ファームで奮闘するルーキーたち データ分析から見える可能性と特徴とは?

西武・渡部健人【写真:宮脇広久】

総合的な打撃指標OPSで飛び抜けた数字を残す今川と渡部

阪神の佐藤輝明、DeNAの牧秀悟をはじめ、今季は開幕から新人打者の活躍が目立っている。だがそうした選手は全体の一握り。新人たちの多くは現在、1軍ではなく2軍、3軍で経験を積んでいる。この企画ではファームでプレーする新人選手について、詳細なデータをまとめ、パフォーマンスやプレースタイルについて紹介していきたい。今回は野手の打撃に絞って見ていくことにする。

2021年新人打者のファーム打撃成績【画像提供:DELTA】

イラストには、今季ここまでファームで50打席以上に立った新人打者の本塁打、打率、出塁率、長打率、そしてOPS(※1)を掲載している(成績は5月3日現在)。まだシーズンが始まったばかりであるため、これら成績には彼らの能力が大きく反映されているわけではない。あくまでここまでのパフォーマンスの参考として見ていこう。

総合的な打撃力を表すOPSで飛び抜けた値を記録しているのが、今川優馬(日本ハム)、渡部健人(西武)の2人だ。OPSはともに1.000前後を記録している。彼らはほかの新人打者の多くが.400にも満たない長打率で、.600以上を記録。長打力で違いを作っているようだ。今川はここまで17安打のうち二塁打5本、本塁打3本、渡部はここまで19安打のうち二塁打が4本、本塁打7本と安打の多くを長打にすることに成功している。

ちなみに2人は打った打球がゴロになる割合が38.1%、34.0%と低い値を記録している(ファーム平均は48.8%)。低いゴロ割合は、裏を返せば、フライやライナーを高確率で打てていることを意味する。どれだけパワーのある打者でも、打球をフライやライナーにできなければ長打を打つことは難しい。2人は長打を打つために必要な打球に角度をつける能力を持っているのかもしれない。大学、社会人時代から名の知られたスラッガーだった2人だが、プロ入り後もファームのレベルでは順調なスタートを切っているようだ。

長打率に秀でる渡部、今川と対照的に、五十幡は出塁率が優秀

渡部、今川に続くのは日本ハムのドラフト2位・五十幡亮汰だ。大学時代から陸上選手並の俊足と評判の選手だったが、盗塁はわずか2つ。次の塁を陥れる場面はそれほど多くない。ただ、打撃面では存在感を発揮している。長打率で他選手との差をつくった前述の2人に対し、五十幡は高い出塁率(.442)で差を作っている。打率は.256とそれほど高くはないが、53打席で12もの四球(22.6%)を選んでいることが高出塁率の要因となった。

ここまでの3人は大学・社会人出身の選手。アマチュアの中でも高いレベルで長くプレーしている、こうしたカテゴリの選手が上位にくるのは自然といえる。一般的に高卒新人は、ファームのレベルであってもプロの高いレベルに順応できず、打撃成績が低迷することが多い。

開幕前に話題を呼んだ秋広優人(巨人)も、ここまではファームでOPSが.586(平均は.700)と低迷している。そんな中で渡部、今川、五十幡に次ぐOPSを記録しているのが内山壮真(ヤクルト)。ドラフト3位で入団した高卒選手だ。内山はここまで67打席に立ち、打率.254、出塁率.343、長打率.407と、いずれもファーム平均を上回る数字を残している。ここまでは高卒新人打者の中で一歩抜きん出た存在感を発揮しているといっていいだろう。

ちなみにこの内山のポジションは捕手。一般的に守備型の選手が多いポジションだけに、打てる選手の希少価値は極めて高い。まだファーム開幕から1か月強の段階だが、今後の成績推移が楽しみなパフォーマンスを見せている。

次に彼ら新人打者の打撃をより詳しい部分まで踏み込んで見ていくことにする。ここまでは出塁率や長打率、OPSなど、打席結果を集計した成績を見てきたが、ここからは1球単位、つまりスイングしたかしていないか、スイングした際にバットにどれだけ当てているかといった種類のデータを見る。打撃のアプローチと呼ばれる分野のデータだ。こうしたデータを見ることで、一般的な打撃成績からは見えてこない打者のスタイルがわかってくる。

