「建設しないけれど、当社にはプラスになる路線」 地下鉄新線プロジェクトで東京メトロの見解が判明【コラム】

東京メトロ有楽町線・副都心線を走る新型17000系車両(写真:鉄道チャンネル編集部)

【前回】東京メトロ完全民営化へ どうなる地下鉄新線プロジェクト 国交省有識者委員会で議論
https://tetsudo-ch.com/11175660.html

2021年2月に本コラムで取り上げた、東京メトロの完全民営化に向けた動きの続報です。前回も触れたように、東京都は都心部の地下鉄新線として、①メトロ有楽町線の延伸線 ②都心部・品川地下鉄線 ③都心部・臨海地域地下鉄線――の3路線の整備(建設)を構想します。有楽町線延伸や品川地下鉄線で、建設・運行主体になる可能性のある東京メトロは、「会社発足時の約束で新線は建設しません」とし、都とメトロの主張は対立とまでいかないものの、食い違いをみせます。

今後の地下鉄ネットワークの方向性を託された国の有識者委員会は、2021年7月をめどに、国土交通大臣に答申(提言)するスケジュールです。有識者委の資料によると、メトロは一部路線について「当社にとってプラスになる路線」と認めているようです。東京の地下鉄はどうなるのか? 専門用語を極力避けて、ポイントを紹介したいと思います。

「新しい地下鉄は造りません」

最初に、前回コラムを要約します。メトロ株は国が53.4%、東京都が46.6%を保有し、2027年度までに株式を売却して完全民営化するスケジュールです。東京都は、冒頭に掲げた3本の新線(本稿でそれぞれ詳述します)を、整備してほしいと考えています。

新線は東京メトロが造って運営すれば良さそうですが、同社は営団地下鉄(帝都高速度交通営団)から民間会社になった時の約束で、「新しい地下鉄は造らない」と決まっています。そこで、東京都は「メトロ株の売却益を、新線の建設費に充当してほしい、3路線を誰が造って運営するかも決めてほしい」と国土交通大臣に要請。国交省は専門家による委員会で地下鉄の方向性を考えることとし、2021年1月から議論に入りました。

有識者6人による、交通政策審議会の「東京圏における今後の地下鉄ネットワークのあり方等に関する小委員会」は、これまで4回の会合を開いていますが、東京メトロと東京都の資料は非公表で、どんな主張をしたかは不明です。しかし、事務局を務める国交省鉄道局都市鉄道政策課が議論のアウトラインを公表しました。資料を基に、要点を路線別に記したいと思います。

「久喜発半蔵門・有楽町線経由森林公園行き!?」運転の可能性も

江東区の「有楽町線延伸整備計画報告書」表紙には、空撮写真と組み合わせた延伸線の路線イメージが示されます。(画像:江東区)

最初はメトロ有楽町線の延伸線です。新線は有楽町豊洲で分岐して北東方向から東陽町手前で北方に向きを変え、半蔵門線住吉につながります。有楽町線は東武東上線や西武池袋線、半蔵門線は東武スカイツリーラインとそれぞれ直通運転しますから、整備効果は路線図を見れば一目瞭然。あくまで想像ですが、「久喜発メトロ半蔵門・有楽町線経由森林公園行き」なんていう列車ができるかもしれません。

東京都は、①東京圏で最も乗車率の高いメトロ東西線の混雑が緩和される ②東京の国際競争力強化で拠点になる臨海部へのアクセス利便性が向上するーーの2点で、建設の意義を強調します。誰が造るかに関しては、「既存路線(有楽町線、半蔵門線)を含めた運行上や、技術的な観点から、メトロが整備・運行するのが合理的」とします。

メトロが「新線を建設しません」とする点について、都は「費用負担などについての整理が必要」の考えを示しました。メトロの「新線を建設しない」を認めた上で、「もう一度考え直しましょう」と主張するようです。

「メトロネットワークへの関連性はある」

東京メトロの見解も、若干微妙です。まず「完全民営化を目指す上で、新線建設は行わない方針」の原則を再確認します。その上で、「仮に建設への協力を求められるとしても、経営の健全性を崩さないことが大前提」と主張。つまり、「求められれば協力はしますけれど、お金は負担しません」ということです。株式を上場して純民間企業を目指す東京メトロは、利益を確保して健全経営を維持するのが最大の使命。当然過ぎる考え方です。

資料によると、メトロは「(有楽町線延伸は)メトロネットワークへの関連性はある」とします。有楽町線と半蔵門線がつながれば、便利になってお客さんは増えるでしょう。「新線はメトロにとってプラスになる」と認めているようです。

