飾って履ける“超個性的”木製サンダルの世界 愛媛のげた工場×4人の障害者アーティスト

色鮮やかなデザインの木製サンダル

 愛媛県大洲市のげた工場がこのほど、4人の障害者アーティストの作品を布製のベルト部分にプリントした木製サンダルを発売した。ブランド名は絵を描くキャンバスとサンダルを掛け合わせた「Candal(キャンダル)」。障害者アートの魅力に目を付けた松山市のデザイン会社とのコラボだ。個性が際立つ作品とアーティスト紹介から、創作の歩みをたどり、その源泉に迫りたい。(共同通信=伊藤愛莉)

 ▽独自のキャラクターを生む

作品とコラボした「Candal」を手にし笑顔を見せる曽我部林造さん=3月、愛媛県西条市

 自分の絵がサンダルになると知り「驚いた」と話す曽我部林造さん(57)は、完成した木製サンダルを手に持ち、はにかんだ。

 曽我部さんは軽度の知的障害があり、通っている障害者施設では仕事の一環として絵を描き、デザインはハンカチなどにプリントして販売されている。

 独自のタッチと色彩感覚で多様なキャラクターを描き出す。フェルトペンなどを使って、下絵なしで人や動物を描き上げた作品は650点以上もある。すでに多くの公募展で受賞歴があり、個展やグループ展なども年に5回ほど開催する“大家”だ。「(作品を見てもらうのは)うれしい。みんなに見てほしい」と話す。

 40歳くらいから絵を描き始めた。作品のモチーフで多いのはニワトリ。その理由を聞かれ、「小さいころ飼っていたから」と笑った。山のふもとで動物に囲まれて育ったという。慣れ親しんだ動物たちが、しばしばモチーフとして登場し、独特の世界観を醸し出している。

絵を描く曽我部林造さん

 曽我部さんの作品には物語があり、積み上がった何枚もの作品ひとつひとつを、笑顔で説明してくれた。サンダルとコラボした絵のモチーフは「雨のしずく」だ。たくさんのしずくが仲良く遊んでいるという。よく見ると一粒一粒、動きや表情が違っていて面白い。

 ▽インパクトあるタッチ

 橋本大二郎さん(25)は4歳の時に自閉症の診断を受け、障害者支援施設に通いながら、自宅のパソコンなどで絵を描いている。言葉を話すより先に鉛筆を握り、広告の裏などに絵を描き始めた。自分の絵をお気に入りのかばんに入れて常に持ち歩いていたそうだ。

絵を描く橋本大二郎さん

 特別支援学校に入るころにはパソコンを使って絵を描くことを覚えた。言葉で表現するのが苦手で、しばしば絵で気持ちを伝える。

 口コミで評判が良かった大二郎さんの絵を、母の美和さん(53)が鉛筆やポストカードにして、フリーマーケットや地元の土産物屋などで販売してきた。ブランド名は大二郎の画廊という意味の「ディーズガレリ」。

 同じ世界観で何枚もの作品を描く大二郎さん。動物シリーズ、指シリーズなど自宅のパソコンは今までの作品のデータであふれている。絵を描いているところを見せてもらうと、迷いなく、ささっと数十秒で完成させてくれた。

橋本大二郎さんとCandal

 今回のコラボ作品は「四角シリーズ」。ポストカードにするには微妙なサイズだったため、見せる機会がなかったが、数枚の作品を組み合わせて、ベルトに仕上げた。

 近年は、本人も周囲の人も楽しめる空間づくりをしようと、アートパフォーマンスに力を入れている。現在は幼稚園横に建設中の多目的施設の壁画を制作中だ。美和さんは「パフォーマンスは幼稚園児に見てもらっている。本人も楽しそうにニコニコしている。絵で表現することができて、大二郎は幸せ」と笑う。

 ▽日々の記録が作品に

 「しごとはじめです」「バウムクーヘンのタルトをくれてたべました」。カラフルなベルトをよく見てみると、柄になっているのは余白を埋めるように書かれた文章だと気づく。言葉の途中で色をかえるなど、色分けのセンスが光るデザインは、もともと山本好伸さん(61)の日記だ。

