ロレアルやユニリーバなど、サプライチェーンの全労働者の「生活賃金」保障へ動き出す

©株式会社博展

AMIT RANJAN

持続可能な貿易を推進するオランダのIDH(サステナブル・トレード・イニシアティブ)とロレアルやユニリーバなど欧州のグローバル企業10社は4月、サプライチェーン全体で労働者の生活賃金を保障するために行動することを発表し、他社にも参画するよう呼びかけている。低賃金労働を前提に収益を上げる従来のビジネスモデルから、人間らしい生活をおくるための「生活賃金」を支払うビジネスモデルへと転換することで、労働者やその家族の生活を保障し、さらに労働者のモチベーションの向上や離職率の改善を目指そうとするものだ。こうした転換は、コロナ禍からの復興において持続可能で回復力のあるビジネスを構築するためにも重要だとしている。(翻訳=梅原洋陽)

「より良い賃金で、より良いビジネスへ」と名付けられたアクション(Call to Action: Better Business through Better Wages)に参画するのは、ロレアル、ユニリーバのほかに、ドイツで誕生し欧米を中心に世界展開するディスカウントスーパーマーケットのAldi NordとAldi Sud、オランダの有機野菜・果物流通大手Eosta、アイルランドの青果物卸売Fyffes、エシカルなスマートフォンを販売するオランダのFairphone、同じくオランダのユニフォームメーカーSchijvens、オランダの小売店が加盟する購買組織Superunie、英国の紅茶ブランドTaylors of Harrogateの10社・団体。

これらの企業・団体は、従来のビジネスモデルは低賃金労働を収益の原動力にしてきたとし、収益性があり持続可能でレジリエントな新たなビジネスモデルを実践する上で、労働者に十分な賃金を支払うことは不可欠な要素である、との見方を示している。

生活賃金とは、労働者とその家族が適切な生活水準で暮らせるようにするための賃金だ。最低賃金とも異なる。例えば、農家であれば、その家族全員が栄養のある食事、清潔な水、まともな住宅、衣類や教育、健康管理、医療にかかる費用をまかなえ、生活に必要不可欠なものが手に入り、適切な水準の生活ができるだけの十分な資金のことだ。さらに、農場運営にかかるコストをまかなった上で、事業やコミュニティ、地球環境を考慮するための若干の余剰費用も含まれる。

蔓延する社会的不平等は、経済や社会の繁栄に害を及ぼしている。特に、昨年は新型コロナウイルス感染症の拡大により、間違いなく社会的格差が拡大した。企業は今、より広い社会に対し、利益をもたらすビジネスモデルへと転換するタイミングを迎えている。貧困の連鎖を断ち切り、世界経済の基盤を強化しながら、ビジネスの成長を促進する時だ。

IDHのダーン・ウェンシングCEOは「貧困を根絶するためには、生活賃金を保障することが最初の一歩。労働者が生活賃金を得られるようにすることは、サプライチェーン全体で担うべき責任だ。しかし、そのためにはビジネス界が推進力とならなければならない。10社・団体がすでに生活賃金のために協働してくれ、他の企業にも行動を呼びかけようとしていることを誇らしく思う」と話している。

ユニリーバのチーフ・サプライチェーン・オフィサーのマーク・エンゲル氏は「われわれは2030年までに、ユニリーバに商品やサービスを提供するすべての人たちが少なくとも生活賃金・生活収入を手にできるようにする。健全な社会なくして、健全なビジネスは行えない」としている。

サステナブル・ブランド国際会議2021横浜にも登壇した、ロレアルのチーフ・コーポレート・レスポンシビリティ・オフィサーのアレクサンドラ・パルト氏は「現在の世界的に難しい情勢において、企業はこれまで以上に貧困を軽減させるための行動をとらなければならない。不平等を緩和するために私たちができることの一つは、生活賃金を支払うことだ。これは当然、企業内だけでなくサプライチェーン全体で行うことが必要になる。ロレアルでは、2030年までにサプライヤーの全従業員に少なくとも生活賃金を払うことを目指す。挑戦的な目標だが、サプライヤーの協力を得て、前向きに達成を目指したい」と話している。

生活賃金の保証の実現に向けたロードマップ

今回のアクションに参加した企業は、IDH(サステナブル・トレード・イニシアティブ)の「生活賃金の実現に向けたロードマップ」を指針に、生活賃金の保証を実現するという最終目標に向け、ソリューションを考え、実行していく。ロードマップでは10のアクション・ステップが示されている。

1. 特に男女間の賃金格差に焦点を当て、自社およびサプライチェーンにおける生活賃金ギャップを把握する。

2. 賃金ギャップを解消するために、サプライチェーンのパートナー企業と具体的な共有フレームワークを確立する。

3. 生活賃金格差の大きい地域を対象に、マルチステークホルダー・パートナーシップに参画する。

4.より良い暮らしにどう貢献しているか、消費者が認識と理解を深める。

5. 障壁を取り除き、生活賃金格差を是正し、公平な形でコストを分担するための実践可能な解決策を実行する。

6. きちんとした社会対話と賃金設定メカニズムの伴う形で、結社の自由を支援する。

7. 調達方針や契約条項などの一部として生活賃金要件を含む、持続可能な調達および取引慣行を採用する。

8. 生み出された価値が実際に労働者に届くよう保証する。

9. 生活賃金の保障の実現に向けた進捗状況について透明性のある報告をする。

10 .すべての取り組みにおいて、生活賃金の保障を実現するための新たな方法を見つけられるよう、学びや課題、解決策を共有する。

参画する企業の一社、フェアフォンは2013年以来、製品のデザインと意識的な材料調達によって、よりエシカルな電化製品産業を実現するために貢献してきた。2016年、同社は4種類の紛争鉱物すべてを追跡できるサプライチェーンを実現した。さらに3月には、公正な循環型経済を実現する可能性が最も高い14種類の素材についてリストを発表した。2020年には、計算に基づき、携帯電話の価格をわずか1.50ユーロ引き上げるだけで、中国のある一次サプライヤーの労働者の生活賃金の保証を実現した事例を紹介した。報告書には次のように書かれている。

「つまり、製品の価格を1.50ユーロ引き上げることにより、生産ラインで働くすべての労働者の生活賃金を保証できるのだ。工場のすべての顧客が同様の方法で計算を行ったとすれば、すべての工場労働者が適切な生活賃金を受け取ることができるだろう」