伝説のイノシシ悪魔が現代に降臨!? インドネシアの盗難騒動で濡れ衣を着せられ…

気の毒なイノシシ(写真はイメージ)

【アツいアジアから旬ネタ直送 亜細亜スポーツ】インドネシアで、神話や民間伝承に出てくるイノシシの悪魔「バビンゲペット」が出没する怪騒動があった。

大金が欲しいと願う人間が、ある種の魔力を黒魔術で注入されたローブをまとうと醜いイノシシに変身。これがバビンゲペットで、人家の壁や柱に体をこすり付けたり引っかいたりして方々を徘徊する。黒魔術が解けると、その人間のそばには魔力で盗んだ大金や宝石などがローブに包まれ残されている、と伝えられている。

西ジャワ州デポック市のバダハン村ではこの1か月、家の現金が紛失する事件が相次ぎ、これがバビンゲペットの仕業だと考えられた。村人たち総出で捜索し、先月27日に見つけたイノシシを“犯人”として捕獲。なんと殺して、二度と化けて出ないよう首まではね、村の片隅に埋めた。

ところが、騒ぎを聞きつけ出動した地元警察が死骸を調べたところ、特に不審なところもない普通のイノシシだと分かった。さらに事件と前後し、村に住む女性ワティさんが「バビンゲペットに化けて盗みを働いたのは、ウチの隣の家の連中に違いない」と騒ぎだし、火に油を注ぐハメに…。

「隣人は失業中で働いてもいないのに、随分と裕福そうだ」とワティさんが決めつけ、吹聴する様子がインスタグラムで拡散すると、この“イノシシ悪魔事件”はインドネシア全域で知られることとなった。SNSでの反響はあまりに大きく、村人たちから抗議を受けたワティさんは「私が話したことは全てウソ」と謝罪。デマを広げて村にいづらくなり、引っ越していった。

警察がさらに捜査を進めると、問題のイノシシの持ち主が判明。村人のウスタッズ・アダム・イブラヒム容疑者(44)が、90万ルピア(約6900円)でネット購入したものだった。「有名になりたかった」という短絡的な理由からイブラヒム容疑者はイノシシを村に放ち、「自分の家からお金がなくなっている」などとウソをつき、バビンゲペットの噂を流したと供述している。

ただのイタズラでは済まされず、イブラヒム容疑者は先月29日、虚偽のニュースを広めた疑いで逮捕。今も勾留中で、本人は「村の人々に謝罪したい」と反省しきりだが、最大10年の禁錮刑が科される可能性もある。

バビンゲペットにまつわる話は不況になると増えてくるという。インドネシアでは、新型コロナウイルスの新規感染者数が1日5000人あまり。ピーク時(2月1日)の40%だが、ロックダウンが長引き経済も苦しい。いつの間にか金がなくなり生活が厳しくなるのを悪魔のせいにしたい気持ちも分かるが、今回ばかりはやり過ぎだろう。

☆むろはし・ひろかず 1974年生まれ。週刊文春記者を経てタイ・バンコクに10年居住。現地日本語情報誌でデスクを務め、2014年に東京へ拠点を移したアジア専門ライター。最新著書は「バンコクドリーム『Gダイアリー』編集部青春記」(イースト・プレス)。

© 株式会社東京スポーツ新聞社