中朝、国際社会の監視避け「山奥」に輸出加工区を設置

北朝鮮・咸鏡北道(ハムギョンブクト)の茂山(ムサン)は、北東アジアで最大規模の鉄鉱石埋蔵量を誇る「朝鮮の宝」こと茂山鉱山を擁している。鉱山は、中国企業からの投資を受け設備を拡充、対中輸出が順調だったころには労働者に高額の給与を支払っていた。

ところが、国連安全保障理事会の対北朝鮮制裁、中国政府の大気汚染対策、新型コロナウイルスなど悪材料が積み重なり、稼働率は激減。ヤマを降りる労働者が続出し、町はすっかり寂れてしまった。

そんな茂山から久々に明るいニュースが届いた。

デイリーNK内部情報筋によると、北朝鮮政府は鉄鉱石生産の拡大、運搬の円滑化のためには設備の現代化がまず行わればならないと判断、そのために中国の投資を誘致するプランを模索してきた。

中国では、鉄鉱石のみならず、亜鉛、マグネサイトなど北朝鮮産の鉱物に対する需要が高いことを考慮し、鉄鉱石輸出のインフラがある程度整っている茂山を輸出特区に指定することにしたのだ。

国営の朝鮮中央通信は先月29日、次のように報じている。

茂山輸出加工区を設けることを決定

【平壌4月29日発朝鮮中央通信】朝鮮民主主義人民共和国最高人民会議常任委員会は、咸鏡北道茂山郡セッコル里の一部の地域に茂山輸出加工区を設けることを決定した。

茂山輸出加工区には、朝鮮民主主義人民共和国の主権が行使される。

これに関する最高人民会議常任委員会の政令が、24日に発表された。---

情報筋によれば、中朝両国はこの発表を控え、事前協議を行っていたという。

「輸出加工区設置を決定したのは朝鮮だが、朝鮮自らができることは何もない。中国の協力がなければ、過去の真島(チンド)や臥牛島(ワウド)のようになかったことにされてしまう」(情報筋)

北朝鮮の経済特区と言えば、2002年に中国の新興財閥・中国欧亜グループの楊斌(ヤンビン)前会長を行政相を迎えて進めようとした例がある。中国の横やりで頓挫してしまった新義州(シニジュ)特区だ。また、2013年にも13の経済開発区と新義州特区を設置する方針が示された。しかし、これも国際社会の制裁などで計画倒れに終わった。南浦(ナンポ)市にある真島や臥牛島も、その対象に含まれていた。

別の情報筋は、真島や臥牛島は中国から距離的に離れているため、輸送に時間とコストがかかる点で限界があったが、茂山は川向うが中国というロケーションで、川幅も狭いため、すぐに輸出入ができるメリットがあると指摘した。

対岸の中国・吉林省の和龍市南坪鎮は、大消費地からは遠く離れているものの、海関(税関)周辺には様々な施設が整っており、2010年には53.3万トンの貨物が輸出入され、3万2000人が行き来した実績がある。

制裁破りに目を光らせている国際社会の監視の目が届きにくい山奥の、ごく限られた地域で、鉄鉱石の輸出入にとどまらずアパレル、カツラ、アクセサリーなどの加工工場まで誘致しようというのが狙いだろう。また、国境沿いの中国側には、工業団地の和龍辺境経済合作区があり、北朝鮮の労働力を派遣するにも都合がいい。

ただし、今の時点では中国からの投資で具体化した案件はないとのことで、輸出加工区の設置を発表することで、投資を呼び込もうとする意志があるものと思われる。

デイリーNKの北朝鮮国内の高位情報筋は「経済封鎖(制裁)が負担にならないわけではないが、それよりも経済のための対策が急がれると見ている」「輸出加工区の設置で、中国から投資を引き出すと同時に、米国が対話と対決のどちらを選ぼうとも関係なく、われわれはわれわれの道を行くことを見せつける目的がある」と述べた。

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