データ分析システムもDIY?DXで増収増益を続ける「グッデイ」の取組み!

iPhoneが世に出た当時にネットがつながらない!?「業務は固定電話とFAX」の世界

2020年10月、福岡市のスマートシティ化の加速を目指す共同事業体「Fukuoka Smart City Community」が発足した。

LINE Fukuokaを発起人としてJR九州、西部ガス、西日本シティ銀行、西日本鉄道、福岡銀行、福岡国際空港、福岡地所と、福岡の街を支えてきたインフラ・交通・金融界の大手企業が並ぶなかで、異質に映ったのが北部九州・山口にホームセンター64店舗を展開する「グッデイ」の持ち株会社・嘉穂無線ホールディングスだ。

嘉穂無線は1949年、ラジオ・アマチュア無線のパーツ販売からスタート。かつて「電子部品ならカホ」とマニアたちからこよなく愛されていたが、主軸をホームセンターへ移して久しい。

業態は変わっても、社内にテクノロジーへの先見性が根強く息づいていたのか? いや、3代目社長・柳瀬隆志さんが入社した2008年、日本でiPhoneが発売された当時のグッデイは違った。

柳瀬さん
イントラネットどころか自社の公式サイトも、問い合わせ用メールアドレスもない。業務は固定電話とFAXのやりとりで、そもそもネットがつながらない。愕然としました。

大手商社で海外との取引を手掛け、「携帯とPC、ネットさえあればどこでも同じ環境で仕事ができる」と信じて辞職、家業を継ぐべく帰郷した柳瀬さんには信じられない世界だった。

そんな地方の遅れた企業が、いかにしてデジタルシフト、さらには「ITに強い企業」「DX推進で成果を挙げた小売業のモデル」へと変貌を遂げたのだろうか。

自らDXを推進する経営者として知られるが「好きなのはITではなく『学ぶ』こと」と言う柳瀬さん。社内外で「学ぶことの楽しさ、喜び」を体験する環境づくりに努めている

「業務がわかるのは自分たちだ!」 IT業者に頼らず社長と若手社員でシステム内製化を実現

現場は小売業にありがちな“経験と勘と度胸”の世界だった。

レジでPOSデータを取ってはいた。しかし、それを社内の業務システム上で分析するには多大な手間がかかり、実用化できるものではない。せっかく収集した情報やデータもスタッフの“経験と勘”で処理、判断しているのが現状だった。

ITベンダーからシステム構築などの提案を受けたこともあった。プロの手を借りると、確かにデータを簡単に収集、整理できそうだ。しかし、莫大な経費を要するにもかかわらず、「それで、何がどう変わるのか?」という具体的な効果、成果は見えてこなかった。

柳瀬さん
売り上げ増や利益増、コスト削減に結びつかなければ意味がないけれど、ITベンダーはホームセンターの業務を知らないから仕方ない。ならば、自分たちで技術を学び自社のニーズに当てはめるしかないと考えたんです。

柳瀬さんは自ら統計学やデータ分析を学び直すとともに、若手社員たちと勉強会を始めた。

「どうやってデータを使っていくのか」「どんな分析が現場の課題解決、業務改善につながるか…」。業務の合間を縫っての勉強会を続けるうちに、システム部員のみならず、これまで店舗に立っていたごく普通の社員の中から、クラウドやBIツール、データベースがわかる人材が一人、また一人と育ってきた。

そして、クラウド上にPOSデータを分析する環境を構築。無謀にさえ見えたシステム内製化が実現し、膨大なデータをもとに店舗別、エリア別、部門別の売り上げをはじめ、今、何が売れているかリアルタイムの動向まで、さまざまな分析グラフやレポートが数秒で出て来るようになった。

事業内容を熟知した社員たちの手で作り上げたシステムから弾き出される「実務で使える効果的なデータ分析」。それは、社員の意識、社内の空気をも大きく変えていった。

福岡、佐賀の4店舗にある「GOODAY FAB」には、レーザーカッターやカッティングマシンを設置。デジタルものづくりや、ハンドツールでの工作など「つくる」を学び、体験する次世代工作スペースだ

データは有効なコミュニケーションツール。「経験と勘」の現場は確実に変わった

「気温が上がると夏物は売れる」という現場の“経験・予測値”に対してAI予測モデルを活用。バイヤーの“経験と勘”に頼っていた仕入れが数値化されたことで、2020年夏物の売り上げは前年比24%増、平均在庫は16%マイナスで推移した。

このような事例を積み重ねていくうちに、冷ややかに眺めていた店長たちも俄然、興味を持ち始め、データ分析を業務改善に繋げていく考え方が次第に浸透していった。

柳瀬さん自らがデータ分析して「気温が上がりつつあるので季節商品を……」などと店長向けチャットで流すこともしばしば。タイムリーなデータ分析を即、現場へフィードバックして、現場が行動する。極めて効率的だ。

だが、ITに強い社長がデータを基に指示するのは社員にとって鬱陶しくはないか。データ、数字の話ばかりで、血の通ったコミュニケーションが阻害されはしないか?