山本好伸さんが描いた日記デザイン

 山本さんは足が不自由で、「障害者支援施設スマイル」に入所している。新型コロナウイルスの影響で直接の取材が難しく、同施設の職員を通じてやりとりした。山本さんは自室で、毎日欠かさず空いた時間にその日あった出来事などを、ノートやチラシの裏、自分の書いた習字や絵手紙にフェルトペンを使って書いているのだという。

山本好伸さんとCandal

 2018年ごろから日記が作品として評価されはじめ、ラッピングペーパーとして商品化されたり、アートイベントや地元の中学校で展示されたりするようになった。施設の職員田村恵理さん(41)は「書くこと自体への関心があり、表現への姿勢が作品に芸術性を与えているように思う」と話す。

 絵を描くこととカラオケが好きな山本さん。日記にも「(十八番の)『男なら』をうたいました」という文が頻繁に登場する。コラボした作品はずっと書いてきた日記のほんの一部だが、山本さんの日々の生活をのぞき見しているような楽しさが味わえる。

 ▽豊かな画材で斬新な表現

 有重麻由さん(27)のアーティスト名は「mayutamago」。たまごから殻を破って成長していくという意味を込め、母の記子さん(57)が付けた。小学校の頃からお絵かき教室に通い、絵だけでなく、五感を刺激する陶芸などの制作活動を続けてきた。水彩やアクリル絵の具、クレヨン、フェルトペンなど幅広い画材から、固定観念にとらわれず使うものを選ぶ。

 聴力が弱く、知的障害と言語機能障害がある麻由さんはコミュニケーション方法も多様で、言葉以外に口の形や表情を読み、手話を交え、写真や絵を見せるなどして気持ちを伝え合っている。

有重麻由さんと「夢みるき・り・ん」

 18年には愛媛県美術館で個展が実現した。個展のポスターとして使った「夢みるき・り・ん」は代表作になった。今回コラボした作品はキャンバスにアクリル絵の具やフェルトペンで描いた抽象画「はじまりの始まり」。「キャンバス画に初挑戦した作品だから」と記子さんが名付けた。

有重麻由さんとCandal

 「作るものすべてが作品と言えるのではない。ほとんどはボツ」と二人三脚で作品を作ってきた記子さんは言う。作品を作るときと、遊びで作るときは分けて考えているそう。「創作を続けるのはエネルギーもいるし、経済的負担もある」と話し、「できる範囲でいろいろ挑戦させながら、親も麻由も人生が終わるときに楽しかったと思えたら」と続けた。サンダルができた感想を聞くと、麻由さんは手話でうれしかったと伝え、笑った。

 ▽置けば彩り、履けばぬくもり

デザイン会社「シンプル」代表取締役の正岡昇さん

 企画の仕掛け人になったのは、デザイン会社「シンプル」(松山市)の代表取締役正岡昇さん(46)だ。障害者アーティストとクリエーターが参加するイベントに自らも加わったことがきっかけで、個性豊かな作品と商業デザインを結びつけたいと考えていた。

 正岡さんが取引先のげた工場「長浜木履(もくり)工場」の斉藤若子社長に声を掛け、コラボが実現。斉藤さんは元々障害者アートに関心を持っていた。「独特の雰囲気で印象に残り、ひかれる」と話す。障害者が働く作業所の工賃が低いなどと聞いて気にかけていたこともあり、「何か力になれれば」と快諾した。

 長浜木履工場は1949年創業で、6人の職人を抱える。阿波おどりなどの祭りの踊りげたも扱う。主に四国産ヒノキの間伐材を使っている。

 正岡さんは4人の作品を「個性豊かで型にはまっていない」と評価し、4人にとってさらなる活躍のきっかけになればいいと願った。デザイン性を重視した宿泊施設などに置いてもらうことを狙う。「一過性のものにせず、ブランドとして広げたい」と話した。今後、コラボするアーティストを増やしていく予定だ。

「長浜木履工場」の斉藤若子社長と4種類の「Candal」=3月、愛媛県大洲市

 斉藤社長は「玄関に置けば彩りになり、履けば木のぬくもりを感じる。障害者アートに関心がある人だけでなく、みんなに手に取ってほしい」と呼び掛けている。

 Candalは一足4380円で、24センチと25・5センチの2サイズ。購入はオンラインショップ「わとみ」などから。

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