オードリー・タン氏「SNSは国を簡単に無視できる」

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世界中の民主国家がインターネットのもたらす課題に取り組む中、台湾の民主制度ではデジタルツールが浸透している。台湾は既に解決策を見出したのだろうか?オードリー・タン(唐鳳)IT担当相にインタビューした。

学校中退、ハッカー、世界初のトランスジェンダー大臣。タン氏はIT担当相として、台湾をデジタル民主国家の模範国にする任務を負う。遅くとも新型コロナウイルスの感染拡大を封じ込めたことを機に、世界中のメディアから取り上げられるようになった。

世界人権宣言(1948年)と国連の市民的及び政治的権利に関する規約(66年)の第19条は、次のように規定している。「この権利には、口頭、手書きもしくは印刷、芸術の形態または自ら選択した他の方法により、国境とのかかわりなく、あらゆる種類の情報や考えを求め、受け及び伝える自由を含む」。欧州では、欧州人権条約(1950年)により、表現の自由が法的拘束力のある権利として認められている(第10条)。スイスは、1999年に制定された連邦憲法第16条に、この基本的な自由を規定している。

しかし実際には、多くの争点が残る。世界中の多くの政府は表現の自由の権利を保護せず、むしろ弱体化させている。ある地域では、個人や集団が「表現の自由」という用語を盾に、差別的で悪意のある主張を正当化させている。普遍的な権利ではあるが、表現の自由は絶対的な権利ではない。それを確実にし、適用することは常に綱渡りだ。

swissinfo.chの新しいシリーズ企画では、スイスと世界中の表現の自由に関するさまざまな側面、課題、意見、進展に目を向ける。私たちは、市民がこの問題について自分自身を表現するプラットフォームを提供する。著名学者の分析のほか、世界全体、あるいは局地的な状況を掘り下げる。この春の後半には読者参加型の対話も計画している。

タン氏は独語圏の日刊紙NZZに、政府のためでなく、政府とともに働くというスタンスを取っていると語った。自身を予算と職員を抱える大きな省庁の長ではなく、政府と有権者および活動家を直につなぐ存在だと考える。

中国は依然として人口2300万人を抱えるこの島を領土の一部と見なす。台湾と国交を結ぶ国はごくわずかで、スイスも国交は結んでいない。こうした圧力の中、台湾は民主主義の模範国へと変貌してきた。英誌エコノミストがまとめた最新の世界の民主主義指数では、台湾はスイスの1つ上の順位に位置する。オンライン参加という画期的な制度が高く評価された結果だ。

swissinfo.ch現在のところSNS(ソーシャルメディア)は民主主義の推進力としてはあまり考えられていません。SNSを巡ってはヘイトスピーチやフェイクニュースなどの問題が多く取り上げられています。あなたもSNSに対しては同様に悲観的なとらえ方をしていますか?

オードリー・タン:私は楽観的か悲観的かという構図ではあまり考えません。社会にとって有益で、市民社会のためのインフラであるか。それとも反社会的で私企業の利益となるインフラであるかという構図で考えます。

社会にとって有益であろうと反社会的であろうと、SNSは社会的なものであり続けるでしょう。市役所での集会や、公園での公開討論会、学術的な場での政治討論会など、公共のインフラを使った人の集まりと同様なのです。

騒がしいバーや、大声を出さないと聞こえないようなナイトクラブで、お酒などを飲んだり、プライベートの警備員に出入口を見張らせたりしながら政治について話すこともできます。それも政治的議論と言えますが、あまり社会的に有益なものではありません。

このような物理的空間と同様に、デジタル空間にも様々な社会的交流の形態があります。台湾はひまわり学生運動をきっかけに独自のコミュニケーションインフラを構築してきました。その手法は「状況依存型アプリケーション(situational application)」と呼ばれることもあります。

そのため、私たちはコミュニケーションの必要性が生じたときに、自分たちでネット空間をプログラミングすることができます。SNSにはやや反社会的な側面がありますが、そこに照準を合わせるのではなく、ユーザーが望む形でインタラクションをデザインできるのです。これは台湾では25年も前から行われていることです。

swissinfo.chナイトクラブや公共の公園に言及されましたが、公共の公園には行動規範をいくつか定める必要があります。

タン:市役所はただの建物ではありませんよね。市役所は、交互に話し聞くという方法の規範のシステムです。このような規範は重要です。台湾は民主主義をテクノロジーの一形態として捉え、こうした規範をうまく体現してきました。台湾で人々がデモを行うのは、現行の民主プロセスに問題があると考えるからだけではありません。

デモは、物事をより良く機能させる方法を提示する手段にもなっています。台湾ではソフトウェアのレイアウトや公共の公園のデザインを試験的に変えてみることができますが、それと同じ感覚です。

前世紀は「教育がなければ民主主義には参加できない」とよく言われていました。ですが、今は「能力がなければデジタル民主主義には参加できない」と言われています。この点は強調しておきたいと思います。

能力と教育の違いは、教育が受容的である一方、能力は共創するということにあります。

swissinfo.chこうした能力はどのように獲得できますか?