柳瀬さん
それは逆。データって実は、有効なコミュケーションツールなんです。経験と勘や、「誰が言ったかで意思決定するのでは、現場の社員はついてきてくれません。でも、データは紛れもない事実。データを基にしてこそ具体的な議論が可能になります。

事実、月に1回の店長会議のほかは、紙と電話のやりとりだった本部と現場とのコミュニケーションはデータを介して極めて密に、しかもフラットな形に進化している。

思い込みにとらわれた「内向き」の会社から「発信」する会社へ

データは無味乾燥な数値でしかなく、血の通ったコミュニケーションとは相反するもの-それは、筆者の思い込みにすぎなかった。

実は、デジタル化に舵を切る以前のグッデイにも「思い込み」がはびこっていた。

「グッデイの顧客はチラシで来店。ウェブなんて見ない」-だから自社サイトなんて必要ない。

「ホームセンターは日曜大工のお父さんや、職人が工具や材料を購入する『男』の店」-だから店の中央に工具類をドーンと並べていた。

柳瀬さん
業績は頭打ちになっていたのに「従来通りにやっていれば大丈夫」という空気が蔓延。外の世界や新しいものへの感度が鈍い内向きの会社になっていたんです。

外に目を向けると、消費者の情報源は既に紙からネットへと移行。競合他社は30~40代の女性の来店比率を大きく伸ばし、グッデイの倍を超えていた。

IT化のみならずターゲットに合わせた広告、店舗レイアウト……長年の手法を抜本的に変革していくにあたって、現場には反発、抵抗もあった。

グッデイひびきの店(北九州市若松区)。店内で木工や園芸、プログラミングなど、気軽に学べる環境を整え、ワークショップを随時開催する「学べるホームセンター」だ。洗練された外観、ガラス越しに望むグリーンも美しい

柳瀬さん
よく聞くと抵抗勢力の要因はほぼ「新しいことへの不安」。結果を示して安心してもらうしかなく、不安を取り除くのもデータでした。

同時に、対外的な情報発信強化も社内の風土改革に多大な効果をもたらしたという。

柳瀬さん
いくら社内でメッセージを送っても、社長から社員への訓示としか映らない。ところが、外のメディアで同じ内容が取り上げられると、客観的に評価、位置づけられる。「データ分析やクラウド活用など当たり前にやっているけれど、小売り現場では最先端のことなんだ」という自信、励みになっていったんです。

情報発信は、「経験と勘」の罠=「思い込み」から解き放たれる有効な一手だった。

グッデイで培ったデータ活用のノウハウを基に、2017年にはデータ活用事業を展開する別会社カホエンタープライズを設立。既に数々の実績をあげており、冒頭の「Fukuoka Smart City Community」も実はごく自然な流れだったのだ。

先進的にITに取り組む会社として注目を浴びるグッデイだが、ITのみを志向しているわけではない。

柳瀬さん
コロナ禍のニーズに応えることでホームセンターが好業績を挙げているように、社会の変化によって新しい課題が生まれその課題を解決することがビジネスになる。業態にこだわらず、社会の変化とそれで生まれる課題を的確にとらえ、その解決策を事業として提供していきたいと思っています。

今期、既に新規事業に着手。次に芽吹く事業の種は、どんな課題を解決してくれるのだろう。

開店や開業祝いにつきものの大量の生花は時が経つとしおれて処分にも困る。今期からスタートした新規事業は、観葉植物を祝い事や会社事務所などに設置するオフィスグリーンの提案。「誰もが気づきながら放置されていた課題の解決策」としてSDGsの側面からも注目されている

株式会社グッデイ
https://gooday.co.jp/
■設立/1950年2月
■住所/福岡市博多区中洲中島町2-3 福岡フジランドビル10階
■電話/092-691-5666

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