2021年の新人打者ファームでのアプローチ成績【画像提供:DELTA】

五十幡は高い確率でボールにコンタクトできる点が特徴に

まず、さきほど高出塁率を記録していることを紹介した五十幡である。一般的に多くの打者は四球よりも三振を多く記録することになる。だが見極めに優れた上で、バットに当てる能力が高い一部の打者は、三振より多くの四球を記録することもある。現在の日本球界で言えば、吉田正尚(オリックス)や近藤健介、西川遥輝(ともに日本ハム)らがこうした成績を残すことが多い。

五十幡はここまで、打席に占める三振の割合(K%)が15.1%に対し、四球の割合(BB%)が22.6%。四球>三振の条件に当てはまる。1球単位の集計データを見ると、五十幡のスイング率は38.7%。ファーム平均が46.1%であるために、一般的な打者よりもかなりスイングを控えている。

ボール球スイング率は15.7%(平均は26.5%)と、極めて優秀だ。その上でコンタクト率(スイングした際にボールに当てる確率)は86.0%(平均は79.0%)と高い。慎重にボールを見極めながら安打や四球を狙うが、追い込まれても高確率でコンタクトし、三振を避けるタイプの打者である様子がうかがえる。

ただ、五十幡はこうした打撃スタイルをとっている故か、長打の数は少なく、本塁打は0にとどまっている。そんな中で、五十幡並の打撃アプローチを実現しながら、長打を放つことも両立しているのが、さきほども紹介した内山だ。

内山は五十幡ほどのペースで四球は獲得できていないものの、スイングを慎重に抑えてボール球を見極め、高確率でコンタクトすることに成功している。コンタクト率は今回対象とした新人16名でトップの86.8%。単に優れた打撃成績を残しているというだけでなく、打撃アプローチの面でも成熟したものを見せているようだ。

DeNAの小深田やオリックスの元はボールコンタクトに課題

他の高卒新人打者では、阪神の高寺望夢もわずか59打席ではあるが、内山並の優れたアプローチを見せている。三振割合13.6%は今回対象とした16人の新人打者のうち最も優れていた。注目されている秋広はこの分野においては、ほぼファーム平均レベルの成績となっている。

一方で、大きな課題が見られる選手も当然ながら存在する。DeNAの小深田大地はボール球スイング率が23.3%と優れているものの、コンタクト率が60.7%と大きな弱点となっている。オリックスの元謙太も小深田同様に、コンタクト率が57.1%と、スイングしてもなかなかバットに当たっていない。2人ともプロレベルの投球にまだ順応できていない様子が数字からうかがえる。

元と同じくオリックスの来田涼斗は、コンタクト率については69.5%と悪いわけではないが、ボール球スイング率が44.2%と極端に高い。ボール球にかなり手を出してしまっているようだ。そもそも来田はボール球に限らずスイングする確率が57.8%(平均は46.1%)と極めて高い。積極的にスイングするスタイルであるため、今後も多くの四球獲得は期待しづらいタイプの打者かもしれない。

ファームの開幕から1か月半。まだ試合数もわずかであるため、打席単位レベルの打撃成績については今後も上下があるだろう。優れたOPSを残していると紹介した打者もシーズン終了時にはまったく振るわない成績になっていることも十分ありえる。ただ打者のタイプについては、現時点でもある程度傾向は見えてきている。単に打った、打たないだけでなく、振った、振らない、ボールに当たった、当たらないにも注目して、若手のプレーを楽しんではどうだろうか。

(※1)OPS(On-base plus slugging):出塁率+長打率。総合的な打撃能力を表す指標。
数値が高いほど、打席当たりでチームの得点増に貢献する打撃をしている打者と判断することができる。簡単に求めることができ、かつ得点との相関関係が強いことからセイバーメトリクスで重用されてきた。(DELTA)

DELTA
2011年設立。セイバーメトリクスを用いた分析を得意とするアナリストによる組織。書籍『プロ野球を統計学と客観分析で考える デルタ・ベースボール・リポート1~3』(水曜社刊)、電子書籍『セイバーメトリクス・マガジン1・2』(DELTA刊)、メールマガジン『1.02 Weekly Report』などを通じ野球界への提言を行っている。集計・算出した守備指標UZRや総合評価指標WARなどのスタッツ、アナリストによる分析記事を公開する『1.02 Essence of Baseball』も運営する。

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