崖っぷちで死を決意した人の姿の写真集、私たちが見た蘇った姿【東尋坊の現場から】

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NPO法人「心に響く文集・編集局」が発刊した写真集「蘇」

 新型コロナ禍の影響によるためか、5月病 (新学期後の疲れ、新入社後の心の不安など) で苦しみ自殺まで考えている人が大勢います。 私たちは東尋坊で悩み事相談も受けていますが、5月9日の日曜日は午前中から6件の深刻な悩み事相談がありました。その相談は全て女性の方でしたが、その相談内容を掻い摘んでここで紹介します。

・息子が自死で亡くなり生きていく望みがなくなった…

・息子が約15年前から精神障害になり薬物治療を受けているが治らない、もう看護するのも疲れた…

・最近仕事が忙しく職場での失敗が多くなった。もう生きていくのが嫌になった。皆さんに迷惑ばかりかけている、生きている値打ちのない人間失格者だ…

など、うつ状態になっている人たちからの相談でした。

 こんな人たちが長期間独りで悩み、苦しんだ挙句の行動を想像すると末恐ろしく思います。悩んだ時は、とにかく誰かに相談してみてほしいと思います。

 私たちNPO法人「心に響く文集・編集局」では2020年中に東尋坊の岩場で33人の自殺企図者と遭遇しましたが、今回その中の17人から承諾を得て遭遇した時の横顔の写真を撮り写真集にして出版しました。その写真集のタイトルは 「蘇」 (よみがえる)です。 

 どんなに美しい美辞麗句を並べて説明しても、写真や動画に勝るものは無いと思います。

 東尋坊の風景は、世界でも有数の巨大な安山岩柱状節理から成り立っており、その岩が日本海に幾重にも重なり合って突き出ている素晴らしい景色がありますが、その陰には悲しい人生があります。この両面を一つの写真集に収めたいと思いました。

 枯れかかっている草花も、水を与えれば見事に「蘇って」きます。また、人生に疲れ、自らの力で自分の命を閉じようとしている人もいますが、愛の「一声」を掛けてあげれば見事に「蘇って」きます。この現実を、皆さんに知っていただきたいとの思いからです。

 勿論、写真集にして多くの人に見てもらうのですから個人情報保護の観点から相手から承諾書を書いて頂いて発行したものです。

 この写真集を通信社から全国に向けて発信してもらったところ、賛否両論の意見が多く寄せられましたので、その一部をここで紹介します。

・これは盗撮だ…!

・生かすことが正義…?? 死ぬことは絶対悪なの…?? 自然死まで苦しみ続けさせるの…?

・この活動は良い取り組みだと思うが、保護してハイ警察へ…、ハイ生活保護…、根本対策をしないとありがた迷惑だ…!

・生きる権利、死ぬ権利、死にたい人は静かに死なせてあげては…

・自死はとにかく「消えたい」「楽になりたい」「安らかに眠りたい」との願いだけ

・この写真集にタイトルがなければ、ただの素人が撮った観光客の後ろ姿…

・20代の時に自殺未遂や自傷行為をしたが、今ではあの時の自分が不思議でしかない

・一歩足を前へ…、足元の台を離せば…、しかしあの時、恐怖心や子どもの事が頭をよぎったため自殺ができなかった。数年後、今は生きていて良かったと思っている。一人でも多くの命を救ってあげてほしい…

・この写真集は活動している方しか撮れない写真集であり、今までに見たことの無い類の写真集です。纏まっており独特の雰囲気を感じる事ができ本当に有益な写真集だと思います

・この写真集を全国の図書館、学校、市役所(特に議会)に備えよう!

 私は皆さんからいただいたご意見について真摯に耳を傾けているつもりです。

 私たちは、今日までの17年間で716人の自殺企図者と東尋坊の岩場で遭遇し、ともに泣いて話しをお聴きし、抱えている悩み事を取り除くために色んな支援活動をし、ほぼ全員が再起を果たしている現実があります。私はこの現実に接し、誰しも「本心から死にたいと思っている人はいなかった」、皆さんが「私を助けて下さい…」と叫んでいる声を聴いてきました。

 こんな私たちの活動を批判する人もいます。たしかに批判する方が思い描いたような理想的なサポートの在り方とは隔たりがあるかもしれません。しかし、私たちは現実的にできることを全力で取り組んでいます。命を絶つまで思い詰めなければいけなかった悩みに寄り添いながら、解決へ向けた道を一緒になって切り拓いてきました。

 ぜひ悩みを抱えている方に声を掛けてみてください。生きる希望を失った人に再び光を見せるのはとても難しいことかもしれません。再生への道も決して平たんではありません。東尋坊の岩場のようにゴツゴツとした険しい道かもしれませんが、この険しい道を乗り越えた時、東尋坊の風景のように、誰もが感動する素晴らしい世界が待ち構えているのだと思います。

 この写真集でそこまで読み取ることは難しいかもしれませんが、著者である私はこんな思いを込めて今回発刊しましたのでご理解頂けたら幸いです。この図書の購入ご希望の方は私たちNPO法人へメールまたは電話でご連絡ください。

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 福井県の東尋坊で自殺を図ろうとする人たちを少しでも救おうと活動するNPO法人「心に響く文集・編集局」(茂幸雄代表)によるコラムです。

 相談窓口の電話・FAX 0776-81-7835