【追う!マイ・カナガワ】横浜駅まで行かない横浜線(下) そもそも路線名の由来は

横浜駅に到着した横浜線からの直通電車(奥)。平日朝夕のラッシュ時は、ここまで来る横浜線はごくわずかだ=横浜駅

 東神奈川駅(横浜市神奈川区)と八王子駅(東京都八王子市)を結ぶJR横浜線はなぜ、その大半が横浜駅まで行かないのに横浜線を名乗るのか? 長年の利用者という相模原市在住の男性会社員(35)から、神奈川新聞の「追う! マイ・カナガワ」取材班に“怒り”が寄せられた。通勤通学で横浜方面へ向かう際、一つ手前の東神奈川駅で乗り換えの憂き目に遭った人は数多いはず。昨年末まで東京都町田市在住で、横浜線を使って関内駅(横浜市中区)まで通勤していた記者もそう思っていた。「なぜ、東神奈川行きなのに横浜線なの?」

■開業時の名残

 そもそも、横浜駅を通らないのに、なぜ「横浜線」なのか。JR東日本横浜支社の広報担当者に「開業時の名残ですが、詳細は国鉄百年史を読んでいただければ」と言われ、図書館に向かった。

 1969~74年に全19巻が刊行された百年史によると、横浜線のルーツは八王子などで生産された生糸を横浜港へ運ぶための私鉄「横浜鉄道」で、1908(明治41)年9月に東神奈川-八王子間が開業した。

 開通当時は旅客輸送と貨物輸送が混在。横浜鉄道は東神奈川駅近くに岸壁や倉庫を造る計画で、開通当初は貨物輸送を重視していたようだ。

 京浜東北線は前身が国によって14年12月に開通し、東神奈川駅で横浜鉄道との乗り換え駅になった。

 その後、横浜鉄道は17年10月に国有化され名称は「横浜線」になった。戦後は沿線の宅地開発や東海道新幹線の開通などで横浜、相模原、町田、八王子市などの人口が右肩上がりに増え、通勤電車としての現在に至る。

 直通運転が始まった当初は大盛り上がりを見せたが、全ての電車を横浜駅に直通することは当時から難しかったのか。専用のレールを敷いていれば解決できたのでは…いろんな考えを思い巡らせ、改めて同支社に尋ねると「当時の詳しい資料がないので分かりません」と申し訳なさそうな声で言った。

■取材班から

 相模原市の男性が寄せた疑問の文面からは、横浜線ユーザーのストレスの大きさを感じました。

 記者はJR東日本の担当者に、橋本にリニア中央新幹線の駅ができれば横浜線の存在感が高まって変化のきっかけになるのでは─と問い掛けましたが、「リニアはJR東海なので…」とかわされました。

 「路線名を東神奈川線に変えることはないですか?」とも追及しましたが、「それはありません」と笑って否定されました。

 残念ながら横浜線の受難は今後も続きそうだと言わざるを得ません。

■評論家「名前が強すぎる」

 かつて町田市に10年ほど住んでいたという鉄道評論家の至道薫さんに、横浜線について聞いた。

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 東神奈川で乗り換えて横浜に行くのは切ないし、もどかしさを感じますよね。全ての電車を横浜に直通させたいのはJRの悲願のはず。でも課題が多すぎる。

 直通を増やすのが難しい理由は二つあり、一つはダイヤの空きですね。

 東神奈川駅から横浜、大船方面への京浜東北・根岸線は、JR東日本でも屈指の黒字路線。朝ラッシュ時は1時間最大14本の過密ダイヤ。横浜線も黒字路線だけど、稼ぎ頭の京浜東北線を減らしてまで増やすのは非効率的で、実現性は限りなく低い。

 ダイヤに余裕のある横浜駅の東海道線下りホームに入れる案もありますが、工事費用と効果を考えれば現実的ではないでしょう。

 二つ目は横浜線利用者の特徴で、長距離より短距離が多い。東神奈川から八王子に向かって南北に走る横浜線は、途中の菊名(東急東横線)や長津田(同田園都市線)、町田(小田急小田原線)、橋本(京王相模原線)で東京都心に向かう主要私鉄との乗り換えがある。

 そのため、最寄り駅から私鉄の乗り換え駅までの短い区間の利用が多く、相模原や町田から横浜まで長く乗る人は少数派。横浜線はそうした沿線の特徴を生かして収益を出しているから、JRにとっては今のままがベストなのでは。

 それでも横浜駅へ行かないことに不満を感じる人が多いのは、横浜駅が買い物や乗り換えなど、あらゆる面で便利だからでしょう。(茅ケ崎と橋本を結ぶ)相模線も相模原駅に行かないけど、不満を言う人はほとんどいない。「横浜」の名前が持つ力が強すぎるのではないでしょうか。

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