職場環境改善活動のすすめ~コロナ禍に合わせた対応をできるところから~ 

5月に入り、新年度の慌ただしさも落ち着いてきたことと思います。
昨年は新型コロナウイルスへの対応のため、ストレスチェックの実施を延期した企業等も多いと思います。
ストレスチェックの集団分析を終え、それを組織内に反映させるところまでは、「とてもそんな余裕はないよ」とお思いになる人事・労務担当の方々もおられるのではないでしょうか。
ところで、コロナ禍において急速に広がったテレワークにおいては、職場で仕事をするのとは勝手が異なり、また、コミュニケーションも取りづらくなることが指摘されています。
このような職場では、「業務上の不安や孤独を感じること等により、心身の健康に影響を与えるおそれがあり、また、その変化に気づきにくい」との指摘もあるため、この対応が急務です。
つまり、コロナ禍に合わせた職場を作っていくことが、企業等の生産性向上や従業員の方々の心身の健康を保つために求められていると言えるのです。
そこで、今回は職場環境改善の方法についてお伝えしたいと思います。また、職場環境改善の方法にはいくつかの種類がありますが、どの方法を用いるのがよいかを簡単に見分けるチェックリストをご紹介します。

職場環境改善の方法

産業保健新聞では、これまでにも職場環境改善の方法をご紹介してきました。

2020.03.19具体例でわかりやすく解説!職場環境改善で生産性が向上する 生産性向上は一体どうしたら実現できるのか?…頭を抱えてしまう方も多いのではないでしょうか。 そんな皆さんに、生産性向上が期待できる「職場環境改善」の効果と進め方の一例をご紹介します。 職場環境改善は効果があります! ...

2019.02.05

ストレスチェックは集団分析を活用すると効果UP!

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ここでは、大きく分けて4種類ある職場環境改善の方法を簡単にご説明します(吉川他,2018)。

1. 経営者主導型:経営者が自らの経験や知識、経営判断等により職場環境の改善を実施するもので、人事による人材育成の文脈で改善を実施することができます。
2. 管理職主導型:事業場の方針に基づき、自職場の改善を管理職が実施するもので、実施内容や改善手法等は多くは職制、管理職研修等を通じて伝達されます。
3. 専門職主導(支援)型:専門職が各職場を訪問して改善点を指摘し、その指摘に基づき職場環境改善を実施するもので、専門職によるコンサルテーション型とも言えるでしょう。
4. 従業員参加型:職場単位で自主的な取り組みとして実施するもので、小グループでの集団討議の結果に基づき、職場環境改善を職場の半数程度(以上)の労働者が参加して行います。

これらのメリットと留意点は表1のとおりです。

表1. 職場環境改善方法の種類とメリット・留意点

(吉川他,2018,P3を一部改変)

このうち、従業員参加型が以下の点で望ましいと考えられています。

・ 職場ストレスの改善とともに、自己効力感や達成感の強化、コミュニケーションや相互支援の改善に役立つ。
・ 皆で職場環境を振り返りながら、お互いの仕事に関する考え方や職場に対する思いを共有することで、仲間意識や共感につながり相互理解が深まる。
・ 問題指摘に終始せず、解決志向で前向きに話し合い、かつ、小さな改善を積み重ねていくことで、実際に働きやすい職場づくりが実現され、やがては大きな改善に取り組むための「職場力」が育まれる。
(独立行政法人労働者健康安全機構, 2018, P28を基に作成)

従業員参加型の具体的な方法は、以下に詳しく記載されています。
「いきいき職場づくりのための参加型職場環境改善の手引き:仕事のストレスを改善する職場環境改善のすすめ方(改訂版)」(PDF)

しかし、従業員参加型での職場環境改善に向いていない職場もあります。
たとえば以下のような職場は別の方法での実施が望ましいと考えられています。

・ 小集団討議の中で自分の正直な気持ちが表出できない。
・ ざっくばらんに話し合う雰囲気がない。
・ そもそも職場内の人間関係に問題がある。
・ いじめやハラスメントがある。
・ 不祥事やトラブルが発生したなど顕在化した問題がある。
(出所:独立行政法人労働者健康安全機構, 2018, P28)

