【MLB】菊池雄星が示した投球の”深み” 世界一の打線を圧倒したリスクマネージメント

日本時間12日のドジャース戦に先発したマリナーズ・菊池雄星【写真:AP】

カットボールを狙われるのは想定内だった

■ドジャース 6ー4 マリナーズ(日本時間12日・ロサンゼルス)

マリナーズの菊池雄星投手は11日(日本時間12日)のドジャース戦で、6回1/3を投げて6安打1四球3失点と好投したものの、白星を手にできなかった。7回途中、1点リードの場面で交代したが、救援陣が粘れず逆転負け。勝敗は付かなかったが、自己最多となる11個の三振を奪い、メジャー通算200奪三振に到達。この日の投球を支えたのが、配球に組み入れた“ボール球”の有効活用だった。

リスク管理を図って上がったマウンドだった。

今季6度の登板で軸にしてきたカットボールが、世界一のドジャース打線に狙われるのは想定内だった――。

「ベッツが初球からカットボールを目がけて振ってきたので(各打者は)インコース低めのカットボールに目線がくるんだろうなと感じてました。だから高めを使おうと思いました」

1回裏、1番のムーキー・ベッツが初球のそれを強振。三塁への痛烈なゴロに仕留めた菊池は、この日の組み立てを決めた。

ノイジーの空振り三振に見えた確かな狙い

4回2死三塁で迎えた7番シェルドン・ノイジーとの勝負には、その意識がはっきりと表れていた。2ボール2ストライクからの7球目に選択したのは、外角高めのボールゾーンを狙う直球。外角低めの変化球を2球続けた直後の球は効果を最大限に発揮した。釣られたバットをかすったボールが捕手のミットに収まる。この日最速の98マイル(約158キロ)で術中にはめた瞬間だった。5番マックス・マンシーにソロ本塁打を浴びた後の難局を、菊池は新機軸の投球で切り抜けた。

得点圏に走者を置いて崩れ出す悪い傾向も、克服しつつある。

「気持ちの余裕は少しずつ出てきていると思います。ここ2、3試合では追い込んだら4球種を使えているので、バッターの反応を見ながら投げられていると思います」

前回登板の5日(同6日)のオリオールズ戦では、入り球に使ったスライダーを意図的にワンバウンドさせ、岩隈久志特任コーチからアドバイスを受け、真上から投げ下ろす感覚でコツを得たチェンジアップにも同じアレンジを加えるなど、この日に布石を敷いた。ゾーンより高く外す直球と、ゾーンより低く曲げるスライダーも時に織り交ぜる“高低の揺さぶり”を駆使し、ド軍打線に挑んだ投球は、持ち球の4球種に新たな球種を加えたかのように「誘う」、「崩す」の深みのあるものに変わった。

ベンチに戻り笑顔を見せるマリナーズ・菊池雄星【写真:AP】

あと1勝で日本人20人目となる「10勝&200奪三振」達成

3回に相手右腕ウォーカー・ビューラーから奪った三振で、メジャー通算200奪三振に届かせると、そこから降板までに毎回の8三振を奪い自己最多の11三振を記録。その内の6個がボールゾーンで取ったものだった。

降板につながった7回の三塁内野安打も「ワンバウンドさせて空振りを狙ったが真ん中に入ってしまった」と説明。最後まで一貫した取り組みで投げ続けた菊池は、「チームが勝てず、悔しい気持ちの方が強いですが、ポジティブな要素も個人的には多かったと思います」と、充実感に照応した表情で話した。

今季最多の106球を投げた菊池。三振への道筋をつけた51球も、残りの55球もすべて次回へ生かす。

「次に向けていい材料も増えてきたと思います」

あと1つの白星で、2016年の前田健太以来、日本人投手20人目となる「10勝&200奪三振」に届く。菊池雄星の次回登板が待ち遠しい。

【動画】的確な読みと新たな“軸”が機能した 菊池雄星の奪三振ショー

【動画】的確な読みと新たな“軸”が機能した 菊池雄星の奪三振ショー signature

(木崎英夫 / Hideo Kizaki)

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