タン:とても若い人たちに対して「民主主義に参加するには大人でなければならない」と言うのではなく、「いや、そのまま続けて、自分たちで住民発議を立ち上げなさい」と言うのです。住民発議の4分の1以上は18歳未満の人たちがネット上の民主制プラットフォームで提起したものです。国民的な飲み物のバブルティーでプラスチック製ストローの使用が禁止された例をみても、このような発議が非常に効果的なことが分かります。

ここで重要なのは生涯学習、世代間の連帯、(若い人から年上への)逆メンタリングです。また、とても若い人たちがアジェンダを設定できるように取り計らうことも重要です。そうすることで、彼らは大人になる前から民主主義に参加できていることが実感できます。

swissinfo.ch営利企業が運営するSNSを反社会的にさせないためには何が必要でしょうか?

タン:もし彼らが社会の利益のために取り組む心構えがあるのなら、彼らの既存インフラの多くは好ましいものになるかもしれません。その反対に、台湾で社会の利益に反する形で活動すれば、社会的制裁を受けることを彼らは知っています。

何が規範かを人々がしっかり認識できていれば、それに反する多国籍メディア企業が社会に受け入れられることはまずないでしょう。

一方、選挙資金の透明性などに関して社会的規範が確立していない場合、SNSは当然ながら国を完全に無視できてしまいます。

台湾では市民が文字通り議会を占拠し、透明性を要求しました。市民は監察院の中を歩き、選挙費用報告書のコピーを持ち出し、光学式文字読み取り装置(OCR)でスキャンして、デジタルデータにしたのです。

このように、選挙資金に関する根本的な透明性は努力の末に勝ち取られ、規範となりました。そのためフェイスブックは社会的要求を拒否できず、政治広告をリアルタイムで誰もが閲覧できるデータに変換しています。外国からの干渉や資金提供は、選挙資金のケースと同様に禁止されています。

台湾ではこれに関する法律は導入していません。(SNS運営企業の行動は)社会的制裁にのみ基づいています。

swissinfo.ch台湾はフェイクニュースに対抗する目的で「Humor over rumor噂よりもユーモアを」というスローガンを掲げ、SNS上の偽情報をソフトウエアを使って検知しています。フェイクニュースへの対抗策として、偽情報が広まる前にユーモアを交えて真実を伝えています。ねらいは、面白い事実を偽情報よりも早く広めることです。ファクトチェックの専門家も従事しているとのことですが、この認識で合っているでしょうか?

タン:その通りです。ファクトチェッカーの中には生徒が多数います。ファクトチェックをすることも能力の1つです。

swissinfo.chインターネット上のヘイト対策に関しても同様のツールはありますか?

例えばLINE上の情報にフラグを立て、それをインフォデミック(不確かな情報の拡散)への対抗ツールに送信することができます。

フラグが立てられると、LINEのダッシュボードには偽情報、詐欺目的の情報、ヘイトスピーチなど関係なく、今トレンドのものが表示されます。(何を表示し、表示しないかの判断は)とてもニュートラルなため、どの情報も真偽に関係なく拡散します。

拡散情報が必ずしも有毒だとは限りません。しかし、もしそうであれば早期に発見することが大事です。(早ければ早いほど)噂よりもユーモアの方が効果を発揮します。まさに「Humor over rumor」です。たった1晩何もしないでいるだけで、人はこうした拡散情報を長期記憶に結びつけてしまうのです。

偽情報が広まるのと同じタイミングで、例えば(偽情報が拡散してから)数時間以内にコミカルな情報を対抗措置として拡散すれば、人々を報復や差別、復讐ではなく、喜びを分かち合う方向に持っていくことができます。そうすれば人々の気分も良くなります。大切なのは早めの対応です。ネットの世界では、せっかくの計画も、数日手をこまねいていたら機能しなくなってしまうのです。

(独語からの翻訳・鹿島田芙美)