車いすテニス女子の大谷桃子(かんぽ生命)は、2020年10月の全仏オープンで、四大大会シングル決勝では史上初となる日本人対決を上地結衣(三井住友銀行)と実現させ、準優勝した。車いすテニスは今年6月の全仏オープン終了後、同7日付の世界ランキングで東京パラリンピック代表が決まる。一躍メダル候補に躍り出た新星は雪辱を狙う大会を前に、開催可否で揺れる祭典への覚悟と複雑な胸中を語った。(共同通信=鍋田実希)
▽開催を願うけど、本当に難しい
―新型コロナウイルス禍で開催された四大大会に出場して、感じたことは何かあるか。
「コロナに勝って成功させる」というのが、今強いじゃないですか。実際、そこまでは考えられないです。今は全然、そこまで落ち着くような状況じゃないですし。やるやらないは置いておいて、コロナに勝つためにやるのは違うかなと思います。
―どんな思いを持って大会に臨みたいか。
リオに比べて見てくれる人が増えると思いますし、注目していただけるいい機会になるので、認知度を高めていきたいです。パラスポーツでプロとして活動している方は本当に少ないです。車いすテニスは割と花形で、そういう人は出やすいとは思いますが、他のスポーツでは厳しい状況はあると思います。そういうのが少しでも、今大会を通して、変わっていったらいいなとは思います。
―開催に疑問を呈する声もある中で考えることはあるか。
選手によっては、障害の関係でずっとこもりきりという人もいますし、公平性は保てていないとは正直感じています。それでもやっぱり、リオが終わって車いすテニスを始めて、パラリンピックを目指してやってきたので、開催してほしいとは願ってしまいます。でも、それでコロナの人数が爆発的に増えてしまったり、パラで基礎疾患を持っている方が重症化してしまったりしたら…。本当に、難しいですよね。
―東京パラリンピックは、終わってみてどんな大会になってほしいか。
やって良かったなと思ってくれる人が、たくさんいるのがいいと思います。選手も、見ている人も、サポートする人も。開催していいのかと言う方がたくさん出た中でも、聖火リレーが始まったらみんな注目して見てくださって、楽しみと言われる方をニュースでも見ます。見て良かったとか、すごい感動したとか、見てくれる人がそう思ったら成功だと思います。
▽パラを目指しているのが不思議
―車いすテニスを始める前は、パラリンピックにどんなイメージを持っていたか。
考えたこともありません。障害を負って車いすテニスを始めるまでは、パラリンピックは見たこともありませんでした。障害者スポーツのトップの大会という認識はありましたけど、どんな種目があって、誰が出場されているとかは全然知りませんでした。まさか自分がそこを目指す立場になるなんて、不思議な感じです。
―パラリンピックは常に目標となるものだったか。
グランドスラム(四大大会)に出場して優勝することが最大の目標でした。グランドスラムがやっぱり一番上にあって、私の中ではパラリンピックはちょっと下くらいでした。グランドスラムで優勝するならパラリンピックも出ないといけないなという感じでしたけど、この4年間でパラリンピックにも憧れるようになりました。
―2016年に本格的に始めた時は、ここまでいけると想像したか。
もうちょっと時間がかかるかと思いました。グランドスラム出場も。もちろん、パラリンピックでメダルをと思ったら、最低今の位置にいないといけないというのは思っていましたけど、当時はわからないことだらけで、勝手にそう思っていただけだったので。その時よりは現実的に考えられています。当時の自分には、ちょっとなめるなよと言いたいですけど(笑)。でも、逆にそれくらいの目標でいられたから、ここまで来られたのかなとは思います。
▽雪辱を狙う全仏オープン
―前回大会は準優勝。次はどんな大会にしたいか。
前回は前回で、新たな気持ちで優勝を目指して頑張るのが一番です。やっとランキングがここまで(4月26日付で5位)来たので、今のままならパラリンピックのシード権を獲得したいです。グランドスラムにずっと出続けるためにも、最低1回戦は勝つこと。もう一回決勝で戦って、次は優勝したいという気持ちはありますけど、まずは一個ずつ勝ちたいです。
―前回の成績で、クレーコートの印象は変わったか。
すごい苦手意識はなくなりました。苦手には変わりありませんけど、受け入れ方は変わりました。私も、他の選手もクレーコートになると(滑って)走れないので、そこで低めの球と得意の高めの球を組み合わせることで、自分の展開になればいいと思います。
―理想としては、決勝で去年のように上地選手と対戦したい。
結衣ちゃんとやりたいです。去年の全米オープンみたいに1回戦はやめてほしいです(笑)。
▽東京パラの決勝で日本人対決を
―パラリンピックの決勝で日本人対決という思いはあるか。
すごいあります。やっぱり開催国なので、その方が注目してもらえると思いますし。そろそろ、車いすテニスは国枝(慎吾)さんと上地選手だけじゃないんだぞというのを出していけたらいいなと思います。まだまだですけど。
―上地選手はずっと追いかけてきた存在なのか。
すごい上にいて、ただひたすらに追いかけてきただけでした。でも、上地選手があのポジションにいてくださったから、自分がもっとうまくならなくちゃいけないと、戦うたびに思わせてくれました。いまだに、まあまあ高い存在です。
―身近にそういう存在がいるのは大きいか。
女子でオランダが強いのも、身近に強い人がいて、それにジュニアが憧れてというのがあります。なので、すごく恵まれた環境で車いすテニスを始められたなと思います。逆に、私がいずれそういう立場にならなくちゃいけないという心持ちでもいます。
―どんな姿を東京では見せたいか。
病気になって、親を含めてたくさんの人に迷惑も、心配もかけてきました。車いすテニスを通して、今これだけ元気でやれているとか、ちゃんと夢や目標を持って頑張れているというのをみんなに見てもらいたいです。同じように病気になった人、ここまでサポートしてくださった、たくさんの方に向けても、そういった姿を見せたいです。それが、一番の恩返しになるんじゃないかなと思います。
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大谷桃子(おおたに・ももこ) 小学3年でテニスを始め、栃木・作新学院高3年時にダブルスで全国高校総体に出場。卒業後に病気で車いす生活となり、西九州大進学後に本格的に車いすテニスを始める。20年9月の全米オープンで四大大会に初出場。2度目の四大大会だった同10月の全仏オープンで大躍進し、決勝で上地結衣に敗れて準優勝。25歳。栃木県出身。