新型コロナウイルスのまん延で、孤立や貧困など健康の社会的決定要因(SDH)が顕在化している。日本プライマリ・ケア連合学会理事でSDH検討委員会副委員長の医師西村真紀(にしむらまき)さん(58)に現状や今後の見通しを聞いた。
-この1年間を振り返ると。
「時期により大変だと感じた事例が異なる。昨夏から秋にかけてはいろいろな患者の持病が悪化した。自粛で高齢者のフレイル(虚弱)リスクの高まりや認知症の進行が増えている。さまざまな活動が制限されてアルコール依存症が悪化したり、長期休校明けに不登校になったりしたケースもある」
-コロナの長期化で健康格差が懸念される。
「感染症は人を選ばないが、その先の受診するかしないか、またお金の問題で大きな差が出てきている。PCR検査を受けるとその日の仕事に行けなくて日給が得られないとか、感染症だと失職するといった理由でも受診控えが起きている。生活保護の方はまだなんとか生活が保てているが、コロナさえ無ければ普通に生活していたであろう人も仕事を失い、無料低額診療が必要な場合もある」
「ワクチンについても、集団接種だとアクセスの悪い人ほど打てない課題がある。システムが煩雑すぎて、ワクチンの対象者である高齢者に正しく情報が届いていない。その中で改めて人と人とのつながりが見直され、戸別訪問など顔の見える関係づくりがとても大事になっている」
-SDHに着目し、必要な支援につなげる「社会的処方」の取り組みはコロナ下でどうなる。
「加速度的には進まないと思うが、各地で独自のやり方を模索していくのではないか。これまでは子どもの問題なら児童相談所、金銭的な問題ならソーシャルワーカーに相談して生活保護というようにシステムにのっとったやり方が考えられていた。でも、緊急事態宣言下では公的なものほどストップしてしまう。『社会的処方を国や自治体の政策任せにしていてはいけないよね』という方向に動き、草の根的な活動や町内会、近所付き合いなどの助け合いが活発になると思う」
-課題は。
「貧困は単純なものでなく、お金や教育、つながり、環境などさまざまな貧困が絡み合う。親から子への連鎖もあり、生きる力や知恵について教育の機会に恵まれなかった人も多い。世代を超えた支援が求められる」
「社会的処方には注意が必要だ。周囲から見れば悲惨な生活かもしれないが、当人からしたらその中に人とのつながりや大切にしているものがある。こちらの提案と、その人の意向とのすり合わせはとても重要。病気を見つけて薬を処方するときと同じで、本人が薬を服用しなければ意味がない。一方的に進めるのではなく、そこを大事にしたい」
(第6部終わり。この連載は健康と社会的処方取材班が担当しました)