では、それぞれの職場ではどのような方法が適しているのか、簡単に見分ける方法はないのでしょうか。

BODYチェックリスト

これを見分ける手助けとなるものの1つが、「BODYチェックリスト」(小林他,2019)です。
BODY(Basic Organizational Development for Your workplace)チェックリストは、従業員参加型の職場環境改善を実施するのに適した職場環境かどうかを、以下の要因を測定することにより判定するものです。

① 職場の受容度:各従業員がその部署内に居場所や役割があると感じられる、など。
② 上司のリーダーシップ:部下が新しい考えを提案することを上司が奨励している、など。

BODYチェックリストは以下のとおりです。

表2. BODYチェックリスト

(小林他,2019を一部改変)

職場単位で使用する場合、表2の「職場の受容度」「上司のリーダーシップ」の各項目に「はい・いいえ」のどちらかを職場の各メンバーに回答してもらいます。
そして、各項目の「はい」の回答率を計算し、表のBODYレベル当てはめます。
レベル1に達しない場合はレベル0とします。
レベル2とレベル3は2つの質問の両方が判定基準を満たしていることが必要です。
なお、このチェックリストは職場のメンバーの9割前後の方が回答することを想定しています。
この結果を踏まえて、各職場ではそのレベルに応じた職場環境改善の方法を検討することが可能となります。

例えば、レベル3の職場では参加型職場環境改善の実施によって良い議論が期待できると考えられるが、レベル0や1の職場では、一律に参加型職場環境改善を進めるのではなく、まずは認識されている問題解決に着手したり、短時間で複数回の議論の場を設けたり、議論するメンバー構成を工夫したりする等の配慮をして実施することが、参加型職場環境改善の実施上の困難を解決する一助になると考えられる。

(小林他,2019)

職場環境改善活動のポイント

以上を踏まえて職場環境改善活動を行います。その際、筆者が考えるポイントは以下のとおりです。

1. 担当者や参加者の負担を少なくする

概して、課題のある職場ほど日々の業務に忙しく、職場環境改善活動まで手が回らないことが多いのではないでしょうか。
したがって、既存の衛生委員会などを活用しながら、また、必要に応じて外部の専門家の支援を得ながら行うことが重要と思います。

2. すぐにできる小さなことから始める

これは、負担を少なくするとともに、早い段階で担当者や参加者に効果を実感してもらうことによって、さらにこの活動を継続する動機になりやすいと考えられるからです。

3. 継続する

継続することにより、職場の多くの方々の理解を得ることにつながり、そのことが更にこの活動を継続することにつながると考えられます。
その積み重ねによって、少しずつ職場が生き生きしてくることにつながるのではないでしょうか。

ちなみに、担当者や参加者の負担を少なくすることに関して、ドクタートラストではストレスチェック結果を基にした職場環境改善のお手伝いを行っています。
ご興味のある方は以下をクリックしてみてください。

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最後に、昨今はどの職場でも人員に余裕のあるところは少ないと思います。
そのような中、限られた人的資源を生かすためには、担当者の皆さんを含めた全員が生き生きした職場にしていくことが、長い道のりかも知れませんが、大切なことではないでしょうか。
ぜひ、できるところから、少しずつ、始めてみませんか?

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【参考資料】
・ 独立行政法人労働者健康安全機構「これからはじめる職場環境改善 ~スタートのための手引~」(PDF)
・ 小林由佳、渡辺和広、大塚泰正、江口尚、川上憲人「従業員参加型職場環境改善の準備要因の検討:Basic Organizational Development for Your workplace(BODY)チェックリストの開発」(2019年、産業衛生学雑誌, 61(2), 43-58)
・ 厚生労働省「これからのテレワークでの働き方に関する検討会報告書」(PDF)
・ 吉川徹(分担研究者)、吉川悦子・竹内由利子・佐野友美・湯淺晶子(研究協力者)「いきいき職場づくりのための参加型職場環境改善の手引き:仕事のストレスを改善する職場環境改善のすすめ方(改訂版)」(PDF)

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