最近の鉄道新線は、建設主体と運行主体が分かれているのが普通です。例えば、相鉄・JR直通線は列車運行するのは相模鉄道ですが、建設したのは鉄道建設・運輸施設整備支援機構(JRTT)で、今もJRTTが施設を持っています。個人的見解ですが、「新線は都やJRTTのような公的セクターが建設して、開業後はメトロが運行する」が、現実的折ちゅう案かもしれません。答申を待ちたいと思います。

開業すれば十分に元は取れる

前回コラムで書き漏らしましたが、地元の江東区は2017年に「(豊洲~住吉間)整備計画調査報告書」を作成しています。要点をインデックス的に記せば、新線は豊洲ー住吉間約5.2キロ(営業キロ。建設キロは約4.8キロ)で、駅は有楽町線側から豊洲、ステーション1、東陽町、ステーション3、住吉の5駅。ステーション1、3は、駅名も位置も未定です。

国交省の試算では、新線の建設費は概算1560億円で、利用客数1日当たり27万3000人~31万6000人。費用便益性、いわゆるB/Cは2.6~3.0で、十分に元が取れる計算です。

メトロ南北線をリニアや羽田空港につなぐ品川地下鉄線構想

2案ある品川地下鉄線構想の路線イメージ。図を〝深読み〟すれば、Bルートが品川駅を地下で横断して港南口方向に延びる可能性があるのに対し、Aルートは大井町方面に延伸しそうにも見えますが……(画像:交通政策審議会)

2番目の都心部・品川地下鉄線構想。東京メトロ南北線・都営地下鉄三田線の白金高輪から分岐して、品川に至ります。図で見る限り、新線は品川止まりでJR線との相直はなさそうです。検討ルートは2案あり、都営地下鉄高輪台駅の北側を通るか、南側かの違いです。

都は「品川は、リニア中央新幹線や羽田空港への広域的な交通結節点。品川駅を都心とつなぐことで、都心部の発展に寄与できる。品川駅周辺の開発効果を広域に広げる可能性も大きく、地下鉄線構想を早期に具体化すべき」と主張します。

メトロの考え方は、有楽町線と同じなので省略しますが、品川地下鉄線に関しても「開業すれば、メトロにとってプラスになる路線」と認めているようです。

国交省の試算では、建設費は概算800億円で、利用客数は1日13万4000人~14万3000人。費用便益性は2.5~3.1で、有楽町線の延伸と同じく元が取れそうです。

東京駅から豊洲、有明へ

臨海部地下鉄線構想の路線イメージ。築地でメトロ日比谷線、豊洲でメトロ有楽町線、有明でゆりかもめに接続します。有明は東京臨海高速鉄道国際展示場駅にも接続しそうです。(画像:交通政策審議会、東京都提供)

最後は都心部・臨海地域地下鉄線構想。秋葉原が起終点のつくばエクスプレス(TX)を東京駅まで延伸、そこから銀座を経て、臨海部に向かいます。資料で路線イメージが示されましたが、東京駅からのルートは、築地、晴海、豊洲、有明と、晴海通り沿いを走ります。詳細は未定ですが、東京駅まではTX、そこから先はTXとは別の事業者が運営します。

東京都は、晴海、豊洲、有明といった臨海部の発展可能性に期待。「都内中心部と臨海部が一体的な地域として認識され、両地区の発展可能性に資する」と、こちらも事業計画を加速させるよう求めました。

東京メトロは有楽町線延伸線や品川地下鉄線と違い、「自社にとっての整備効果はない」としているようです。

コロナは都市交通の利用を変える!?

国交省は有識者委の資料で、「ポストコロナ社会における地下鉄整備のあり方」を提起しました。コロナはテレワークやワーケーションの普及などで、都市住民の働き方を大きく変えています。

国は現在、インフラや地域交通整備の指針になる「社会資本整備重点計画」や「交通政策基本計画」を策定中で、2つのマスタープランにウィズコロナ時代の交通サービスのあり方を盛り込む意向です。現在はほぼ停止状態にある訪日外国人旅行の再開も絡んで、国交省は「ポストコロナ社会の地下鉄整備のあり方について検討が必要」とします。

東京メトロは有識者委で、完全民営化後の事業展開について、ノウハウを持つ企業と連携して、いわゆる関連事業を強化する姿勢を示していますが、紙数が尽きたため紹介は次の機会に回したいと思います。国交省は2021年7月の答申に向け、6月にも2回の有識者委開催を予定します。

文/写真:上里夏生

© 株式会社エキスプレス