【大学野球】「この日のために準備してきた」“桜美林大を変えた”控えキャプテンのV打

桜美林大・松江京【写真:川村虎大】

0-0の7回チャンスで主将・松江が代打「打たなきゃヤバいと」

単なる決勝打ではなかった。ずっとベンチを支えてきた主将のバットから生まれた快音に、意味があった。16日に等々力球場で行われた首都大学1部・春季リーグ戦。桜美林大は3-0で日体大に快勝し、通算6勝2敗で2016年秋以来2度目の優勝を視界に捉えた。殊勲者は、この春ここまで出場がなかった松江京(まつえ きょう)主将。選手、監督が揃って「松江のおかげ」と話すチームの支柱が、グラウンドでも主役になった。

前日15日、日体大に2-4で敗れて5勝2敗に。2連敗となれば、日体大と勝率が並ぶ。なんとしても勝たなければいけない試合は、6回まで両チーム無得点の展開。空気が変わったのは7回1死一、三塁で、「代打・松江」がコールされた時だった。

「この日のために準備してきたようなものでした。ベンチを見たら、打たなきゃヤバいと思いました」

松江は腹を決めた。日体大・筒井が投じた3球目を右中間へ。均衡を破る先制タイムリーとなった。勢いに乗ったチームはさらに2連打で2点を追加。守っては先発の多間が6安打6奪三振で完封した。

たとえ試合に出ずとも、松江は“絶対的存在”。首位に立てているのも「松江のおかげ」と選手らからの信頼は揺るがない。ベンチで常にコミュニケーションを心がけ、時に厳しく接することも。苦しい時、ベンチから発する声が、グラウンドのナインを奮い立たせてきた。

チームはあと1勝で優勝確定も、松江は不在が決まっている

だからこそ、津野裕幸監督は勝負所で松江を代打に送った。「犠牲フライでもボテボテの内野ゴロでもいいから、松江で点数が取れれば勝てると思っていたので。ヒットまでは考えていなかったけど」。想像を上回る快音に、目を細めた。

東京・二松学舎大付でも主将を務め、教員になることを志して桜美林大に進学。1年生の頃から「主将は自分しかいない」と考え、行動や姿勢で選手らの手本になった。

「自分が桜美林大を変えるつもりでここまでやってきたので、それが結果につながっていると思います。技術面もそうですが、試合の重要な要素は人間性だと思っている。落ちているゴミを拾っても野球が上手くなるわけではないですが、接戦とか緊迫した場面では、そういう部分が結果につながると思っています」

小さな積み重ねはこの春、勝利という形で結実しつつある。次戦の東海大との2戦で1勝でも挙げれば優勝が決まる。ただ、松江はベンチにもいられない。教員免許取得のため、母校・二松学舎大付に2週間の教育実習に行くことが従前から決まっていた。

大黒柱不在に津野監督も不安を感じているが、松江自身に心配は一切ない。「自分がいなくても勝てるチームだと思いますし、『それで勝てなかったら先生怒りますよ』って、選手らを笑わせてきます」。チームをあと一歩のところまで引き上げた縁の下の力持ちは、仲間を信じて吉報を待つ。(川村虎大 / Kodai Kawamura)

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