧困をなくすだの、飢餓をゼロにするだの、環境を保護するだの。詳しく書かないがその認識は正しい。SDGsは目標ではあるが、息子が東京六大学のどこかに合格するなんて小さな(失礼!)目標とは違うのだ。
 30年までに各国、地域、民間企業、教育機関、非営利法人などの「みんな」で達成しようと国連が決めた途方もなく大きい建前論であり、地球全体で取り組むキレイゴト★プロジェクトなのである。よし、いい線だ。ここで講師の私が会場にこう問い掛ける。「大河ドラマでおなじみの渋沢栄一がなんて言っているかご存じですか?」。続けて「薪を背負った二宮金次郎がどのような言葉を残したかは?」「はへぇ?」会場から奇妙な声がもれる。
 「道徳なき経済は犯罪であり、経済なき道徳は寝言である」、これが渋沢。一方、金次郎(尊徳)は「一円融合」。後者は解説が必要だろう。世の中は善悪、強弱、明暗、貧富、苦楽、男女、老若などの対立や対比で成り立つ。でも、みな一つの円の中に入れてみよ、一つの円の中で溶け合って「一円」とする世界こそ真なる成果を生む。簡単に言うとそんな意味だ。
 「いいですか、この渋沢と尊徳の言葉がSDGsの本質なのです」。そう説明すると、手が挙がる。「すると三方よしと似ていますね」。正解。さすがは2代目。「売り方よし、買い方よし、世間よし」の「三方よし」はSDGsそのものと言っても過言ではない。何も国連を引っ張り出すことなどないのである。
 「もったいない」が世界の共通語になったように、日本はSDGs先進国と胸を張ってよいでしょう。こんな話をすると、社長たちの顔つきが変わる。この瞬間が大好きだ。これから複数回、SDGsを「みんな」に知ってもらうためにやさしく解きほぐします。どうぞご期待下さい。

 はやし・まさひろ 1969年、新潟市生まれ。「笑顔の連鎖反応をつくる」をモットーに経営人材育成、中小企業支援などに携わる。東京都。

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