希薄化、心身にも影響 第6部 いま、コロナ禍で (4)関わること

庭の鉢植えを手入れする奥山さん。落ち込んでいるときは、花の世話もする気になれなかった=3月26日、上三川町

 帰宅すると、気分が高揚している自分に気付いた。

 4カ月ほど前、上三川町、奥山善子(おくやまよしこ)さん(80)は宇都宮市内の百貨店を訪れた。新型コロナウイルスのため外出を控えていたが、久しぶりに買い物を楽しもうと思い立った。奥山さんは「気分が爽快で、活動的になりました」と振り返る。

 昨年4月以降、人との交流が激減した。週1回通っていたデイサービスに行かなくなった。家族や友人との旅行も全てキャンセルした。血糖値が高く、感染時に重症化するかもしれないという怖さもあり、一日中しゃべらない日も珍しくなかった。

 健康には人一倍気をつけている。毎日の散歩やスクワット、つま先立ちなどの運動を欠かさない。それでも「生きがいや楽しみがなくなった」と感じるようになった。

 日々の暮らしにも変化が現れた。何げない物音が気になり、眠れなくなった。家にずっと1人でいる生活など「これまで考えたこともなかった」と話す。

 買い物後、自身の気持ちの変化に気がついた奥山さん。「2、3時間でも外出して活動すると違う」。感染状況も考慮し、3月からデイサービスを再開した。

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 外出の自粛により、特に高齢者の心身に深刻な影響が出始めている。

 筑波大大学院の研究グループは、全国6自治体と連携して40代以上を対象にアンケートを実施。約8千人から有効な回答を得た。

 昨年11月時点で、外出の機会が週1回以下だとした人は65歳以上で23%いた。「物忘れが気になるようになった」とした人は60歳以上で27%、「意欲的・活動的に過ごせなくなった」と答えた人は50%に上った。

 調査した同大学院の久野譜也(くのしんや)教授(健康政策)は「認知機能の低下傾向が気になる」と指摘。一因として、会話不足をあげる。

 感染拡大を防ぐため、地域のサークルや団体の多くが活動を止めた。「散歩など1人で行う運動は健康につながるが、人と会い笑顔になる場も重要だ」と久野教授。「感染症だけでなく、活動の自粛による健康被害にももっと目を向ける必要がある」と訴える。

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 高齢者の在宅生活を支えてきた側にも戸惑いはある。

 那須町を中心に活動する「傾聴と在宅支援のボランティア・のぼらん」は緊急事態宣言の期間中、個人宅を訪れ話を聞く活動を休止した。当事者とのつながりは維持しようと、電話やはがきなどで接触を続けた。しかし事務作業の増加や感染への不安などでボランティアの負担は増した。

 会長の竹原典子(たけはらのりこ)さん(76)は「私たちが感染源になるのが怖い。ボランティアですが、覚悟を迫られています」と活動の難しさを指摘する。

 利用者や家族らからは活動継続を望む声が相次いだ。人との交流が減り、孤立感に悩む切実な訴えも届いた。

 「私たちが伺うのは話し相手を必要としている方々。常に待っていてくださる方のために私たちが自身の健康を守って伺わせていただく、それが一番大事なことなんじゃないかと思う」

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